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国立教員養成大学・学部出身者は本当に教員になっていないのか?

    国立教員養成大学・学部の最もインパクトの強い評価指標は「教員就職率」です。教育者としての仕事を自立して遂行できる一人前の資質能力を身に付けた教員を計画的に養成することを目的としているため,一流企業就職者をどれだけ輩出しても文科省からは評価されません。
 国立教員養成大学・学部卒業者の教員就職状況は,毎年度文科省が調査し公表していますが,近年では60%程度で推移しており,卒業者数から大学院等への進学者と保育士への就職者を除いた数を母数とした場合でも,その数値は70%程度となっています。


 この教員就職率は,しばしば低い数値として取り上げられ,国立教員養成大学・学部に改革を迫る材料として使われます。しかしこの数値はあくまで卒業時のものです。卒業時には民間企業に就職したものの,教員に転職した卒業生がいた場合には,この数値に反映されません。
 では実際のところ,最終的にどれくらいの卒業生が正規教員になっているのでしょうか。東京学芸大学がオープンデータを用いて推定しています。

 使用したデータは以下の3つです。
Ⅰ. 国立教員養成大学・学部及び国私立教職大学院の卒業者及び修了者の就職状況調査(前掲)
Ⅱ.公立学校教員採用選考試験の実施状況調査
Ⅲ.学校教員統計調査

 Ⅱは,公立学校教員採用試験の受験者数,採用者数,倍率,新卒・既卒の別等について調査しています。ただし,①既卒者を含んでいていつ卒業したのかまでは分からない,②国立教員養成大学・学部出身者のカテゴリーにいわゆる新課程の出身者が含まれているという課題があります。そこでまず,統計学の移動平均法の手法を用いて①を解決しています。次に②について,新課程をもつ31大学中21大学のホームページから教員就職データを把握し,教員就職率の平均値(13.2%)を算出しています。
 しかし,13.2%という数値には正規採用と臨時採用が区別されていないものもあったため,正規採用者の割合を推定します。まずⅠから新課程における新卒正規教員採用者数を推定し,これをⅡに当てはめ,新課程の既卒の正規教員採用者数を推定します。これに先の新課程における新卒正規教員採用者数を加え,当該年度の新課程の正規教員採用者数としますが,ここでさらに問題が生じます。
 Ⅰの調査は国立・私立学校への教員採用者も含まれているのに対し,Ⅱの調査は公立学校のみを対象としています。そこで,Ⅱの国立教員養成大学・学部の正規教員採用者数に国立・私立への正規教員採用者数を足し合わせ,推定した新課程の正規教員採用者数を引くことを目指します。

 ここで足し合わせる国立・私立への正規教員採用者数は,Ⅲの教員異動調査の結果を用いて公立,国立・私立の比率を算出し,この比率から国立・私立学校の正規採用者を推定し求めます。
 さらに,教員として採用され,退職後に再度教員として採用された重複者を除く処理を加えます。

 このような処理を経てようやく,国立教員養成大学・学部卒業者が実際どのくらい正規採用となっているのかが分かります。その数値はH25-H30平均で84.8%と,文科省が公表しているものよりも15ポイント以上も高いものでした。

 ここまで書きましたが,私のスキルでは到底再現できません…。
 詳細は以下の論考でご確認ください。

・後藤智和・國分充(2019)国立教員養成大学・学部(教員養成課程)出身者は本当に教員になっていないのか,SYNAPSE,70,24-29.

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