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単身でのクリスマス。そして年越し 1

クリスマスを1人で過ごすのは、何年ぶりだろうか。

柄にも無いことを言う様だけれど、ここ10年はおそらく、必ず誰かと過ごしていた。

誕生日や記念日〜クリスマスなどで食べるケーキはいつも最寄り駅ビルの地下で買っていた。2人で食べるのにちょうど良いサイズのホールケーキがあって、これが程よく美味い。甘過ぎない生クリームがコーヒーととても相性がいい。当時は、いい加減飽きてきた〜というような話も出ていたけど、他に思い当たる店が無い。まさに定番。

この先その店のケーキを食べる事はあるのか?ないかも知れない。それまでの生活から、がらっと変わってしまった。その事実をひしひしと感じずにいられない。いや待て、別に離婚したとか逃げられた〜とかじゃない。が、確かにこの感触は彼女や妻と別れた〜とか、そういう感触と似ている気がする。しかし、これはただの単身赴任。ただ住む場所が今までと変わらないだけ。普通は、夫がどこか別の場所に赴任するものだ。同じ場所に居るのに、ちょっとした事が全然違う。しかも待ちに待った子供の顔を見て間もなくの、この変化。やっとつかみ取ったモノがすっと手を離れて、目の前から消えたような、何ともいえない喪失感がある。この状況はいつまで続くんだろう・・・?

これほどの挫折は今まで無いかも知れない。大なり小なり、自分が思った事はやってきた。何かうまくいかない事があっても、それはすぐに納得がいった。あきらめる事が出来ていた。そこには、それに勝る、なんらかの達成感が他にあったから。けど今は違う。一番起こって欲しくなかった事が起きている。

妻と子供の居る生活が、実現した。思ってたより少し人数が多いけれども、それはそんな大した問題ではない。と思っていた。家族が居る——ちょっと前までは諦めかけていた生活がここにあるのだ。そう思うと体に力が漲ってきた。同時に大きな安堵感。

それらが全部、突然手からこぼれ落ちた。別に離婚したわけでも、ましてや死に別れたわけでもない。ただの単身赴任。北海道に行きさえすれば、みんな居る。周りの人たちは何をそんなに・・と思うかも知れない。事実よりも些か大きな喪失感。。。軽い鬱状態と言うやつかも知れない。近所の駅ビルを歩く足取りはどこかフワフワしている。

駅前のデパートにある、キッズフロア。三つ子の初めてのクリスマスのために、赤色の服を買ってやろうと子供服売り場へ向かった。赤と白、たまに茶色、そして少しだけ黒。この組み合わせだけで売り場が埋め尽くされてる。子供ならサンタでもトナカイにでも、何にでもなれる。これだけ種類があれば3人分なんか楽勝で揃う。

「MY FIRST CHRISTMAS」と書かれた真っ赤なトレーナーにトナカイの絵のついたズボン、そしてトナカイの顔が入った帽子。もう一方は白地に小さな柄のたくさん入ったワンピース。そしてまた赤のワンピース。目についた順にカートに放り込んだ。どれも可愛い。軽く小躍りしたあと、それを着た我が子を直接眺める事ができない事実にまた気分が沈む。こんなアップダウンがこれからしばらく続くのかと思うと、また頭がフワフワしてきた。傍目からは割と冷静な感じに見えてるのだろうか?会計を済ませ、そのまま宅急便で北海道へ発送して売り場をあとにする。手ぶらで店を出る。

もう一つのクリスマスプレゼントを買いに別のビルへ。とあるショップ。奥さんとよく服を買いに来た。もともと奥さんの好みだけど、連れ添って通ううちに自分も好きになった。店員の挨拶に軽く反応しつつレディースのエリアへ。クリスマス的とまでは言えないけど、赤茶色を中心に編み込まれたタートルネックのセーターを見つけた。セータの上にあった同系色のニットキャップも良い感じ。両方を手に取ってレジで会計を済ませ、先ほどと同じ住所へ発送を依頼し、手ぶらで店を出る。

またケーキ売り場を素通りして、駅ビルの駐車場へ戻ってきた。色々買ったけど全部送ったからすっかり手ぶら。虚しさが襲った。家に着いた頃、奥さんから写真がが届いた。子供達と、甥っ子達もいる。テーブルには生クリームとチョコレートの、大きめのクリスマスケーキがそれぞれ1つずつ並んでいる。甥っ子達はテーブルの前で元気にピースしてる。後ろの方で三つ子達がミルクを飲んでいる。脇の方で、奥さんが次男にミルクをやっている。「クリスマスどころじゃない」という顔をしている。おそらくケーキは甥っ子達が平らげたのだろう。あちらも生活が変わってしまっている様子。「子供の服を送った」と返信しておいた。セーターは届いてからのお楽しみ。


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