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ドラマ感想「仮面ライダーBLACK SUN」…50年の重みと複雑さ

「仮面ライダー50周年記念作品」

先月28日に全10話一挙配信という形でお目見えしたメモリアル作品、「最後の昭和ライダー」であるBLACKのリメイク。
全話観終えるのに一週間かかったが、ネット上では配信日の午前中に終えてるファンもチラホラおり、オタクの熱量を思い知った次第である。
これも50年コンテンツであるがゆえかな、と思う。
で、今作は歴史あるシリーズの強み、弱みが溢れたある意味快心作だと感じる。
一言で言うと…

平成無き、仮面ライダー

この作品は極道もので有名な白石和彌監督が初めて特撮に取り組んだもので、近年の仮面ライダーの要素が薄く独自性が強い。
予告編の段階でもクウガ~ギーツまでの作品が無かった場合での、2022
年版仮面ライダーな印象を持っていた。本編を観ても、下地になっているのが昭和の仮面ライダーで、クウガ以降の作品の匂いが無かった。
それは、現在放送中の所謂ニチアサライダーとは別物である証で、別枠で作られる意義があったと思う。

仮面ライダーの現状が…

正直、良いと思っていない。
コロナ渦の影響はあろうが、セイバーからの三作がどれも低調でそれはここ数作の劇場版の興行収入に表れていると思う。
昭和の頃から、ウルトラマン、仮面ライダー共に休止期間が存在する。それは様々な事情があるものの番組制作が困難になった、という「やむを得ない休止」なのは共通しているであろう。古くはウルトラセブンの時点でシリーズ休止があった訳だが、現在のニチアサライダー、休止に値する状況ながら止められないゆえに更なる低迷に繋がる悪循環の中にいると感じる。
スポーツに例えるとチーム成績が悪く下位に甘んじているが打開策が打てない状態。ここでこのBLACK SUNは仮面ライダーというコンテンツから見れば個人成績のポジション。配信ドラマが成功か否かを何処で判断するべきか難しいが、仮にこれが好評でも結局チームの上昇に繋がらなければその個人が別のチームに移っていくだけである。

BLACK SUN自体の評価としては

個人的には面白かった。
メインキャストの二人は流石の格好良さだし、ゴア描写も見るに堪えないほどではない。差別描写を含む世界観の描き方が粗だらけ、という評も見かけるがそれこそ「昭和特撮」ってそうじゃない?と。
シン・ゴジラはリアルだった、と引き合いによく出されるがあれとてツッコミ所はあるのである。重要なのは「特撮」…特殊撮影のウリである「実在しないものを見せる映像」をどこまで信じさせてもらえるか、である。
仮面ライダーは、等身大ヒーローを格好良く見せてくれれば、視聴者としては満足出来るコンテンツだと思う。逆にそれがなければリアルな世界観や設定など意味がない。リアリティへの感心はあくまでオマケなのだ、
加えて仮面ライダーは人に非ざる者になってしまった悲哀、それでも悪に立ち向かう強さ、この二つが根底にあれば成立するのではないか。その点に於いてこのBLACK SUNは当たりの作品だと思う。
ただ、50年前の過去編が不要だったな、という印象。前後編の二本立て映画ならば良かったが、10話という尺で特に面白くもない説明パートを頻繁に差し込んでくる冗長さが気になった。

メモリアルとは

今年3月、仮面ライダーオーズ10thとして「復活のコアメダル」が公開され、その内容が物議を醸した。
個人的には肯定的な見方をしたものの、否定派な知人と衝突したりしてオーズのイメージダウンになってしまった感が否めない。
~周年などというのはあくまで売り込みの為の謳い文句に過ぎないが、それを本筋のTVシリーズとは別に制作する理由にしている場合視聴者は現行作以上の感動、シリーズファンである事を肯定してくれるものを期待するのが常であろう。「復活の~」は10周年を宣ってエゴイスティックな作品を出してきた事が反発を生んだ、と思う。
このBLACK SUNはBLACKのリメイクで、新規BLACKファンとなった白石監督の情熱は感じられる作品になった。その点で合う合わないはともかくオーズよりずっと視聴者寄りのプレゼントになっている。と、捉えれば良いものなのだが、これを先述の「仮面ライダーの現状」と照らし合わせると「メモリアルがこれで良いのか?」という疑問は沸いてしまう。
既存のファンに応える事、新規ファンを獲得する事、これを両立できなければ長寿コンテンツは成り立たない。作り手、受け手共に50年の中で新陳代謝が起こっているはずで、「仮面ライダー」の冠をつけ続ける事の難しさはこの新旧要素のバランス。BLACK SUNは、行き詰まり気味な現状の中で畑違いの監督により仮面ライダーってやっぱり格好良いでしょ、というアプローチには成功したが、果たして主軸である…つまり「試合に勝てるチームに立て直せているのか?」という点では、正直弱い。
CSMサンドライバー、反響は良いのにいまだに予約可能なところが、商材として、作品としての弱さを裏付けている。

一方、今年の光は

5月に「シン・ウルトラマン」が公開され、にわかにウルトラマンブームが起こった。過去のウルトラマン映画のDVDがAmazonランキングの一位になったり、6年前の玩具が再販されたり、これを機にオーブ、Zといった近年の作品を観てジャグラス・ジャグラーのファンになった人達の声などを多く聞いた。
現行作であるデッカーは、そもそも好調だった前年のトリガーの勢いを受け継ぎ円谷プロの業績を押し上げている。世界観が繋がっているので商品展開を継続出来ている上手さもあるだろう。
わかる通り、ウルトラマンは新旧のバランスを取り新規ファンの獲得に成功している。シン・ウルトラマンがその大きなキッカケになったのは確かで、旧来のウルトラファンである私には喜びに満ちた一年になった。
仮面ライダーはどうだろう。
BLACK SUNで、シン・ウルトラマンの様な成果はおそらく得られていないが、それが必要なのもこのコンテンツの実情ではなかろうか。

来年3月には「シン・仮面ライダー」が公開される。
これが新規ファン獲得に繋がるかどうか分からないが、繋がらないとあまりに悲しく、それを願わずにはいられない。
2023年が、仮面ライダーファンにとって喜びの一年になります様に。

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