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父になりました その5(祝1ヶ月)

9月末 夜

1ヶ月を前にして、仕事仲間と近所の居酒屋へ。彼は年齢も自分と近く、1歳になる娘がいる。まさにそういう世代なのだ。やはりと言うか、不妊治療も少し経験しているようだったけれどそれを深く聞くのはやめておいた。もしかしたら聞いてほしいのかも知れないが、違うかも知れない。

その日のお店は彼の行きつけで、ご主人もまた年の近い感じで1歳になる双子がいるらしい。日本酒も進んできた頃には当然のように子供の話になった。そして三つ子の事実に驚かれるのもまた当然。「ご愁傷様」と言われる。なんだか当事者の実感がこもっている感じがして背筋が少し冷えたが、笑ってやり過ごす。その双子ちゃんは1卵生らしく出生も1300gくらいだったようで、それはまたそれなりの壮絶さがあったに違いない。出産時の同意書などの話をしているときの顔はこわばっていた。ここでもご主人から口にしたこと以外は特に根を掘らないようにする。聞きたいのは山々だけれども。それより今無事に育っていることについて盛り上がる方が酒場には合っているのである。

カウンターの反対側に座っていた、息子夫婦を連れた気風のいい感じのおばちゃんがその話に反応してきた。「ほんと~に、おめでたいねぇ~~」を連発して何度もうなずく。よく頑張った、よく頑張った、ありがたや、ありがたや。普段は少し身じろぎするようなおばちゃんとのやり取りも今はなんだか心地いい。こちらも「おかげさまで」を連呼する。「ちょっと、この兄ちゃんたちに1杯ずつ付けてやって」と、「風の森」を1杯奢ってくれた。おばちゃんに後光が射しているようだった。そのあと、一足先に店を出たおばちゃんに深々と一礼をした。

はや、1ヶ月を迎えた。

ここ二週間ほどは、1日置きくらいで面会に来ている。ほんとは毎日来たい位だけれど、治療室で過ごすのは割と体力を使うのと、たった1日ではさすがに成長が見られなかったりもするので身体・精神両面のバランスを考えて少し「抜き」を作ってみた。おかげで毎回、何らかの変化を感じることが出来る。

3人ともNICUからGCUへ移ってきた。柔和な雰囲気とはいえやはり隔離病棟のような雰囲気のあったNICUに比べて、GCUはどこか緊張感も薄い。看護師の顔が明るい感じがするのは灯りのせいだけではないと思う。談笑も聞こえる。

うちの3人はまだ保育器だけど、周りはほとんど屋根の無いコットに寝そべっている。うちの子らがそれに移るのも時間の問題だろう。隣のコットに寝ている2300~2500gくらいの健康そうな赤ちゃんの名札が目に入った。出生時体重が600g台と書いてあって、目を疑った。が、その子も来週には退院らしい。ほんとに現代医療というのは恐ろしいやら、素晴らしいやら。

「抱っこしますか?それともカンガルー?」と看護師さん。今日は3人同時に相手をしてみたいので、抱っこをする。

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