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正しい期待・その③中学生の葛藤

競争から生じる社会的な感情

中学生になると、溢れ出る感受性を処理しきれず内面で葛藤するものです。自分の中で起こったことを言葉でうまく表現できずに苦しむかもしれません。中でも「感情」は、本人の意志とは関係なく突如やってくるため、それに対処するパターンがまだ形成されていないうちは自分自身が振り回されてしまうでしょう。
「うれしい・楽しい・安心・うらやましい」などの言葉は小学生のころから慣れ親しんだ言葉なので、これらの気持ちには対応しやすく周囲からも理解してもらいやすいものです。

しかし中学からは個人間の「競争」が始まり、感情が複雑化します。勝ち負けや他者との比較によって生じる様々な気持ちと向き合わなくてはなりません。楽しかったはずの友人関係は少しずつ変化し、競い合わなくてはならない戸惑いや疑問、不安に襲われ、友好関係の足を引っ張るかもしれません。
誰かに勝つことによる優越感安堵、負けたときの劣等感屈辱など、これまでとは質の異なる「社会的な感情」が生じるようになり、それまで平和だった心がだんだん窮屈になり始めます。
未だ「競争」がベースの社会ですから、この先もずっとこのような感情と付き合っていかなくてはならないことを、大人は子どもたちに丁寧に説明してあげるべきです。

私も多くの子たちに何度もこの話をしました。子どもたちを脅すためではなく、準備させるためです。無垢な心がみすみす傷つくような進路をたどってほしくないからです。
複雑に混じり合う自分の感情に関心を持ち、それらを言葉で表現して処理する一連の解決方法について教え、見守ってあげましょう。

仲間との関係づくり

人間関係が深まるとともに個々の「キャラクター」が固まり始め、それを頼りに交流するようになります。大人の社会でもそうですが、キャラをうまく使えばグループでうまく立ち回ることができ、そうでないと空回りすることもしばしば。
周囲の要求を理解して自分のキャラを作りあげる子もいれば、自ら考えだして自分のキャラを設定してしまう子もいるし、いくつかのキャラを器用に使い分ける子もいます。
こうして暗黙のうちに定まっていくキャラがその子たちの顔となり、グループのバランスが保たれます。1対1でのやりとりで見せる性格とグループ内で表す性格でキャラが変わる(※使い分けする)ようになり、これが社会性の獲得の第一歩といえましょう。

※使い分けは本来あまり良しとされず、昔は外面(そとづら)がイイという言葉で皮肉を言われたものです。
しかし、私はそういう彼らの性質をむしろ評価すべき対象と見ています。使い分けできるのは人間関係の機微を理解している証拠であり、安心の意を込めて。

そんな彼らに対し、大人は以下のように伝えて期待をかけてあげると良いでしょう。

◎友人関係を作り始めた子どもに言えること
・グループの一員としてがんばっているね
・その調子で自分のキャラを生かし、精いっぱいそれを演じて楽しみなさい
・しかしあなたのキャラは必ずしもあなたの本質的な性格や性質を表さない
・キャラクターを演じるあまり、本来の自分を置き去りにしないように
・周囲の強い要求がプレッシャーとなり、苦しくなったときは、いったんグループから避難しなさい

つまり、自分自身とキャラを同一視しないようにという助言になります。
メンバーを助けてあげなさい、迷惑をかけないようにしなさい、皆のお手本になりなさい、などの高度な要求もかまいませんが、その子のキャパを超えないよう気をつけましょう。

多感な思春期と片づけないで

中学の時期、彼らはたくさんのことを学びたがります。
気になることが多く、安心を求めて多くの情報に触れたがります。

◎大人は次の問いに回答できますか?
・なぜ勉強するのか、進路とは何か、将来とは何か。
・上下関係って何? 友達とはなにか? 自分とはなにか?
・自分の見た目は変じゃない? 自分は嫌われてる?
・仲間との会話(SNS)が上手くいかない、皆どうやってるの?
・何を頼りに毎日をがんばればいいの?
・助け合いとか尊重とかって、いったい何なの?
・自分を大事にしろってどういうこと?
・困ったら相談しろっていわれるけど無理だよ?

回答例はまた別の機会に紹介しますが、やることは「対話」です。答えを急がず、彼らの疑問の背景にある「戸惑い・不安・不満・失望」が何であるかに関心を寄せましょう。

彼らは中学の3年間で一気に大人に近づきますが、大人になるとはどういうことかをきちんと教わらないまま過ごしては不足です。
「自分をコントロールする方法」を教え実践させましょう。これを学びそびれるといろんなことが鬱陶しくなり、自分で自分についていけなくなります。自己嫌悪で苦しみ、長い停滞の時期に突入する子も多く見てきました。
繊細で感覚の鋭い子が増えており、今後ますますこの分野の指導やサポートが必要となるでしょう。

彼らの感受性と個性をみすみす欠点にさせないように。
多感な中学の時期を「思春期」と片づけないでください。
自分の内面と折り合いがつくよう、やり方を教えてあげてください。
がんばって社会性を発揮し始めた子に「よくやっている」というねぎらいの言葉を忘れないでください。

それがこの時期の子たちへの正しい期待のかけかたです。

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