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誕生日前日は泣いて過ごした

行事のたびに落ち着かない利用者がいる。

 
推測としては、自分が主役ではないことや自分の思い通りにならないことが気に入らないようだ。
職員が忙しく、自分をかまってくれないことや、他の利用者が目立つことが嫌なようだ。
準備により、すぐに始まらないことも気に入らないようだ。その利用者は待つことが大の苦手だ。

 
行事を企画し、行事の司会をするたびに、行事の支援に入るたびに、その利用者がいつも悩みの種だった。

レクレーションをしようとすれば大声を出したり、暴れたり、司会席を乗っ取ったり、他の利用者にちょっかいを出して上手く進行しなかったり、トラブルの原因になりやすかった。

 
その日も開始直前に司会席に荷物を広げた。
他の利用者が遅刻してくるので、それに合わせて30分遅れて行事を開始する予定だったため
暇を持て余したようだ。
座席はたくさんあるのに、よりによってなんでそこに座るんだろう、というところに座った。

いつものことだが
いつもこのパターンで内心いらだった。

 
「ここは真咲さんが司会で使うから、○時に他の椅子に座ってもらえるかな?」

私はやんわり言ったが
それがきっかけでその利用者が大荒れした。

そしてその言葉かけが悪いと同僚から指摘された。

 
邪魔者扱いされたように感じるからそう言ってはいけない、と。
その利用者に役割を与え、その利用者をかまうことで気を逸らすことがいいだろう、と言われた。

 
だけど、内心私は苛立った。
それができたら苦労はしない。

 
一人の遅刻のために行事を30分開始を遅らせる必要はないのではないか。
だからみんな待ちくたびれてグダグダした雰囲気になってしまった。

私以外が行事を考え、行事の司会進行をすればいいのではないか。
対応を十分に分かっている職員がそれをやればいい。
毎月毎月行事のたびに進行を邪魔され、私の対応が悪いせいならば、私以外がやればいい。

私には無理だ。
荷が重い。

 
役割を与えるとはいっても、気が乗らなければ全くやらない。むしろ逆効果だ。
その利用者に役割を与えて周りの利用者もまねをしたら?羨ましがったら?
暴れる人がかまってもらえて、役割を与えてもらうことに周りの利用者が何も思わないわけではない。
毎日毎日暴れたり、暴言を吐くことで周りも「またか…。」と思っている。
役割を与えるとやりすぎてしまい、調子に乗って周りを巻き込んだり、押しつけたりもしやすいのが悩ましかった。

 
職員が複数人連日休んでも私は文句も言わずに頑張ったよ。
連日その利用者の送迎をするよう命じられ、送迎するたびにトラブルがあっても、私は文句を言わなかった。

 
行事だっていくつもいくつも私が企画、司会進行、報告書作成。サービス残業。
でも文句は言ってないよ。

だけど、準備に力を入れても
その利用者が不穏になると進行がめちゃくちゃになって
それで周りから責められたら私はどうしたらいい。

その利用者と関わるのが嫌になってしまう。

 
その日の行事は職員が他の仕事があるから少人数でやった。
やるように言われた。

それを判断したのが上なら、上の責任もあるのではないか。

  
嫌だ。
もう嫌だ。

こんな状態なのに、創立記念日の式典で司会進行なんてやりたくない。

 
どうせまたこの利用者が荒れるんだ。
私が対応をしくじると私が悪くなるんだ。

嫌だ。もうめちゃくちゃにされたくない。責められたくない。責任おいたくない。嫌だ。嫌だ。

 
そんな風に心は叫んでいたけど
私は何も言わなかった。

 
力がない私が悪いから。
やったことやできないことばかり羅列するのは幼いから。

 
本音を言っても分かってもらえないと思ったから。

 
涙が込み上げたけど
私は心を殺し、パソコンに向き合った。

 
行事担当をすると、報告書作成までが仕事だ。
毎月毎月行事の日はサービス残業だ。
早く仕事をおわして早く帰りたい。早く一人になりたい。
そんな気持ちでいっぱいだった。

 
なんて誕生日前日だろう。

気落ちした金曜日だった。
明日明後日が休みなのは嬉しいが
休みが楽しみではなくなってしまった。

 
帰り道、奥華子の「帰っておいで」を聴いた。
こんな日は早く寝るのが一番だ。

仕事に向いてない。
ここの仕事に向いてない。
仕事に行きたくない。

 
そんな気持ちでいっぱいな時
新施設長からLINEが入った。

「(前略)短時間で文章をたくさん書いてくれて(報告書作成)、ありがとうございます。」

 
私はポロポロ泣いた。
涙が止まらなかった。

頑張りを認めてほしかった。
仕事を褒めてほしかった。

ただそれだけだった。

 
あぁそうだ。利用者もきっとこんな気持ちだったのだろう。

人を動かすのは正論ではなく、寄り添う心だ。
私の言い方や言葉は利用者にとって正論だったから怒って暴れたのだろう。

 
次は上手くいくだろうか。
それは自信がないけれど
とりあえずは周りが言ったやり方を試してみよう。

ここでまだ働きたいなら
残された道はそれしかない。

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