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真のサービスデザインとは

法人設立ワンストップサービスの利用が低調とのこと。

なぜこんなことになるのでしょうか。

アリバイ作りのオンライン化

e-Japan構想で電子政府の実現を打ち上げ、2005年には国の申請等の96%がオンライン化されましたが、この成果が電子政府の実現に結び付かなかったことは皆さんご存じのとおりです。
当時の電子申請が使われなかった理由は、ひとことで言えば「使い勝手が悪かったから」でしょう。
電子申請に必須の住基カードは取得が有料でしたし、電子証明書は3年ごとに更新しなければなりませんでした。マイナンバーカードでは取得が無料になり、電子証明書の更新も5年ごとに改善されました。
こうなるとあとは電子申請そのものの使いやすさですが、上記の法人設立ワンストップサービスの利用率2%という数字は、そこが未だ改善されていないことの象徴でしょう。
デジタル・ガバメント実行計画において各種ワンストップサービスの実施が記載され、使い勝手はともかくまずはサービス開始が優先される。計画に記載されKPIが設定された途端、役所はアリバイ作りに走りがちです。

UX向上のためになにをするか

私も役人ですので事情は理解できますが、肝心なのはリリース後に使い勝手の改善は行われたのかということです。使い勝手とは、UIだけではなくUXも含みます。そしてUXの向上には、制度そのものを改善することが効果的です。
国は自ら制度を変えることができます。最近の例で言えば児童手当の現況届は原則不要になりました。届出をオンライン化するよりも、届出そのものを不要にするほうがUXが向上するいい例です。
こうした好例がある一方で、上記の法人設立ワンストップサービスのように使われない電子申請がリリースされることが起こります。
私は当事者ではないのでその理由はわかりませんが、想像はできます。サービスを設計する部門と実際にサービスを提供する部門の距離が遠いからでしょう。距離が遠いから、フィードバックがあったとしても届いていない可能性があります。

引越しにおける行政手続き

前置きが長くなりましたが、今回取り上げたいのは引越しにおける行政手続きについてです。
引越しにおける行政手続きは様々ありますが、その起点は住民基本台帳の異動であり、具体的には転出届と転入届です。
昨年住民基本台帳法が改正され、転出届のオンライン申請と同時に転入予約が可能となる下地ができました。
詳しくはこちらの資料をご覧いただければと思いますが、要点は「事前に住民の情報が分かることにより、来庁時の窓口対応時間を短縮できる効果」の部分です。
確かに転入者の情報のうちいくつかは、前住所地の役所から事前に送信されるため、転入者が来庁したときの窓口対応時間を短縮できる可能性はあります。しかしながら、現在の制度では一部の情報しか送られてこないため、足りない情報は来庁時にあらためてヒアリングをする必要があります。
では、このヒアリングを極力行わずに済ませるにはどうすればいいかというと、前住所地の役所から「転入者に関する全ての情報を引き継ぐ」ことができればいいのです。

トータルデザインの世界感

さらに言えば、上記のイメージはあくまでも現行の住民基本台帳制度を前提としたものです。
現在デジタル庁で検討されているトータルデザインが具現化した世界では、転出・転入という概念はなくなっているか、あったとしてもさらに簡略化されているかもしれません。
なお、どちらのイメージ図もわかりやすく対面での受付として描いていますが、オンライン申請でも同様のことは可能です。

真のサービスデザイン

上で「国は自ら制度を変えることができる」と書きました。
また、「サービスを設計する部門と実際にサービスを提供する部門の距離が遠いから」とも書きました。
国が制度を設計し、自治体が窓口となる手続きはたくさんあります。
今後サービスデザインによって行政手続きのUXを向上させていくのであれば、ぜひ自治体の、それも最前線の声を拾っていただき、真にユーザーの立場に立ったデザインをしていただきたいと強く願います。
もちろん我々も、本気になってその要請に応えていきます。

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