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境界をあいまいに

普段、映像やデザインの仕事をしている柴田大平と申します。
過去に作った仕事などのご紹介をできればと思い、noteに初めて投稿しています。今回は”境界をあいまいにする”というテーマのもと制作した「グラデーション」という映像について書いてみます。
この作品は、NHK Eテレのデザインあという番組内の歌のコーナーとして1年ほど前に作ったものです。

「グラデーション」©NHK 
作曲:CORNELIUS 、歌:大坪加奈(Spangle call Lilli line) 、企画/作詞/映像:柴田大平(放送時のものから一部アップデート済。)

単純化・抽象化へのアンチテーゼ

”境界をあいまいにする”ということをテーマにした背景には、情報の抽象化・単純化といったデザインの本来の機能(例えば、複雑なものを使いやすく、難しいことを易しく伝えることなど)とは真逆のことをやってみよう、という好奇心から始まりました。またそれは、僕自身の”デザイン”という行為へのちょっとしたアンチテーゼでもあります。
通常のデザインプロセスからは本来そぎ落とされがちな情報に焦点をあて、そこに豊かさや新たな価値といったものが見出せないかと試行錯誤し、シンプルなものをあえて複雑にしてみるというアイデアにたどり着きました。

グラデーションとは

ここでいうグラデーションとは、単なる色のグラデーションのことだけを指しているわけではありません。下の図のように、二極化した二つの要素のあいだをどんどん増やしていくことによって、両者の境界をあいまいにしていくことを指しています。
グラデーションさせるということは、抽象化・単純化によってシンプルにしていくのとは逆に、情報を具体化・複雑化していくことです。

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「白と黒という色の差を、なめらかに」
「〇と△という形の違いを、なだらかに」
「0から1への変化を、ゆるやかに」
という具合に、グラデーションという魔法をかけることによって、いろんな物事の境界をなめらかに繋いでいきます。

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下図は今回の制作を通して指針とした、「抽象化・単純化」と「具体化・複雑化」の対比について自分なりにまとめたものです。

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あいまいさが生み出す情報の豊かさ

また、グラデーションとは少し違いますが、物事をあいまいにすることによって情報を豊かにする手法は古くから多用されてきました。特にアート、映画や小説、アニメ等では、あえて内容を分かりづらくさせたり、エンディングさえあいまいなまま終わるような表現は好んで使われてきました。謎が好奇心を煽り、推測や議論を生み、ストーリーに深みを与えることに寄与しています。 モナリザも笑っているのか悲しんでいるのかわかりませんが、そこにミステリーや魅力が生まれます。

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抽象化というカテゴライズ機能

繰り返しになりますが、具体化・複雑化が境界を滑らかに接続していくとすると、抽象化・単純化は逆に境界をより際立てていくことになります。
ものごとを抽象化し、線引き・カテゴライズするという機能は、人間の脳が本来持ち得る認知能力として備わっており、日常的な認知活動において切っても切り離せません。プリン・ケーキ・チョコレートがあれば「甘いもの」として、みかん・サッカーボール・100円玉があれば「丸いもの」として、ひと括りにできる機能です。そういった機能がないと、目の前にたくさんの種類の猫がいたとしても、あ、「猫」がいっぱいるなと一括りで認識できず、それぞれが異なる別の猫たちとして認識してしまい、脳がパンクしてしまいます。抽象化によってカテゴライズすることは、人が生活していく上でとっても便利な機能です。もちろんそれはデザインにおいても、とても重要な要素でもあります。

あいまいなことをあいまいなままに

一方でなんでもかんでもカテゴライズしてしまうことによる弊害もあります。物事をバイアスがかかった目でみてしまったり、無意識に自分で作ってきたフォルダに分類してしまうことによって、生じてしまう分断も少なからずあると思います。

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(自然の中は分断を生む堤防や壁などはなく、多様性が生み出す複雑さによって全ての境界があいまいに繋がっている。)

世界にはカテゴリーがあいまいな、ジャンルレス・ボーダレスなものであふれています。
大人になればなるほど、知識や経験が増えていき、フォルダの数やフォルダ分けの基準が細分化されていってしまいます。小さな子どもたちの無垢な瞳でもう一度この世界を見ることができたなら、もっとあいまいなことをあいまいなまま受け入れられるようになれば、多様性に富んだ複雑で豊かな世界が見えてくるのではないかと、このグラデーションを作りながら考えていました。




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