『くまのレストラン』を作って思う。絶対に今、死にたくない。
「くまのレストラン」というゲームが先日、NintendoSwitchで全世界リリースされた。現在のところ、ダウンロードランキング19位まできていて、これは感慨深いというしかないであろう。「ああ、ここまできたんだ・・・」と思う。
「くまのレストラン」はもともと自分が2年前にリリースしたスマホゲームで、当時のリリースが自分の人生の転機になったので、その話を思い出しながら書いてみる。
ざっくりいうと、自分はRPGツクールに出会ってからゲーム開発にのめり込み、10年間会社員として働いた後、憧れていたインディーゲームクリエイターになった。
会社員時代はアメリカで働いていた。サンフランシスコでスマホゲーのリードプログラマをしていて、めぐまれたキャリアを積みあげてきた。でも、会社で自分が作っていたものは自分の作りたいゲームではなかったから、会社でいくらゲームを作っても満たされることはなかった。プログラミングだってゲーム作るために学んだだけで、別にプログラミングをしたくてゲーム開発をしていたわけじゃない。会社員をやりながらこっそりゲームを作ってはいたが、いつも思っていた。「はたして自分は全力でゲームを作ったことがあっただろうか」と。
だから、勤めていた会社が解散しリストラされたとき、もう30歳をとうに超えていたが最後のチャンスだと思って全力で自分のゲームを作ろうと思った。無職はおそろしいものだともおもったが、この時間を買うために今まで必死に貯金したのだと思えば、いくばくか気は楽だった。
やりたいことは決まっていた。それは、自分が大好きなRPGをつくることだ。とくにスクウェアのつくるゲームが昔から好きで、FF、クロノトリガー、サガシリーズなどが大好きだった。ただし、現実的に考えてあまり大規模なものはできないからバトルシステムなどのゲーム性は徹底的に削り、本当に必要なところだけを残すことにした。それがRPG風の短編物語ゲームというジャンルである。UndertaleやTo The Moon、彼女は最後にそう言った、のような成功事例が背中を後押ししてくれた。
戦略として、開発の難易度も考え、スマートフォンに注力することにした。また、一発でゲームがあたることはまずないだろうから、ゲームを継続的に出せる基盤を作ろうと考え、独自のRPG制作ツールを開発することに決めた。そのツールを開発しながら「償いの時計」、「しあわせのあおいとり」、「エンゼルロード」、「潮騒の街」と2年間で4作品をリリースした。多少ヒットの兆しが見える作品もあったが、単価が安すぎるためどこまでいっても現実的に食える売り上げはでなかった。
2年間ゲーム開発をして、貯金はまだまだあったけれど、「メンタルの貯金」は尽きかけていた。インディーゲーム開発者は「孤独」だ。周りと話が合わなくなってくる、取り残された気持ちになる。同時期にリストラされた元同僚たちは次々と次の仕事を決め、新しいキャリアを歩み始めている。ルームメイトはポケモンGoを作っているし、他の友人もGoogleだとかUberだとか華々しい企業で働く人ばかり。自分の年収は以前の1/20くらいに落ち込んだ。みんながストックオプションの話をしている横で、自分はオバマケア(米国の低所得者用の保険)を受けながら、売れない短編のアドベンチャーゲームを作っている・・・。
そもそも、短編のアドベンチャーゲームをつくってお金にしようなんていうのが狂気の沙汰なのだ。なんでそんないかにも「儲からなさそうなこと」をやってるんだ?これ以上は無理だ。次出すゲームが売れなかった再就職することにしよう。就職しても個人ゲームは作り続けられるし、安心安全な人生を生きようじゃないか。でも、そうなるまえに全力を出し切りたい。2年間の集大成として、一旦区切りをつける作品として「くまのレストラン」をリリースしよう。それでダメならばあきらめもつくというものだ。
そして自分がやれることはすべてやった。シナリオもフィードバックを受けながら何度も手直し、マネタイズに関してもできうる限りのことをした。レビュー依頼や事前予約に関してもちゃんと仕込んだし、なんならDL数を増やすために数十万円ほど広告費を使ったりもした。後悔だけはしないように。
そして、リリース当日をむかえた。リリース初日、目に飛び込んできたのは目に見たことのないようなダウンロード数。これは、「きた」とおもった。しかし、実際にヒットするのを目の前にすると現実感がないものだ。初日の売上は30万円、自分にとっては異次元の売り上げであった。
くまのレストランの売上をみて、再就職は必要がないと判断した自分はついに日本に帰国することができた。自分のゲームで食えるのであればアメリカにいる必要がもはやないのだ。サンフランシスコももう自分にとって魅力的な街ではなくなった。バイバイ。
そして、日本に帰国後「フィッシングパラダイス」のヒットや、Googleのインディーゲームフェスティバルの受賞など、ラッキーな出来事が立て続けにつづいた。そして2年がたち、今回「くまのレストラン」のスイッチ版もリリースできて、ますます未来に希望が見える。それは売り上げの話だけじゃなくて、「やりきった」からこれからなにかあっても乗り越えられるという気持ちになれたから。おそらく、もう会社員にもどることはないのだろう。
これから、(少なくともしばらくの間は)自分の好きなゲームだけを作って生活できる。30数年かけてようやくたどりついた、これが自分のやりたかったことだ。もちろん努力もしてきたが、なによりも運が良かった!そしてさらなる挑戦への切符を掴みとった。まちがいなく、これからが人生で一番楽しい。それと同時に一つの感情が芽生えた。
絶対に今、死にたくない。
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