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クソすぎるTRPGシナリオを5時間遊んで心が壊れた

クソすぎるシナリオを遊ぶと、ドッと疲れる。それが5時間にもおよぶセッションなら気が狂いそうになるし、それが自分のシナリオだったら心が壊れる。

クトゥルフ神話TRPGを仲間内でやりはじめたころ。僕たちはそれぞれシナリオを自作し、キーパーを担当してそれを週末に遊ぶという会を開いていた。

その週は僕の担当だった。シナリオを作るのが初めてだった僕は、「今週、いけるよね?」という友人たちのプレッシャーに対して何のアイデアもないまま余裕をかましていた。しかし、当然ながら日を追うごとに重圧に苛まれることになる。そして、何も思いつかないままセッション当日を迎える。

追い込まれた僕は、当時テレビでやっていた、グラビアアイドルの手島優が元恋人の噛んだガムやティッシュを宝石箱に入れていて出演者たちにドン引きされるというシーンを思い出し、

「メンヘラ女子が怒りと悲しみでポルターガイスト現象を起こす」

というシナリオを思いついた。プロットに起こすとこうだ。

①探偵である探索者の元に、とある男が「メンヘラの元彼女から命を狙われている」と相談をもちかける
②女の住むマンションに向かう
③怪奇現象に遭い、我を忘れた女は探索者を襲う
④じつは依頼者の男は結婚詐欺師で、女から多額のお金を奪い取っていた

それなりにいけると思っていた。結局、友人たちに披露する1時間前にサラッとポルターガイストのネタをいくつか考え、「なんとかなるっしょ!」の精神でセッションを待った。

結果から言うと、全然なるとかなるっしょではなかった。「逆なるとかなるっしょ」だった。

友人たち探索者は女の住むマンションへ向かったのだが、僕は何を思ったのか、なんとなく「マンションはオートロックだ」と言ってしまった。困った友人たちが無理やり塀を乗り越えてマンションへ侵入しようとしたため、僕は何を思ったのか、なんとなく「管理人がやって来た!」と言ってしまった。友人たちは懸命に侵入しようとした理由について、言いくるめや説得でごまかしていたのだが、それだけじゃ飽き足らないのか、僕は何を思ったのか、なんとなく「通報を受けた警官がやってきた!!!」と言ってしまった。謎のルパン三世ごっこが始まってしまい面倒なことになったなあと思った僕は、何を思ったのか、なんとなく「パトカーが3台もやってきた!!!!」と言ってしまった。

マンションにすら入ることができない状況のまま、シナリオは夜を迎えた。僕は何を思ったのか、なんとなくマンション周辺をパトカーに巡回させ、完全なる防御態勢を敷いてしまった。ここで僕はようやく自分のミスに気がついた。

このシナリオ、終わらない。僕のせいで終わらない。

この時点でプレイ時間は2時間を超えており、「どうすればいいんだ…」と悩む友人たちと、「どうすればいいんだ…」と悩む僕がいた。そもそもこんなこと、シナリオを作った時点では想定していなかった。想定では20分で終わるつもりだった。

その後、僕の神がかり的な裁量によってオートロックは壊れ、自由にマンションを出入りできるようになったのだが、ここでも問題が発生した。
いくらなんでも玄関のドアの鍵を開けたままという人はいないだろうと思った僕は、「鍵は閉められている」と答えたのだが、女の家のインターホンを押す友人たちに対して、何を思ったのか、なんとなく「応答がない」と答えた。それどころか、何を思ったのか、なんとなく隣人と管理人を定期的に徘徊させ、ドアに近づけないようにしてしまった。

その結果、周囲を警戒しながらときおり女の玄関に近づき、北斗の拳のケンシロウよろしく、インターホンに百裂拳をするという奇行に走る友人を生み出してしまった。僕も何を思ったのか、なんとなく「まだ出ない」「もうちょっと!」と応援する人になってしまった。この時点ですでに4時間が経過している。

その後、僕の神がかり的な裁量によってドアの鍵がぶっ壊れ、友人たちはようやく部屋に入ることになる。友人たちの中で「この謎を解いてやるぜ…!」と意気込んでいる人はすでにいないし、全員が暇を持て余すかのように探索者プロフィールの絵を描き足している。さっきまで棒人間のようなペラッペラだった探索者の即席プロフィール画像は、いつのまにか立体を手に入れている。

僕は皆に問いたい。カリカリ…シャシャシャ…という鉛筆が削れる音が部屋中に響き渡る残酷なセッションを経験したことがあるだろうか? 僕はある。2那由多パーセントくらい僕が原因だ。

友人たちがプレイヤーシートや床の木目を一点で見つめる中、僕は天井を見上げ、裸電球に自分の人生を投影していた。電球はチカチカする、僕もチカチカできるかな。

物語はいよいよ佳境を迎え、メンヘラ女子が満を持して登場したものの、僕たちの心は「はやくセッションを終えたい」という気持ちで通じ合っていた。気を遣って誰も口にはしないが、「はやくクリアしてマックのドライブスルーでも行こうぜ」という顔をしていた。1人は「俺はモスがいい」の顔をしていた。

そこからがさらに地獄だった。ガムが入った宝石箱が見つかり、包丁が浮かび上がり、大量の虫が壁を這い、ガラスは割れに割れたが、友人たちは気を遣ってか、ここまでの時間を損したくないという気持ちが強くなったのか「うおおおおおお!!!」「やべえええ!!!!」とオーバーなリアクションをしていた。友人たちが大きな反応をするたびに、僕は申し訳なさと愛しさと切なさと心強さをおぼえた。

地獄のセッションを終え、僕たちは何事もなかったかのように「終わったね」とつぶやいた。22時からセッションを始めたが、シナリオが終わった今、時計の針をもう誰も見ていない。皆、机か天井から目を離さない。僕らの魂まで離してしまう気がするから。

「おつかれ」と解散した僕ら。それからというもの、なぜか僕はキーパーを任されないし、このシナリオの話は一切出てこない。

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