#1ニア/夏代孝明 歌詞考察 人間という生き物のこと、みんなはどう思いますか。
こんにちは。今回は夏代孝明さんの楽曲「ニア」について歌詞を深堀していこうと思います。
まずは「ニア」をお聞きしてからこちらの記事をお読みいただくとよりこの曲を楽しむことができると思います。
目次
「ニア」について
感情を持たないロボットのニアと人間を憂うマスター
マスターが信じた最後の希望
小ネタ
まとめ
1.「ニア」について
夏代孝明さんの楽曲「ニア」は2017年7月2日に公開された楽曲で同年に発売された「弱虫ペダル NEW GENERATION」OP曲「トランジット」のシングルカップリング曲として収録されました。さらに2018年に発売された自身のアルバム「Gänger」にも収録されています。
この曲は夏代孝明さんのセルフカバー版と初音ミクによるボカロ版の2種類があり、音楽ゲーム「プロセカ」の起用曲としても人気の高い曲です。
ハートフルなメロディに対してどこか切なく優しく話しかけるような口調の歌詞であり、MVもストーリー仕立てになっている何度も聞きたくなるような曲です。
私の1番好きな曲で初めてMVを見たときは感動で放心状態になったくらい見応え、聞き応えのある曲です。
2.感情を持たないロボットのニアと人間を憂うマスター
この曲は人工知能である「ニア」という少女と、彼女を作った「マスター」という男性が話しかけることでストーリーが進む構図になっています。
MVの右下にはこんな文字が書かれています。
「near」はニア、機械の女の子の名前です。夏代孝明さんの過去の配信で名前について、「名前の『ニア』はシンプルによくある名前の『Nia』と『近く』を意味する英単語『near』のダブルミーニングになっている」という旨の発言があったことを覚えています。
そのニアが成長する年月と、ニアに対して「MASTER」が質問をした回数、返事が来た回数が記されています。
歌詞に何度も出てくる「ねえニア」というのはおそらく我々が普段音声AIに呼びかける「Hey, Siri」や「OK, Google」といった掛け声に似たものなのでしょう。
しかしマスターはニアに対して愚かな人間のことをどう思うか尋ねます。
他人を嘲笑わなければ自分を認められないことや、周りの人の様子を伺って無駄に焦って駆け足になってしまう人間のことをマスターは嘆いています。
そんな彼らがいる部屋には様々な情報が詰め込まれています。
画像左側には現代のものよりも格段に進歩しているコンピューターのようなものとそれが置かれた机、スピーカー。
壁面にはマスターとニアと思しき写真が飾られていますがマスターの身長がニアよりも低いように見えます。
画像右側の壁は破壊されており奥にはUFOのような、兵器のような物体が宙に浮いています。壁の様子からこの部屋は何かが飛来して壁が吹き飛ばされたあとのように思えます。
左側の最先端の技術に対して右側には荒廃した世界が映されており、ただならぬ様子が伺えますが、歌詞と照らし合わせるとこれは今よりずっと未来の科学技術が発展した時代で世界を終末に追い込むほどの戦争が行われたのではないでしょうか。
そしてそれは人間のくだらなくつまらない性質が生んだものなのでしょう。
また、この最初の部分~Aメロにかけては
「Hello, Hello. I'm near. Who are you?」という歌詞が聞こえてきます。ニアはまだまだ作成者のマスターのことを認識できていないのでしょうか。
Aメロでもマスターの醜い人間の嘆きが続きます。幸せに過ごせる毎日を当たり前だと思うのは傲慢だと、そんな人間をどう思うかニアに尋ねます。
マスターの質問に対してニアは表情一つ変えずに聞いているようです。手書きで書かれた歌詞は黒から赤に変わります。おそらく赤で書かれた歌詞はニアのセリフなのでしょう。形のない不確かなものは計算を狂わせてしまう。
ニアは人工知能であり、人間の目に見えない性格や感情などの「フタシカナモノ」は彼女にとって理解できないものなのでしょう。
AIは過去のデータを基に作業を処理するため、現代の技術でも未来の技術でもAIに感情を持たせることは不可能です。ニアも感情を汲み取ったり感情を持つことはできないようです。
そして机の上に置かれた意味深な資料と注射器。
資料には「月面移住計画」という文字が読み取れます。
『だけど』というマスターの言葉がありサビに向かいます。
感情のないニアに対して、ここまで暗いことを言っていたマスターは笑顔で話しかけています。「僕」はマスター、「ココロないキミ」はニアのことでしょう。マスターはそんな人間の醜い性質に気づいていても、それでもまだ信じています。この動画の概要欄には夏代孝明さんのコメントとして
という文が書かれています。
夏代孝明さんの楽曲には聞く人を元気づける明るい曲もありつつ、人間らしさが光る暗い曲もあります。人間の良いところも悪いところも描いてきた夏代さんだからこそ、醜くどうしようもないところもある人間だけど、まだ信じてみたいと思えるのではないでしょうか。
そうするとマスターは夏代孝明さん本人と重なる部分も多いのだと思います。
マスターはニアの手を持って熱心に話しかけます。ニアはロボットのはずなのに彼女の手は温かいようです。
マスターが人間のことをまだ信じていられる理由としてニアの存在、そして彼女の成長もあるのではないかと思います。
よく「手が冷たい人は心が温かい。」なんて言いますが、では「手が温かい人」の心は冷たいのでしょうか、温かいのでしょうか。
これに関しては2008年にアメリカのエール大学とコロラド大学が共同研究をしていて、研究結果を発表したそうです。この研究を行った研究者は、「身体的に温かい状態にあると、我々は他者を心が温かい人だと判断し、自分自身もより寛大になったり温かい気持ちを持つ傾向があるのではないか」と判断しているそうです。
参考記事 https://josei-bigaku.jp/kagakukonky98332/
マスターは彼女に対して何万回も質問とその応答を繰り返しています。世界を滅ぼしてしまったかもしれない人間をそれでもなお信じて、心=感情がないニアに問い続けるのは次第に彼女の手が温かくなってきて人間に近づいていることがわかってきたからではないでしょうか。
人間という生き物はどうしようもない生物かもしれませんが、それと同時に成長することができる生き物でもあります。ニアが次第に人間らしく成長することはマスターにとって希望だったのだと思います。
3.マスターが信じた最後の希望
歌詞は2番に入り、ニアは15歳にまでなりました。相変わらず荒廃した世界ですがニアの表情に変化が起きました。
なんと笑っています。
笑顔でマスターと話しているではありませんか。マスターも笑顔で話をしている様子が描かれます。ただ、ニアが年を重ねると同時にマスターも次第に老いていっているように思えます。
2人が笑顔で会話することになったことで彼らの話題も明るいものになりました。前半のような人間を批判した質問ではなく、子どもの頃を思い起こすかのような質問です。
この部分に関して私は1つの考えが浮かびました。部屋の左上に飾られたニアと小さなマスターと思しき写真。「子供のころ」という言葉が出てきたため左の男の子はマスターで確定でしょう。しかし年齢を考えるとマスターが子供のころに現在15歳であるニアが存在するはずがありません。これはいったいどういうことなのでしょうか。
説①ニアにはモデルがおり、それはマスターのお姉さんかだれかだった。マスターはニアのモデルの女の子が大好きで、大人になってから「夢の続き」としてニアを作った。
説②写真に見えたものは写真ではなく、子どもの頃のマスターが思い描いていた絵だった。「子供のころに見てたあの夢」とは人工知能を作ることであり、それが現在に繋がったということ。
説③あの写真はニアが時間遡行を行って子供のころのマスターに会いに行ったときのもの。その夢の続きがこんな未来(現在)に繋がったということ。
①はマスターの家族や友人に関する示唆が特にないので根拠は薄いです。
②は大人になって科学者になるくらいのマスターですから、子どもの頃から人工知能を作りたいと思い描いていても不思議ではありません。
③に関しては「『時間遡行』って、急に何突拍子のないことを言ってるんだ」と思われたかもしれませんが、この単語に関しては動画の最後に「月面移住計画」「時間遡行計画」という文字が登場します。
「月面移住計画」とは研究者であるマスターが計画していたものです。愚かな人間の行為によって地球に住むことができなくなったため、代わりに住む星として月面に移住することを研究していたのでしょう。
しかし私は「時間遡行計画」とはマスターではなくニアが書いたものなのではないかと考えます。動画の最後、マスターはおそらく亡くなってしまい、微笑むなどの感情を表現することが出来るようになってきたニアがマスターの死を目の当たりにして大泣きします。これはマスターが叶えたかった「感情を持つロボット」の完成を表しています。複雑な演算をすることが出来、さらに人間と同じような感情を得たニアは人類よりも能力の高い存在となりました。
そんな彼女が大好きだったマスターに再び会うために「時間遡行」を行った、というのが私の考えです。
2番のサビに入ります。
1番のサビでは『信じてる』『キミの手が温かかったから』などの前向きな言葉が目立っているのに対して2番はマスターの悩み、苦しみが伺えます。
『明日のない暗いこの宇宙の下』とは人類がまだ成し遂げたことがないであう惑星移住に関して希望が持てないことへの不安が表れているのでしょうか。
それに呼応してニアの手も震えていたが、それは自分のよりも震えているような気がしたと語ります。ここの部分でニアの感情に笑顔以外のものが増えたと考えられます。
Cメロに入りマスターは再びニアに愚かな人間のことを問います。自分を守るために他人を馬鹿にして、そうでもしないと自分自身を肯定してあげられない、そんなくだらないことばかりの人間のことをどう思うのでしょう。
ラスサビです。
こんなに人間に失望しているマスターでも人類のために「月面移住計画」を作り、まだ期待している部分があるようです。
地球は生命が住めないほどにボロボロになり目も当てられない状態。しかしニアのいる、人類が今まで住んできたこの地球という惑星のことを忘れることはできません。
そして最後、ニアのセリフは"Who are you?"から”I love you."へと変化しました。
私は最後までこの曲を聴いて、「こんなにも荒廃した絶望的な世界でなぜマスターはそれでもなお人間を信じられるんだろう、期待できるんだろう」と考えていました。
その答えが見つかりました。
マスターにとってニアという感情を持ったロボットを作ることは長年の夢だったのでしょう。ロボットが人間のように感情を持つことは不可能に近いことです。でもニアは感情を持ちました。温かい手を持っていました。
不可能だと思われていたことが目の前で実現している。奇跡とも言えるこの状況はマスターにとって希望だったのだと思います。
人間のように感情を持ち人間のように温かい手を持つニアはそれだけでマスター、ひいては人類の希望だったのだと思います。
絶望的な状況でも最後まで決して諦めることのなかったマスター。
不可能だと思われていた感情を持つことを成し遂げたニア。
聴いた瞬間に脳裏に焼き付く魅力的な夏代さんの歌声とそれを最大限生かしたメロディ。
考え抜かれた歌詞と引き込まれる世界観のあるMV。
まるで一本の映画を観たあとのような感動が込み上げてくる、そんな作品でした。
4.小ネタ
細かな表現がたくさん描かれていたMVの中で気になったことをいくつか紹介しようと思います。
まずは冒頭に描かれていた街に浮かぶ謎の物体。
これはニアとマスターが楽しくお話ししていた時期までは宙に浮いていましたが、2番が終わった後Cメロに入ったシーンでは消えていました。
あれはいったい何だったのでしょうか。兵器だったのか、月面移住のためのロケットだったのか。ロケットだった場合ニアとマスターは月面移住を果たせなかったのでしょうか。
二つ目は冒頭からずっと出ているリンゴ。
リンゴと言えばアダムとイヴの話に出てくる「禁断の果実」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
禁断の果実というと、初めて創られた人間であるアダムとイヴは蛇に唆されて食べてはいけないとされていた善悪を知る知恵の木の実を食べてしまいました。
そこから二人は知恵を得たもののエデンの園からは追放されてしまいました。
さらにリンゴはニュートンの万有引力の話でも有名です。
このようにリンゴはどちらも「知恵」「知識」というワードに結び付けられると同時に神話では人間の愚かさも表現するための果実でもあります。
月面移住計画や感情を持つロボットの発明など、「知恵」「知識」と関連付けられるニアとマスター、地球を破滅へと追い込んだ人類の愚かさを表現するのにぴったりな果物だと思いました。
3つ目は机に置かれた注射器の数です。
机の上の描写はサビの前に2回描かれていますが、1番では1本だった注射器は2番になると5本に増えています。
ここでもマスターの体調の悪化が伺えます。
最後は動画で度々出てくる右下のカウンターです。
マスターが生きているときならばニアの年齢と会話のカウントは比例して増えていましたが、マスターが亡くなった後はニアの年齢のカウントだけが増えていきました。会話は100万回も超えていましたが、最後ニアだけが成長していくところは悲しさが残りました。
5.まとめ
ということで今回は夏代孝明さんの楽曲「ニア」を紹介、考察しました。
何度聞いても最後ニアが大号泣しているシーンが蘇って感動してしまう、そんな曲でした。
皆さんもMVの細かな描写も楽しみつつ、歌詞にも注目してみてはいかがでしょうか。
それでは聞いてください、「ニア」
(感想、考察コメントお待ちしております!)