ヘチマ

適した言葉を抽出するよりも、今は言葉を手当たり次第に吐き出したい。
彼は昔、万引きで捕まった。初犯と言うこともあって和解で済んだが、本当は常習犯だった。そのことを知っていた、当たり前だけど。自分でそのことに気づいていた。もしかしたら皆んなも知ってた。
抱いた夢に、煮えたぎるような情熱を以前は抱いていたが、結局は生まれた地や家系、血縁、運などがあってスタートラインに立つことができるということを知った。かつての情熱はからっきしで、今ではドロッとした得体の知れない鬱が臓物の中で滝のように対流しているのを感じる。そこからは後の祭りで、情熱があるかのように振る舞うばかりで中身と外側が宇宙の広がりと同じ速度で乖離していくのだった。
今の私は、自分の名前をギリギリ覚えている。
誰にも伝えず
誰にも気づかれず
誰からも愛されない
地面に落ちた、熟れたヘチマ
空洞が広がるばかりで
それが私。これまでもこれからも。
気づけば私。私。私。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?