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退去

2LDKの契約更新月。12月の時点で既に更新料は支払っていたものの、もうここに住み続ける理由が見つけられなくなっていた。男の一人暮らしには広すぎるし、完全な仕事部屋にするには設備が足りない。ゆくゆくみんなが戻ってくるとしても、ここで5人暮らしは狭い気がする。帯に短し襷に長し。 地方出身者には、都内での子育ては難しいイメージしか湧かない。北海道では、保育園の話題が出始めていた。あちらでは待機児童という言葉はあまり身近でない様子。多胎児という特別感も相まって保育園の枠は苦労しないようだった。かたやニュースでは都内の育児事情がため息と共に語られる。

ここに家族が戻ることは、恐らく、もうない

2LDKは引き払って、防音室のある部屋を探す事にした。仕事に集中すれば、時間は過ぎてくれる。

さておき

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2月は奥さんの誕生日がある。子供が生まれてから初めての記念日だ。昨年の誕生日では、次はあまり自分らの誕生日どころじゃ無くなるかもな…などと笑い話にしていたけれど、ここまでとは思わなかった。まるで余裕がない。都合よく、誕生日付近で北海道へ行くことができたが、もはや夫婦で過ごす誕生日などそこにはなく、どちらかというと「〇〇家の長女の誕生日」という空気感でささやかなパーティーが開かれた。せめて、寝室に戻ったら花が置いてある…位の演出をやりたくて近所の花屋さんにお願いしてみたが、宅配業者のいつものルーティンワークに乗せられた荷物は、包み隠すことなく家の正面玄関へ堂々と届けられた。小さな鉢植えに入った花に、素朴な柄のメッセージカードが付いていて太めの明朝体で「おめでとう︎!!」と書いてあった。!!が鼻につくその文体は、卒業証書か何かと間違えたのだろうかと疑いたくなる硬い文体だった。その花はすぐに、奥さんの手によって子供の手の届かない棚の上に置かれた。

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父親目線での三つ子育児日記 退院後の子育て開始から北海道移住まで

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