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思わず引き込まれた話のまとめ

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ついつい語り口に引き込まれて最後まで読んで感服した話のまとめ。
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2024年2月の記事一覧

父の就活

最近父が就活をしていると、母からの連絡で知った。 「いい職場が見つかるといいね」と返信をしながら、娘としては、内心複雑な気持ちを抱いている。 父は3年前に、長年勤めていた会社を定年退職した。定年まで勤め上げたとはいっても、父はその仕事が好きなわけではなかった。父がそこで働いていたのは生活のため。私たち家族のためだった。 コンクリート工場の作業員をしていた父は、汚い・きつい・危険の3Kが揃った仕事だといつも言っていた。 給料も高くはなかった。 退職金も僅かにしか出なかっ

映画とファッション|衣装からみた映画「ゴールデンカムイ」

映画「ゴールデンカムイ」、見ました? めっちゃよかったですよね。ゾクゾクしました。 登場人物が現れるたび「うわー、土方歳三きたー!」とかひとりでキャーキャー思いながら観てました。 さまざまな角度から映画「ゴールデンカムイ」については語られていると思いますが、ドレスをつくる仕事をしているわたしはやはり、「衣装」の面から映画「ゴールデンカムイ」のすごさをみてみたいと思います。 また、博物館学芸員資格を学ぶわたしは、今までゴールデンカムイやアイヌに関連するさまざまな博物館展示

こぼれる

春。梅の花を見ている。 ほころぶ。こぼれる。梅の花にそえられる言葉。 長く保ってきたものがあふれてゆくような、こぼれるイメージの近くで梅の花は咲く。 こぼれる、というと思い出すことがある。 長い小説を書いていたころ、文章のことをひとつひとつ教えてくれた人がいて、私が書くものをいつも読んでくれた。書ききることができなくて、指がとまってしまう。その書きかけの小説について話していたとき、その人が言った。  水を運ぶというのは、むずかしいんです。どうしたってこぼれてしまう。