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死んだあとくらい好きにさせてちょうだい。

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なんもしない人(僕)を貸し出します。
交通費と飲食代の諸経費だけもらいます。
飲み食いと簡単な受け答え以外、なんもできかねます。
ご依頼はDMまで。

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今日の依頼者さんは
「亡くなった女優さんのお墓参りに一緒にきて欲しい」だった。
生前、テレビや映画で幾度となく観た、
着物を着て手を合わせて祈っている姿に憧れる気持ちがあるので
一度お墓参りにいってみたいのだが、
友達や家族を誘っていくような場所でもないし、
かといって、ひとりでいくのも心細いので
一緒に来て欲しいとのこと。

待ち合わせ場所の光林寺の前へいくと、
着物を着た女性が元気に両手を振って出迎えてくれた。
お墓を探し始めてすぐ「希鏡啓心大姉」と刻まれた墓を見つける。
花を供え、2人で手を合わせた。

芸能人という、今も昔も遠い存在なのに、
墓の前まで来て手を合わせることができる。
すると、なんだかずっと前からの知り合いなような気がしてくるのだから、不思議だ。
人が死ぬということは、地上では元々あった距離がなくなるということなのかもしれない。

依頼者さんが教えてくれたのだが、
彼女の芸名は樹や木が集まり希な林を作るという文字の合わせで
「みんなが集まり何かを生み育てる」という意味らしい。
生きている間だけでなく、亡くなった後の在り方もその芸名通りだと思った。

依頼者さんが急にソワソワして花を片付けはじめた。理由を聞くと
「なんか、彼女が『花なんて枯れちゃうんだから持って帰りなさいよ』と言った気がした」
と言う。
僕もそんな気がしてきた。

「この花は最後まで私がかわいがろう。」
花を包み直した依頼者さんは
「自分の身仕舞いをしていった彼女のように生きたいなあー」としんみりしながら、お茶を大きな水筒からコップにじゃーっと豪快に注いだ。
なんとなく見ていたら「いる?」と聞かれた。
断ったが今日は暑かったので依頼者さんは
「大丈夫なの?倒れるなよ?」と心配してくれた。いい人だった。

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コメント

1.わかるー!私も好きだったー!!

2.「なんもしない人」なのに、お墓参りしたんですね?w

>>僕の考えからするとお墓の前までいって背を向ける方が「なにかしている」になります。

>>>確かに!!wwww

>>>>それは何かしてるwwww

3.「花を片付けてちょうだい」って言ってるあの女優さんが目に浮かぶようですね。

4.いい人。

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フィクションです。
実在の人物や団体などと関係ありません。
友人のともちゃんに捧ぐ。

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