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酒蔵見学レポート:鳥取県 千代むすび酒造

自身の企画がいろいろな事情で発展し、結果として鳥取県の4つの酒蔵を巡るツアーとなりました。
そのうちのひとつ、千代むすび酒造へ見学へ行ってきました。
今回はその様子をレポートします。
※今回のツアーでまわったその他の3蔵の記事は以下から!

育みは地域と共に「上代」

揺らいで見るは酒の“向こう側”「久米桜酒造」

地元に愛されながらの新陳代謝「大谷酒造」

■イベント概要

代表銘柄は「千代むすび」。
実は、こちらの蔵からの声かけで、今回の鳥取県酒蔵ツアーが企画されることになったのです。
千代むすびさんとは何かとご縁があり、日本酒イベントでボランティアとして入った際に配属されたのが千代むすびブースだったことがはじめの一歩でした。
その後、各種のイベントなどでもよくお会いすることが増え、対応スタッフとして入ることもしばしばありました。
極め付けは、2023年に行われた、
・千代むすび さけくらべ新橋@とっとり・おかやま館
・第9回 東京千代むすびを楽しむ会@ホテルニューオータニ

この2つに千代むすびのスタッフとして入る機会をいただいたことでした。
そこでのコミュニケーションで「なんで蔵に来ていないの?!」といい意味でびっくりされ、そこから「では蔵に」ということになったのでした。

日本酒以外にも、リキュール、焼酎、ジン、ウオッカ、そしてウイスキーにも事業を発展させている酒蔵です。
かなり多角的なものになりそう。
直近では、こちらの番組でも特集されておりました。

蔵の様子や情報が非常に端的にまとまっていますのでぜひご覧ください。。
知っている人が写っているとなんだか不思議な気分です。
聡さんについては、こちらにもインタビュー記事があります。

■現地の様子、雰囲気

やってきました鳥取県は境港。

さっそくP箱の壁。

蔵の中にあるスペースにてまずは蔵についての説明を受けます。スライドは58枚とたっぷりボリューム。
ウェルカムドリンクの甘酒をいただきながら耳を傾けます。

来年2025年で160周年になります。
商品の割合としては日本酒72%、焼酎スピリッツ12%、リキュール8%、甘酒等5%、ウイスキー3%で日本酒が1200石。
生産量と、展開している商品の幅の広さが目立ちます。

蔵がある境港という街についても触れます。
カニの水揚げはもちろんのこと、マグロの水揚げ量もトップクラスであることは知りませんでした。
クルーズ船が寄港する場所でもあり、現在は30隻いかないくらいとのこと。コロナ前は60隻近くだったので、1年中・毎週末来ていたことになります。
3万人の市民に対して、名物の水木しげるロードへの来訪数は300万人。観光地の側面がみえます。
なお、境港は砂地であるため、米づくりには適しません。

千代むすびはほのかな香り、ふくよかな味、飲みあとすっきり、の「濃醇辛口」と呼ばれる味わいが特徴となっています。
歴史を辿れば、船での爆発事故で蔵が大ダメージを受けた時もあったそうです。

つくりにおいては、自社精米を行い、お米の品種では強力を全体の40%以上を使用しています。麹は、伝統的な蓋麹、箱麹。
酒蔵数は1973年がピーク。鳥取県の蔵も、元は64→16蔵となっている。国内の人口減少と嗜好の多様化の時流を感じる中で、海外進出へと目を向けるようになったそうです。

特に韓国に関しては、現地に「jizake CY Korea」という千代むすび酒造の100%出資会社を2009年設立しています。
千代むすびだけでなく44社の日本酒を韓国に卸しています。
さらに、アメリカから韓国への卸しも行っているそうです。
現在の輸出先は25カ国です。

コロナ禍の影響は少なからずあり、その中でも、再構築の矢として、7つ挙げられていました。
1 消毒用アルコール作成
→ラベルに「飲用不可」とかけば酒税が免除になっていた。ただ特別な免除がそろそろ終了になるそう。ご時世ですね。
2 原料作りからチャレンジ
2020年からお米を、2021から芋焼酎の原料である芋を農家さんと協力して自分たちでも造りました。
3 地元原料の徹底的なこだわり
お米の星空舞、いちご、ブルーベリーなどはすべて地元のもの。家庭用ミキサーで地道につぶしているときいてびっくり。
4 SNSフル活用

Facebook2000、Instagram2500、X1000→3700、メールマガジン800→3200と確実に数字に出ています。
ちなみに、この投稿は基本的には聡さんが行なっています。
5 輸出を含めた流通改革
酒蔵から各国の輸入者への対応を直接行うこと。
直接輸出すると海外現地のアルコール規制(国、州)なども情報がダイレクトに入るそうです。
また、裏ラベルの規定なども国ごとに違うそうで、カナダではフランス語と英語を両方記載しないといけないそうです。
共通することとしては、無闇に輸出するのではなく、信頼できるパートナーを各国に1つ見つけることが近道である、と。
6 ジン・ウイスキーへのチャレンジ
蒸留機を新たに2つ購入し、3台体制となりました。それまでは何かを蒸留しているときは他の何かが蒸留できず、蒸留の順番待ち・渋滞が起こっていたと。
事業再構築補助金で2023年に銅製ポットスチル導入。通常の入り口から搬入できず、屋根から入れた。(後ほど見学でみられました)
商品の一つのLAST GINは千代むすび酒粕焼酎100パーセント使用。

シングルモルトウイスキーの出荷を2024年は目指しています。島根県安来市に貯蔵箇所があるが足らず、新たな場所も探し中。
7 ウィズコロナの能動的行動
感染対策をしつつも店頭販売を実施していました。その心は「リアルに勝るコミュニケーションはない」ということ。

なお、コラボもしています。こちらは酒粕を使ったアイスクリーム「SAKE ICE」さん。

様々な日本酒とのコラボがなされています。

一通りの説明、というよりはもはやきっちりとした講義に近いお話のあと、ここから蔵の見学へ。

精米場。
お米を削った後の糠も、糠の段階によって再活用しています。中糠は米油へ、白糠・上白糠は焼酎になっているそうです。
使用するお米の7割は鳥取県内米で、ほかは兵庫県、福岡県など。
種類として一番多いのは山田錦。鳥取県特有の強力は量の確保が大変、と苦労も絶えないようです。
なお、ここの空間で過去には落語の会をやってたこともあったそうです!広い空間で声が響きそうですね。

瓶詰めされ、保管されている倉庫へ。
こちらは瓶内二次発酵でつくられるスパークリングの商品「SORAH」
瓶をひっくりがえしているのは、いわゆるデゴルジュマン・澱抜き(おりぬき)のため。瓶口に集められた澱を取り除くために下にためているのですね。
倉庫を離れ、蔵内を移動します。

作業中の社員さんみなさんが見学中の我々に対してみなさん「こんにちは〜!」と挨拶するのが印象的でした。人柄、職場環境の雰囲気が伝わりますね!

麹室へやってきました。
自動製麹機もありますが、大吟醸クラスなどの麹はいまなお寝泊まりしながら手作業で製造しています。
37℃の室内は他の酒蔵とくらべても麹室としても温度高めではないでしょうか。

しぼりの設備を覗きつつ、ほんのちょっぴりと搾ったお酒をいただきました。それはそれはフレッシュでしたこと!

そしてここでなんと、麹をほぐす作業を体験させていただくことに!
広げて乾かしている麹を一度まとめ、再度広げるようにしてほぐします。
手袋越しに触って「つぶさずほぐす」という感覚を探る貴重な経験をしました。

また、そのほぐした麹をタンクに入れる仕込み作業を経験したメンバーも
重たい麹を、急なはしごを使ってタンクの入り口まで持ち上げて入れるのはまさに力仕事です。

その後は蒸留設備の方へと進みます。

40年選手の蒸留機。かなり年季が入っています。たまに悲鳴をあげるそうです。過労死しないことを願います。

この銅色に輝くのが、天井から搬入したポットスチルです。
ここで蒸留されたウイスキーがジャパニーズウイスキーとして仕上がるその時が待ち遠しい限りです。

さて、蔵見学を終えて、夜はなんと蔵の方のご厚意にてお食事の場をセッティングしていただけました。
我々のグループともう一つのグループが合同での開催となりましたが、これがなんとも豪勢で、まさに大宴会!

もれなく一人一杯ずつカニと対戦。
刺し盛りも、何人前かわからないくらいの量です。

途中、製造部の方も合流して作り手ならではのお話を聞いたりと充実した時間でした。
そして、蔵から場所を移動し、さらに二次会。
通るは水木しげるロードです。

こんな粋な演出があるんですね!

2次会は飲みながら、カラオケで楽しく盛り上がりました。
個人の尊厳もあるため細かい現場の様子は割愛。

今回は蔵近くの宿に宿泊。

境港に行くなら宿はここ一択、と言ってもいいくらいかもしれません。
大浴場の露天風呂も最高でした。(夜明け前に入ったけど)

ここの注目はなんといっても朝食。なんとビュッフェスタイルで、好きな海鮮丼が自分でつくれちゃいます。
港町の海鮮で朝食とか、最高ですね。

そして、千代むすびさんには翌日もお世話になりました。
なんとご厚意にて、製造過程の見学と作業の体験を追加でしていただけました。
お米に水を計算して吸わせる、限定吸水の様子をじっくりと見ることができました。
精米したお米を1分で洗い、その後水に浸漬させます。
麹用に使うお米には何%吸わせる、と事前に計算し、その重量を狙っていきます。単純計算すれば、例えば30%吸わせる、なら10kgのお米が重さ13kgになる、ということですね。
ただし、お米の質、当日の気温、室温、湿度などをもとに、どれくらいの時間を漬ければいいか、が変わります。それを見極めながら作業していきます。これにはやはり経験が必要になります。

時計のアナログの針でスタートや作業の切り替えのタイミングをみています。
開始前はまるで陸上競技のスタート前のような感じの緊張感
・米をはかる
・お米を洗う機械にかける
・洗われた米をネット付きのカゴに移す
・水に浸漬させる
・バキュームかけて脱水(1分)
・重さを測る
・カゴを脇に避ける
これらを、同時進行でやっていきます。インターバル作業、かつマルチタスクです。何よりも、全てにおいて時間との勝負!
米の種類で浸漬させる時間は5-6分も違うこともあるとのこと。
時にはイレギュラーやエラーも起こります。それにもあわてずに作業しているのはかっこいいですね。

浮かぶトレーにお米の一部を乗せ、吸水具合をみています。

大きなタライのようなものにはっていた水が、作業していくと徐々に水が減っていくのがわかります。
日本酒とはつくづく水を大量に使ってつくられるものであり、日本が水に恵まれている環境であることを痛感します。

限定吸水の光景を見終わった後は、タンクの上へ。

ここでは櫂入れを体験させていただきました。
櫂、とは平たく言えばマドラーのこと。それを、醪の入ったタンクの奥底にいれて、上に持ち上げます。
完全な液体、ではなくどろどろとおかゆのような状態の醪はかなりの重量になります。また、底の見えないタンクでどこまで入るのかなども探り探りな中、櫂を持ち上げては沈め、持ち上げては沈め、を実施。
まだ発酵が進んで粘度が低い状態のものだったからよかったですが、発酵初期であればもっと固形物感が強く、重たいことがわかります。

体験を終え、最後に質疑応答と総括。
お米の話、販路の話など、いろいろと話が膨らみました。
その中でも印象的だった言葉は、「地元は面で、外は点で売る」というもの。
確かに、前述の海外輸出でも、闇雲に出荷するのではなく、パートナーをみつける、ということが触れられていました。数打ちゃ当たる、ではなく確実な一点からの波及というのは、信頼性の高い方法なのでしょうね。人間関係も一緒かもしれません。
なお、お猪口を造る会社が2024年に入って倒産してしまったようで、今後陶器系のボトルの商品が作れなくなるかもしれない、と話されていました。
オリジナルの商品が多いとこういうところにも影響がでるのですね。

■飲んだお酒リスト

SORAH GOLD
大吟醸
純米吟醸 強力50
純米大吟醸 大吟醸アル添前
一際 特別純米 中取り 五百万石55
特別純米
強力 純米 無濾過生原酒
純米吟醸 強力 おおにごり 袋取り生
純米大吟醸 山田錦 40 「舞う白鳥」 

大宴会中にいただいたお酒はすべて美味しくいただきましたが、特にこの写真のお酒である「一際 特別純米 中取り 五百万石55」はよかったです!

■終わりに

きっかけはお酒のイベントのボランティア。それがなんと、蔵の現地に来ることになるとは。これも縁にむすばれたものです。
蔵のホームタウンで会う蔵人達のみなさまの暖かさ、地域の雰囲気を肌身で感じることができたのは嬉しかったです。
今回の訪問をきっかけに、さらにご縁が千代にむすばれるようになるといいな、いや、むすばれるようにしようと思いを強くした次第です。

なお、蔵では鬼太郎たちも作業していますよ。

ではでは。

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