理学療法~臨床・教育・研究 ~


 皆さん理学療法士の時間をどのように過ごしていますか?

私は臨床13年目に突入しました。回復期・維持期・障碍者病棟などを含む病院に勤めています。

 当院では臨床実習教育に力を入れています。令和2年度からは20年ぶりに改訂された指定規則(PT・OTになるために必要な授業の内容や単位取得数、養成校の施設基準や臨床実習における決まり事などが明記。厚生労働省が制定。)に基づいた教育が行われることになっており、その準備を行っています。

 当院では研究も盛んに行っています。大学院へ行くスタッフが年々増加していおり、すでに修士・博士を取得している方もいます。

 このように私の周りでは臨床ー研究ー教育が少しずつ繋がりはじめています。ここで重要なのは「どの分野が一番重要か」ではなく「どのように各分野を融合するか」です。自分が力を入れている分野をアピールしたい気持ちはわかりますが、”他の分野を否定”してはいけません。各分野の考え方を理解・尊重し、融合していくことで理学療法士としてより成長できると思います。本日は臨床・研究・教育、それぞれの視点から理学療法を考えていきたいと思います。


考え方、知識の使い方


臨床

 臨床では『対象者を良くるため』に知識を使います。(良くなるの定義は難しいのでここではスルーしてください)”80%の対象者が良くなる治療”は言い換えると”20%は良くならない治療”です。私が担当した患者さんで「95%良くなると言われても俺が良くならなかったら意味がない」とおっしゃる方がいました。とても心理をついていると思います。

臨床では『患者さん』が中心に進んでいきます。対象の患者さんをよくするためには何が必用かを探るために知識・技術が必要になります。


研究

 研究は『介入・方法の良し悪しを見極めるため』に知識を使います。より多くの人が良くなるにはどうしたらよいかを調べます。個々の主張ではなく、多数の客観的な数値が重要になります。

研究では『介入・方法』が中心に進んでいきます。どのような介入・方法が多くの方を良くできるのかを探るために知識・技術が必要になります。

教育

 教育は『学生を国家試験に合格させるため』に知識を使います。問題と解答に正解・不正解をつけることが必用になります。医療・理学療法では正解はないことが多いので不自然なように思いますが、資格取得の合否を問うには仕方のない作業であるともいえます。

教育では『試験』が中心に進んでいきます。問題の正解を導くために知識が必要になります。


それぞれの融合


臨床実習

 はじめに経験する融合は臨床実習ではないでしょうか?養成校で受けてきた教育を臨床現場で試す作業になります。しかしここで違和感を感じる人も少なくないと思います。それはでは知識の使い方・その目的が異なるからです。

 養成校では「国家試験に合格するため」に①必要な知識を暗記する(授業)、②「問題」に対して「正解」を求める(テスト)形式で教育を進めます。しかし臨床では①患者さんに必要な評価・治療を考える、②患者さんによって「問題」が異なりセラピストによって「答え」が異なることを知ります。(正解はない)これは理学療法に限らず社会全般でいえる事だと思います。

『学生』『教員』『臨床家』全員がこの差異を理解する必要があります。


科学的根拠に基づいた医療(EBM)

 EBMを行うには『アウトプット』(研究者が科学的根拠に基づいたデータを示す)→『インプット』(データの取捨選択)→『アウトプット』(対称者に実施・効果判定)の流れが大切になります。

 大学院では”研究の手法””論文の書き方””統計学”などを学び、「論文を読む」「研究を遂行する」能力が上がると思います。この能力を『研究』のために使うと研究データを示すこと、『臨床』のために使うとデータを取捨選択し対象者に還元することが求められます。修士・博士を取得した方の後輩指導が前者に偏っている印象を受けています。(当院だけでしょうか?)

科学的な根拠を『研究者』『臨床家』が共同して用いEBMを実践できる環境・人を整えていく必要があります。

卒前教育と卒後教育

 現在の臨床総合実習における理学療法学生の到達目標は「ある程度の助言・指導のもとに理学療法を遂行できる」となっている。その後卒後教育を経て3~4年をめどに自立した理学療法遂行をめざすとのこと。しかし、理学療法士が勤める職場のうち一人職場が40%、2人職場が20%となっている。現場は対時間比で診療報酬が決まるため時間に追われておりそもそも教育できる環境になっていない。生涯学習制度があるとはいうものの…

 制度や環境の問題など『臨床教育』『卒後教育』に関しては言いたいことが沢山あるのでまたの機会に。いずれにしろ

『教員』『臨床家』が卒前・卒後に渡って教育していく必要があります。


まとめ


今回はそれぞれの立場に立ってどのように理学療法を考えていくのか、どのように協力して理学療法を築いていくのかについて話してみました。今後は臨床・教育・研究に加えて『産業』『起業』『講演家』など様々な分野で活躍する理学療法士も増えると思います。何が良い・悪いではなく、それぞれがお互いを尊重し長所を活かしながら対象者がより良い生活を送れるよう協力していけると良いですね。