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ルートヴィヒ2世の城たち

 ミュンヘン2日目、私はベルトラで予約したバスツアーに参加した。リンダ―ホーフ城とノイシュバンシュタイン城を訪れたのだが、どちらも城の中が撮影禁止だったので、ガイドの人から聞いたことと、自分の感想を共有しようと思う。これから行くという方の参考になれば幸いである。
 早朝のカールスプラッツを出発したバスは、アルプスのふもとを走ってリンダ―ホーフ城に到着した。

リンダ―ホーフ城

 バイエルン王ルートヴィヒ2世が自己の夢を具現化するために建設した3つの城のうち、唯一完成しているのがこのリンダ―ホーフ城である。ちなみに、城と言っても、日本の城のように軍事的な役割を持つものではなく、どちらかというと宮殿に近い。

ルートヴィヒ2世(Wikiより)

 美しい庭園の中に、まぶしい白壁の城が堂々と立っている。

リンダ―ホーフ城
庭が美しい
壮麗な正面

 中に入ってすぐ、天井には "Nec Pluribus Impar" の文字。唯我独尊というような意味の、太陽王ルイ14世のモットーである。ルートヴィヒ2世は、フランスの王権神授説を支持し、ルイ14世を敬愛していた。それがうかがい知れる入り口である。
 内部の装飾はフランスのロココ調に統一されている。それもそのはず、この城はそもそもヴェルサイユ宮殿を手本にして作られており、至る所にフランス王家のメンバーを描いた絵が飾ってある。
 ルートヴィヒ2世のベッドルームは広大で、金の装飾がふんだんに施されている。大鏡の周りにはマイセン磁器の花や天使の飾りがちりばめられており、目を奪われる。ベッドがブルーなのは、ルートヴィヒ2世の一番好きな色がロイヤルブルーだったからだそうだ。
 ダイニングルームには、巨大なマイセン磁器のシャンデリアがあり、その美しさにはため息が出る。ダイニングテーブルが置かれた床が下の階に下がり、食事が載せられて再び上に上がってくるという何とも贅沢なからくりまであった。
 鏡の間には、ミュンヘン産の様々な陶器やインド象牙のシャンデリアがあった。鏡の配置によって、部屋が無限に続くように見える仕掛けになっている。
 このリンデンホーフ城はルートヴィヒ2世が死んでから6週間後には館内ツアーが始まったのだという。この豪華絢爛な城に、少し哀愁が漂って見えるのは気のせいだろうか。

ノイシュバンシュタイン城

 いよいよかの有名なノイシュバンシュタイン城へやってきた。ちなみに、ここを訪れる日本人は非常に多く、ドイツでは日本人の植民地だと認識されているらしい。日本でもニセコはオーストラリア人の植民地だから、こういうことはどの国でもあるのだなと思った。

日本語の標識まである

 壁絵が印象的な町オーバーアマガウを通り、しばらく走る。

オーバーアマガウ

 到着すると、バスはルートヴィヒ2世の父であるマクシミリアン2世が建てたホーエンシュヴァンガウ城の下に停まった。まずはアルプ湖に行ってみる。

ホーエンシュヴァンガウ城

 白鳥が優雅に湖面を滑る姿が美しく、思わず見とれてしまう。

アルプ湖の白鳥

 実は、ノイシュバンシュタインやホーエンシュヴァンガウのシュバン(ヴァン)とは、英語で言うスワン、つまり白鳥のことだそうだ。白鳥はこの地のシンボル的存在で、白鳥にまつわる寓話もあるそうだ。この優雅な姿を見ていると、それもうなずける。何はともあれ、本当にきれいな湖だ。
 さて、ノイシュバンシュタイン城に行くには、山を登らなければいけないのだが、馬車、バス、歩きという3つの方法がある。馬車は9ユーロで、高いのでパス。歩きでもいいのだが、集合時間に遅れることは避けたいので、登りはバス、下りは歩きにすることにした。

馬車も楽しそうだなあ

 バスは激混み。でも意地でもどこか掴まるところを見つけておかないと、山道の急カーブで盛大に周りの人にぶち当たりまくってめちゃくちゃ白い目で見られてしまうので要注意(実体験)。
 バスを降りて、絶景スポットと言われるマリエン橋を目指す。そこには橋を渡りたい人の大行列が。30分ほど並んでようやく橋に差し掛かる。

マリエン橋は大混雑

 さすがに圧巻の景色。これは本当にすごい。今まで見てきた中で5本の指には入る絶景である。

圧巻の絶景(写真の10倍はすごい)

 事前予約のオーディオガイドツアーでしか城に入ることができないので、予約の時間を待ち、城に入る。

ところどころで見える景色も最高

 同じく世界遺産のヴァルトブルグ城を手本にしたとされる内装には、ロマネスク調の装飾が施されている。ルートヴィヒ2世の中世への追憶が感じ取れる。神話上や歴史上のあらゆる英雄的王の姿が描かれた絵画が飾られていて、ルートヴィヒ2世が彼らにあこがれていたことが分かる。しかし、ルートヴィヒ2世は普墺戦争などの時代の波の中で、実際には憧れの王になることはかなわなかった。彼は、そういった現実から逃避するためにこの城を建設したのである。
 時代の変わり目にあって、フランス式絶対主義の復活を祈った王ルートヴィヒ2世。大の読書家で、ワーグナーの後援者だった文化人ルートヴィヒ2世。理想と現実のギャップに苦しみ、とことんまで現実逃避した人間ルートヴィヒ2世。彼の人生を、彼の作ったこの壮大な夢の城を通して少し知ることができた気がする。
 城を出て、山道を下っていく。旅に出てから、大都市ばかりに滞在したので、森の空気がとてもおいしく感じる。石清水や揺れる木々の音に耳を澄ませながらしばらく散歩できて、大いにリフレッシュできた。

小川のせせらぎ
自然の空気を吸う

 それにしても、本当に絶景だった。なかなかツアーなしでは行きにくいが、1人旅でも行けたら行くことをお勧めする。


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