篠田一士と『失われた時を求めて』のこと―読書月記4

4月13日は、篠田一士の命日だ。亡くなったのは30年以上も前だが、今でもその名を目にすることがたまにある。例えば、3月に河出文庫として刊行された三木卓の『若き詩人たちの青春』にも“博覧強記”の人として出てくる。篠田の本を読んでいると、まさしく“博覧強記”だ。小説はもちろんのこと、詩、紀行・旅行記などを含むノンフィクションなど、様々な本が出てくる。ブルース・チャトウィンの名を、もっとも早く日本に紹介したのも篠田だったのではないだろうか。
篠田一士の名を知ったのは『日本の現代小説』が最初で、以降、とにかく本を読むうえで最も影響を受けてきた。上にあげたチャトウィンの『パタゴニア』を含め紀行文学に目が行くようになったのもそうだし、アラン・ムーアヘッドの『白ナイル』『青ナイル』を知ったのも篠田の文章を介してだった。また、日本の評論ではあまり論じられない野上弥生子の『迷路』、島崎藤村の『夜明け前』の魅力を知ったのも篠田のおかげだ。
なお、4月13日が命日の文学者は篠田以外にもいて、斎藤緑雨と石川啄木、外国だとミュリエル・スパーク、ギュンター・グラスがそうである。

さて、私が住む自治体の図書館も完全休館となり、電話予約を含め一切の図書の貸し出しが止まった。東京都をはじめてとして、大都市の大型書店で営業を自粛しているところも多い。
ネット書店でさえ、取次の関係もあるみたいだが在庫切れ状態が増えているようだ。Amazonでないなら、楽天ブックス、そこでなければ…といくつものネット書店を見て回っている人もいるだろう。そこでお薦めなのが「書籍横断検索システム」である。ここで検索すると、上に書いたネット書店だけではなく、honto、e-hon、HonyaClub、HMVなどの在庫・取り扱い状況が一覧できるし、中古では、Amazon、ブックオフオンライン、ネットオフ、日本の古本屋、ヤフーオークションの状況も分かる(但し、検索は書名でできるが、追跡はISBNコードを使っているので、日本の古本屋やヤフーオークションだとヒットしないものがかなりある)。

http://book.tsuhankensaku.com/hon/

4月の最初の10日は仕事が忙しくあまり本が読めず、次の10日間は原因不明のスランプ、21日ぐらいからそれなりの状況になった。そして、上のようなことを書いたからだろうか、篠田の本が読みたくなり、『二十世紀の十大小説』を久しぶりに紐解いているが、そうなるとそこに出てくる『失われた時を求めて』も読みたくなってきた。同書では井上究一郎訳を中心に引用しているが(この時点では、井上の個人訳はまだ完成していなかったのでほかの訳も引用している)、私は鈴木道彦訳で挑戦する。ちなみに、井上訳(ちくま文庫)、鈴木訳(集英社文庫)以外にも、吉川一義訳(岩波文庫)が完結しており、高遠弘美訳は光文社古典新訳文庫で刊行中だ。この長大な小説をどれほどの人が読了しているのかは不明だが、個人訳が4種類も刊行されている国も珍しいのではないだろうか。

だから、「ゴールデンウィークは、『失われた時を求めて』を読もう」。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?