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脚本家とインプロヴァイザーのための覚書(3)

8 脚本の王道:主人公に起きるトラブルを考える

脚本作りの王道、四つ目は
『主人公に起きるトラブルを考える』
です。

僕は脚本家生活の中でストーリーを産み出すためのシステムを、作り出しました。
それを王道って、かってに呼んでるわけなんですけど。

いままでの三つを一回、振り返ります。

1、アイディアを思いつく。
2、コンセプトにする。
3、主人公を作る。
でした。

さぁ、これからがますますワクワクしてくるところです。
4つ目は、『トラブルを作る』です。

つまり主人公に、どんな問題(トラブル)が起きているのか、これから起きるのか。
これを自由な発想で考えていきます。

このとき、できるだけ発想を自由にするために、あまり先のことは考えないで、思いつくものをとにかくメモして行きます。
くだらないものでも、なんでもかまいません。
思いつく限りのものを、箇条書きにしていくだけです。
枠にしばられずに、連想ゲームするみたいに、気軽にトラブルを考えます。

ちょっとやってみます。

アイディア……演劇やりたいけど、できないでいる女の子の話をつくってみたい。

コンセプト……もしあがり症で自信のない女の子が、演劇に未練のある幽霊と出会って、彼女のために演劇部を再興しなければならなくなる話し。(今回、このコンセプトは、トラブルを出したあとに書きました)

○アンヌの物語
主人公は、「演劇をやりたいと思いついた17歳の高校生の少女、アンヌ」とします。
アンヌには、両親と姉(19)がいます。恋人はいません。弱点は、あがり症です。夢は、ブロードウェイの舞台に立つこと。近くの目的は、演劇部を作ることです。

とにかく、思いつくトラブルをメモしていきます。
なんでもいいんです。

両親の離婚。
姉の家出。
あこがれの人に嫌われる。
宇宙人と遭遇。
トイレで紙がない。
幽霊にとりつかれる。
不治の病にかかる。
交通事故にあう。
自分以外の人が、演劇部を作ってしまう。
虫歯がひどくなる。
火事になる。
転校しなければならなくなる。
姉の借金をかぶる。
対人恐怖症がひどくなる。
友人に裏切られる。
ストーカーにおいかけまわされる。
タイムスリップしてしまう。
芸能事務所にスカウトされるが、実はAVだった。
演劇部が廃止される。
演技の自信を失う。

こんな感じで、トラブルのリストを作っていきます。
一つ一つのアイディアに関して、深く考えたりはしないで、連想のおもむくままにただ書いていくだけです。

○これがアドバンスの材料です。

リストに上がったトラブルたちが、アンヌの物語における展開(アドバンス)の材料になります。

トラブルというのは、『主人公を追いつめる』ものです。
つまり、主人公をより主人公にしていくものだと思ってください。

あとは、これらトラブルリストの中から、アンヌにふさわしいものをピックアップして行きます。

リストを眺めていると、自然と使えそうなものと、そうじゃないものが見えてきます。
そして、なんとなくストーリーが浮かびあがってくるではないですか。

そのとき、大事なコツがあります。

トラブルはすぐに解決しない。

このときに気をつけなければならないのは、起きたトラブルをすぐに解決しないことです。
起きたトラブルを、どんどん大きくして、より主人公を追いつめていくのが肝心です。
主人公がギリギリに追いつめられた時が、おのずとクライマックスになって行きます。

○フルレングスインプロでも、この王道は使えると思います。

○主人公をみんなで追いつめるとどうなるか?

主人公が決まって、シーンが進み出したら、他のプレーヤーたちは全員で主人公を追いつめるアイディアを出して、エクステンドしていくことになります。
追いつめた先で、どうなるかは考えずに、シーンを重ねていっていいのではないかと思っています。

○アンヌのトラブルを選んでみる。

トラブルリストの中から、僕は以下のものを選びました。

両親の離婚。
姉の家出。
幽霊にとりつかれる。
姉の借金をおわされる。
ストーカーにつけまわされる。
友人に裏切られる。
演劇部が廃止される。

脚本家は次になにをするか?

○それらのトラブルを使って、あらすじを作る。

脚本家がオリジナル脚本を書く場合、『あらすじ』というものを作ります。
それを脚本の流れにしたものを、『プロット』と呼びます。
『あらすじ』と『プロット』はどう違うかというと、あらすじでは感情的な流れも書きますが、プロットではそこで起きることを中心に書きます。
分量的には、プロットの方が長くなります。

次は、実際にアンヌの物語のあらすじを書いてみますね。

9 サンプルあらすじ『アンヌとレイミ』

○アンヌの物語のあらすじを、即興で書いてみます。

演劇が好きだけど、それを誰にもいえない内気な少女月野アンヌ(16)は、高校生になったら演劇部に入るつもりだった。
しかしいざ入学してみると、演劇部は廃部となっていた。
しかも部室には、なんだか嫌な雰囲気がたちこめていた。
アンヌは、ゾクッとしてしまう。

失望して家に帰ると、家族が沈鬱な空気になっている。
なんと両親が離婚するというのだ、母親が家を出ていってしまう。三つ年上の姉、アキコも一緒に出て行く。
アンヌは、途方にくれるのだった。アンヌはトラブルからいつも目をそむけてきていた。自分には何もできないと思っていたのだ。

そんなアンヌは、SNSで自分とは真反対の性格のアバターを作って、本当の自分が絶対にしないことをしているキャラとして、嘘を言うことで憂さをはらしていた。
今日も数少ない視聴者に向けて、ライブ配信で自分がいかにハッピーかということを語りかけるのだった。

もう一つアンヌの心を慰めてくれるのは、大好きなミュージカルの芝居だけだった。
特にアンヌが推しているのは、コミックをミュージカル化した『明日にシュート』の主演俳優の大空リキトだ。
「リキトくん~~、あたしどうしたらいいの」
と、ビデオを観ながらつぶやくアンヌだ。
「キョシイねぇ、あんた。嘘ばっかりついて、憂さ晴らしして、そのうえ推し活かァ」
いきなりアンヌの耳に聞こえてくる声がする。
この部屋には、アンヌの他に誰もいないはずなのに。
「キャーーー!」
アンヌの目の前に、女の子の幽霊レイミがいた。
レイミは、高校に居すわっていた地縛霊だったのだが、なぜかアンヌと一緒だと高校の外に出られたと言う。
「あたし、あんたに、とりつくから、よろしくね」
そう宣言されて、アンヌは気絶してしまうのだった。

翌日目を覚ましたアンヌは、すべては夢だったのだと安堵するが、そうではなかった。
両親の離婚も、地縛霊レイミに取りつかれたのもすべて現実だったのだ。
アンヌはレイミに脅されて学校にしぶしぶ出かけて行く。
その途中に、アンヌは不気味な男にあとをつけられているのに気づく。
不安になるアンヌだが、なんとか男を振り切って学校に到着するのだった。

アンヌは、なんとかレイミを追い払おうとするが、レイミは離れてくれない。
しかもレイミの姿は、アンヌにだけしか見えていなかった。
頭がおかしくなったのではないかと友人たちに思われてしまう。

そんなアンヌをかばってくれたのは、学校内ではまったく目立たない男の子の田中太一だった。
太一はメガネでいつも顔を隠している地味男だ。
アンヌは、太一に感謝するが、彼は目もあわせずに、さっさと帰ってしまう。

アンヌがレイミを除霊しようとして、オカルト部を訪ねる。
しかしもちろんそんなことはもちろんできるわけがない。
オカルト部の部長の岡本類人は、アンヌに取りついているのは、50年前に亡くなった演劇部の部長の霊に違いないと言うのだった。
50年前に、演劇の公演中の事故で、一人の女の子が亡くなっていたのだ。
そのせいで、演劇部は消滅していたのである。
レイミはその子にちがいないとアンヌは確信する。

アンヌは、レイミにどうしたら自分から離れて成仏してくれるのかと訊くが、レイミは「そんなことがわかってたら、とっくに成仏してるわよ」と、言う。
「そうか、わかった。あなたは、50年前に公演ができずに死んでしまったのよ。その未練があなたをここに引き付けているに違いないわ」
「そうかもしれない」
「わかった。あたしが、演劇部を再建して、あなたができなかったお芝居を上演して、あなたを成仏させてあげる」
と、アンヌは宣言するのだった。

独り言を言っているようにしか見えないアンヌを、田中太一が見ていた。
太一は不気味に思って、逃げるように立ち去ろうとするが、アンヌが引き止める。
「きみ、演劇部に入らない?」
と、アンヌは演劇部再建に向けてスカウト作戦を開始するのであった。
即、断られたのはいうまでもないが。

しかしアンヌはあるとき、田中太一が実はあこがれのミュージカルに出演している、大空リキトであることに気づいてしまう。
太一は、自分がミュージカルに出演している俳優だということを隠して、この学校では田中太一として目立たないように高校生活を送っていたのだ。
それに気づいたアンヌは興奮するが、「リキトって、そんなに有名人だったんだ」とレイミ言われて、あることを思いつく。
「あなたの正体が、大空リキトだってことばらされたくなかったら、あたしに協力してちょうだい」
太一を脅して、演劇部員として引き込むのだった。

口下手だったアンヌは、レイミを成仏させるためにという目的だったが、演劇部の再建に向けて邁進する。
ついに部員たちが集まってきて、部として認められるのだった。
そしてついに、次の文化祭では、ミュージカル劇を上演することになるのだった。

田中太一が仕事の都合で、文化祭の劇には出られないと言ってきたり、姉のした借金のせいで、実家を出ていかなければならなくなったり、信じていた友人に裏切られたり、さまざまなトラブルがアンヌに襲いかかってくる。
そんなストレスを解消するために、アンヌはバーチャルキャラでのライブ配信では、ぜんぶ嘘のことばかりを吹聴するのだった。

入部してくれた仲間たちの中から、公演はもう諦めようと言い出す者たちもいた。
自棄になったアンヌは、自分たちの部には、超人気のミュージカル俳優の大空リキトがいると言ってしまう。
太一の正体を知った舞台たちは、がぜんやる気を出してくれる。しかし学校側は、太一を学外活動は禁止のルールーを破ったとして、停学にしてしまうのだった。

自分のしたことが、最悪の事態を招いてしまい、落ち込むアンヌだ。
レイミは、アンヌを見て、なにをやっても無駄なのよと言うのだった。
彼女も五十年前に今のアンヌと同じようなトラブル続きのすえに、心身ともに落ち込んだ末に、事故にあい亡くなっていたのだということがわかる。

アンヌは自分がしたことで、いろんな人の気持ちを傷つけてしまったことを反省する。
ずっと自分のストレス解消のために、嘘の自分を語っていたこともいけないことをしていたと思い、最後のライブ配信をするのだった。
そこでアンヌは、本当の自分の姿をさらして、今までに語っていたことは、ぜんぶ嘘だったということを告白する。
そして自分はキリトが好きだということも言ってしまう。
数少ないファンたちは、失望して、去っていくのだった。

そんなアンヌが、太一のところに謝罪に向かおうとしていると、いきなり背後からストーカーが襲いかかってきて、拉致されてしまう。
ストーカー男は、アンヌのやっていた嘘のライブ配信の視聴者だった。
彼はアンヌが、自分を裏切り、大好きだったキャラを殺したと思い込んでいた。
「君が嘘をついてるんだろ。本当のアンヌを、返してくれ」
このままだと殺されてしまうかもしれないと恐怖するアンヌだ。

アンヌは、必死でストーカー男と向き合う。
自分は本当に演劇が好きで、大空リキトが好きで、みんなと一緒に公演を成功させたいのだと。
レイミを成仏させたいというのは、本音ではなく、本当に芝居がやりたかったのだと。
「だから、あたしは、ここで死ぬわけにはいかないの」
アンヌの側で、それを聞いていた幽霊のレイミは、アンヌの気持ちに自分がかつて持っていた気持ちを思い出す。
「そうだよね……」

いつも問題から逃げてばかりだったアンヌは、はじめて自分の意志でストーカーと向き合い、闘うことを決意していた。
ストーカー男は、意外なアンヌの反撃にたじろぐ。
そしてそこに、レイミが、実体化して、ストーカー男の前に現れアンヌに力を貸すのだった。
アンヌは、レイミの協力を得て、窮地を脱する。
そこに太一が警官隊を連れて現れてやってくるのだった。
ストーカー男は逮捕された。

一カ月後。
文化祭の演劇部の公演が終わる。
そこにはアンヌと太一の姿があった。そしてレイミも。
レイミは、アンヌと一緒に公演ができて嬉しかったと言って、成仏して行くのだった。
それを見送るアンヌと太一。
アンヌは、太一に告白する。
「そんなのとっくにわかってたよ」
と、言われてしまうが、うれしいアンヌだった。

10

○あらすじからプロットへ テーマはあとからついてくる

以上、即興であらすじを書いてみました。
トラブルをつなげていくだけで、なんとなく一本のストーリーができたでしょ。

これがメインのストーリーです。

簡単に言うと、「主人公がさまざまなトラブルにあいながらも、それをのりこえて、自分の目的に向かって進んでいくもの」です。
今回の主人公の近い目的は、『演劇部を作る』でしたね。

『テーマ』はなんだったでしょうか?
僕はあらすじを書き出すときに、テーマは考えずに書き始めました。
いつもこんな感じで、あとからテーマはなんだったのかと考えます。

このメモを書き出した最初の方で、テーマはメッセージであると書きました。
メッセージとは、問いかけであるとも。

僕は物語を作るという行為は、無意識でそれを見つけようとしているのではないかと思っています。

書き終わって、あらすじを俯瞰してみたときに、この物語のメッセージは、『本当の自分と向き合ってますか?』ではないかと思いました。

アンヌは最初から偽の自分を作ってライブ配信をしていたり、本当にしたいことをごまかして、逃げてばかりいます。
レイミは、地縛霊なのに、なんで地縛霊になったかということを忘れて、アンヌに取りついて楽しんでいます。
太一は、自分はスターなのに、それを隠して普通の高校生活を送りたいと思っています。
登場人物のほとんどが、本当の自分を隠している状態で、物語がはじまり、最後には本当の自分を表に出していくことになります。
本当の自分と向き合うことを避けていた人間たちが、自分と向き合うことになるのが、この物語だったわけです。

これはあらすじを書いたからこそ、見えてきたものです。

僕が『テーマはあとからついてくる』と書いたのは、こういうことです。
最初から、このテーマを思って書いたのではなく、書いていくうちに、だんだんテーマがはっきりしてきたということがわかってもらえたのではないでしょうか。

意識では気づいていないことを、無意識は察知していたりすることが多々あります。
ここでもこの物語のテーマを、無意識はとらえていて、そこに組み込んでいったのだろうと思います。

テーマが見えてくると、それは以後の作業の『羅針盤』になってくれます。

11 あらすじからプロット

あらすじができたら、脚本家は次になにをするか?

○あらすじを、プロットにしていく。

あらすじができたら次は『プロット』というものにしていきます。
プロットとは、起きることを時系列順に書き出したものです。
感情の変化などは書かずに、起きることだけを、単純に書き出して、おおまかな流れをつくるわけです。

このプロットを書いていきながら、主人公の他のキャクターたちの設定を深くしたり、どういう動きをしていくかなども整理していきます。

このプロットを作る時に、『ハコ(箱)を作る』という言い方をする人もいます。

このハコの説明は、脚本の書き方講座ならば、もっとじっくりとやりますが、このメモはフルレングスインプロのためのものなので、そこは省略します。
でも、このように一本の脚本を作るために、さまざまな段階での作業があるということは知っておいてください。

フルレングスインプロをやるときには、この作業はもちろんできませんが、脚本家がこういう作業をしているということを知っていると、何かの役にたつこともあるかもしれません。


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