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プレミアリーグのブレントフォードと映画マネーボールに学ぶKPI設計の重要性

こんにちは!CURVA株式会社の坂口です。
今回は、最も重要なのにマーケティング現場で軽視されているKPIに関しての話を実際の事例を交えながらご紹介します。
KPIってなんぞや?CPAじゃあダメなのか?と感じている人にこそ読んでほしいです。

※KPI→重要業績評価指標
※CPA→コンバージョン単価

サッカー界に革命を起こしているブレントフォード

まず、ブレントフォードの説明から始めましょう。
イングランドのプレミアリーグで、執筆時点で現在8位(20クラブ中)のサッカークラブです。ここだけを見ると、普通の中堅チームかと思うでしょうが、このクラブは色々と面白いんです。

まず、1889年に創設され、第二次世界大戦以降は3部~4部を行き来しているクラブでした。2007年にクラブが財政難に陥った時に、ブレントフォードのサポーターが団結してクラブを買収して、イングランドでは珍しいクラブになりました。
その後、2012年にマシュー・ベンハム氏がファンからクラブを買収してから、快進撃が始まります。

2013-14シーズンに3部リーグで2位になり、2部リーグに昇格します。そこから一度も3部に落ちることなく、2020-21シーズンにはついに1部プレミアリーグへの昇格を果たします。

プレミアリーグは世界屈指の競争が激しいリーグで、昇格したクラブは約40%の確率で降格するそうなんですが、ブレントフォードの初めてのプレミアリーグは20クラブ中13位でフィニッシュ。迎えた2シーズン目の2022-23シーズンは前述した通り、現時点で8位の大健闘をしています。

しかも、現在プレミアリーグ1位のアーセナルにはアウェイで1-1の引き分け、2位のマンチェスターシティには1-2で勝利しています。
※マンチェスターシティにアウェイで唯一勝ったチーム。

オーナーの統計学アプローチ

クラブの大躍進のカギは、2012年にクラブを買収したマシュー・ベンハム氏なんです。ベンハム氏は、プロのギャンブラーで統計分析会社SmartOdds創業者という一風変わった経歴の持ち主なんです。

オックスフォード大学で物理学を専攻した後、金融業界に入り、12年間のキャリアを経て、バンク・オブ・アメリカの副社長に就任しました。2001年、彼は金融業界からスポーツベッティング業界へと転身して、ギャンブル企業プレミア・ベットのトレーダーとしての仕事を引き受け、世界で最も成功したギャンブラーの一人であるトニー・ブルーム氏の下で学んだそうです。
※因みに、トニー・ブルーム氏は日本代表の三苫選手所属ブライトンの現オーナーです。

その際に、ギャンブル用の予測分析モデルを作成しており、スポーツアナリストとして働いていた時の経験を生かして、2004年には自分のベッティングシンジケートSmartoddsを立ち上げました。

しかも、ベンハム氏は、筋金入りのブレントフォードファン。11歳のときに初めて試合を観戦し、スコアも覚えているほど。前述した、2007年にブレントフォードFCが財政難に陥ったとき、ベンハム氏は支援者に名乗りを上げ、クラブの買収資金の大半を負担したんだそうです。

そんな経歴のベンハム氏は自分が得意な統計学を使った分析コンセプトを試すために、デンマークの小さなクラブ、FC Midtjyllandに約1,000万ドルを投じて、実験をして上手くいった結果をブレントフォードに移植します。
(まさに、テストマーケです)

従来、試合の勝ち負け、ゴールやアシストなど分かりやすい数値でしか評価されていなかったサッカークラブのやり方を捨て、別の指標(KPI)を設定します。

ゴール期待値(xG)というKPI

その中の1つが、ゴール期待値という指標です。
ゴール期待値とは、あるシュートチャンスが得点に結びつく確率のことで、0〜1の範囲で表した指標です。つまり、チャンスの質を測る指標で、選手の能力やシュートの質を無視したものです。

大前提、サッカーというスポーツは、点が入りにくく、ゴールを邪魔するキーパーがいるのでシュートを打てば入るわけではない(GKの質にも影響される)、コンディションや時間帯(逆転されていると前がかりになりシュートが増える)など、外的要因が多く、単純にゴール数などでは選手の価値は図れないんです。

でも、ゴールを奪わなければ試合に勝つことは難しいです。
そこで、ゴールを奪うことを下記のように数式化します。

ゴール=ゴール期待値×決定力
※チャンスの質×シュートの質

前述した通り、決定力は様々な外的要因によりブレが大きく、指標として参考にするには信用度が低いです。
なので、もう1つのゴール期待値の指標で判断する。ということに決めたのだと思います。

つまり、アシストは少ないが、ゴール期待値の高いパスが多い選手は市場において過小評価されていると判断できますし、逆にゴール期待値よりも実際のゴールが少ないとあまり良い選手ではないと判断できますね。

こうやって選手を判断するときに、ゴール期待値というKPIを使うことにより良い選手を安く獲得し、場合によっては価値を上げて高値で売る。ということに成功しています。

例)
サイード・ベンラーマに380万ドルで獲得し、最終的にウェストハムに4,000万ドルで売却。
ストライカーのオーリー・ワトキンスに230万ドルで獲得し、最終的にアストンビラに3,600万ドルで売却。
ブニール・モーパイに210万ドルで獲得し、最終的にブライトンに2,600万ドルで売却。

映画マネーボール

因みに、ここまで話してきて気付いた方もいるかもしれませんが、2011年に公開されたブラット・ピット主演のマネーボールという映画にそっくりなんです。※ベンハム氏はその見方を否定しているそうですが

メジャーリーグの貧乏球団オークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャーに就任したビリー・ビーン氏が、セイバーメトリクスと呼ばれる統計学的手法で強豪チームに変えていくというノンフィクション映画です。

ビーン氏は、野球を27個のアウトを取られるまでは終わらない競技と定義付けた上で、それに基づいて勝率を上げるための要素をセイバーメトリクスを用いて分析し、得点期待値(三死までに獲得が見込まれる得点数の平均)を設定し、それを向上させることのできる要素を持った選手を「良い選手」としました。

その中でKPIにしたのが「出塁率」です。これは、四死球も含めた出塁する確率で、ビーン氏の定義に基づけばアウトにならない確率である、出塁率の高い選手を評価していました。
ホームランを売ったり、打率が高い選手は競合に取られてしまうので、市場で過小評価されている選手を安く獲得する方法ですね。

まとめてみると、やっぱりそっくりですねw
マネーボールのオークランド・アスレチックスにしても、ブレントフォードにしても正しいKPIの設定により上手くいったことは間違いないでしょう。

勝利のためには良い選手が必要→スター選手は取れないから安くて良い選手(市場価値の低い選手)を獲得する必要がある→市場価値の低いが良い選手をどうやってみつける?→ゴール期待値・出塁率というKPIを設定して評価する。

よくある失敗例

「KPIってやっぱり重要なんだ。自分たちもKPIを設定して業績を上げるぞ!」となる前にちょっとお待ちください。KPIは正しく設定しないとまったくいみがありません。ここで、よくある失敗例を2つご紹介します。

①関係ないKPIを設定してしまう

業績を上げるためには、KPIの数値を改善したら業績が比例して上がるものに設定しなければいけません。例えば、クライアントワークを行っている例だと、顧客満足度はKPIとして成立しにくいです。
顧客満足度が低くても売上が上がることはあるし、顧客満足度が高くても売上が下がることもあります。このように、重要だけどKPIとしては成り立たない指標で設定しないように注意しましょう。

②KPIをたくさん作る

これが本当に多いです。KPIの意味は、重要業績評価指標です。
重要なものが複数あると結局どの数値を見て良いかわからなくて、判断がぶれます。逆にいうと、複数あって絞り切れないものはKPIとして適切ではないです。

適切なKPIを設定し、改善し続ければ必ず業績は上がりますので、時間をかけてでも設定する価値があると思っています。
自社で設定するのも良いですし、弊社では経営指標の設計→マーケティングへの落とし込みなども行っておりますので、ご興味ある方はお声がけください。

まとめ

・ブレントフォードの革命
万年3部のクラブが2013-14シーズンに2部リーグに昇格、2020-21シーズンにはついに1部プレミアリーグへの昇格!
・オーナーの統計学アプローチ
プロのギャンブラーで統計分析会社SmartOdds創業者という一風変わった経歴の持ち主のベンハム氏の優れたコンセプト
・ゴール期待値(xG)というKPI
市場価値の低い良い選手を見つけるための指標
・映画マネーボール
打率ではなく「出塁率」をKPIにして成功した、オークランド・アスレチックスにとても似ている。
・よくある失敗例
①関係ないKPIを設定してしまう
②KPIをたくさん作る

お知らせ

私の経営しているCURVA株式会社では、マーケティングにおける戦略立案→戦術実行まで一気通貫で支援させていただいております。
最近始めて、人気が高いサービスが(仮)マーケティングの健康診断です。
簡単にいうと、マーケティングにおける問題と原因を分析し、改善策を出すというサービスです。勿論、その改善策の実行も可能です。

ここだけを見ると、そんなの当たり前でしょ。と思う方も多いと思いますが、現状マーケティングの相談をするときに「リスティング広告の成果が悪化していて改善してほしい」とか「LPがイケてないから直してほしい」とか改善策ありきで相談されることが多いです。

ですが、中身を見ると、そもそも申し込みにフォームしか存在してなくて、LINEアカウントを設置し、導線を整えるだけでCVRが2倍になったりするケースもあるんです。
つまり、やろうとしていた改善策は間違っている。
→売り上げが伸びない原因が間違っている。
→今起きている事象の原因を特定しないことには、正しい改善策なんて打てないんです。
体の不調はプロである医者に診てもらうように、マーケティングにおける不調もしっかりとプロに診てもらわないと改善できません。

現在はテスト的に行ってまして、限られた社数のみ相談無料で実施させていただいています。ただ、やるからには本気でやりたいので、分析に必要なデータを開示いただく必要があります。
※勿論、NDAを結ばせていただき情報も厳守いたします。
今後は有料にしようと思っていますので、ご興味ある方は、今のうちにSNSのメッセージか下記メールアドレスにお問い合わせください!

info@curva-web.com

普段はマーケティング思考を中心に発信していますので、もし良かったらスキ・フォロー・各種SNSで拡散いただけると励みになりますのでよろしくお願いいたします。

参考:https://www.axion.zone/matthew-benham/
参考:https://www.all-stars.jp/news/xg-premier-league-21-22/
参考:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AB


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