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父になるようです その5

三月に入った

本格的に悪阻が始まったらしい。

絵に描いたような妊娠の兆候にこちらはテンションが上がって面白がっているが、本人はそれどころでは無い。

他人事で申し訳ないが、まぁ本当に面白いくらい食っては戻し食っては戻し…

これが自分ならいっそ殺してくれ、とか思うかも。

徐々に仕事もままならなくなってきている。朝起きたときの体調が最悪らしく、休みがちになってきた。

普段なかなか働き者の奥さんなので、この状況はさぞかし歯がゆいだろう。休みの電話を入れる口調がもう土下座でもやらんばかりで、ご迷惑をおかけします。。と受話器に頭を下げている。これも数日続くと、職場での立場も微妙な感じになってくる。

ただ、奥さんの職場は介護施設なので、こういった健康面のケアは他より充実しているのでは?ちゃんと状況が伝われば、大手を振って休暇も取れるのでは?一回職場に顔出してみたら?送ってやるから、と、とりあえずの出社を促すも、もはやそれどころでもなさそう。むしろその出社を促すことに対して恨み節が始まる。「そんなに働かせたいの?」と。イヤそういうわけじゃなくて一度出社して事情を説明してだな…八つ当たりの頻度も半端なくなってきた。もうこうなったら、女性にはひれ伏すしか無いのだ。だって論理性が全く無いのだから。口論など無駄。

週も半ばに入ったとき、仕事を辞めたいと言い出した。この状態では出勤できないから、と。いやいやいや、奥さんの職場は福祉介護施設。そう小さい企業でもないうえにしっかり正社員。入社当時にもらった福利厚生の資料は何かの教科書か?というくらい分厚い。当然、「妊娠したら…」なんてことも書いてある。ちょっと考えれば、しっかり手続きを取れば何なら明日から産休を取ることだって可能だとわかるはず。自営業の自分からしてみれば雲の上のようなVIP待遇である。「フリーランスなど虫ケラみたいなもんだ」というこれまた同じフリーランスの友人が放った一言が脳裏に浮かぶ。保険も効かない上にちょっと動かなくなりゃ捨てるようなクソみたいなブラック会社も多々蔓延る中、ちゃんとした会社に入ったのなら、労働者の権利はしっかり使うべきだ。何も悪いことはない。それが悪いなんてことになるのなら、この分厚い冊子を作った人の労力はどうなる。

そんな屁理屈は通用しない。

悪阻真っ最中の妊婦さんには論理性は、通用しない。

「どうせあなたにはこの辛さはわからない」と始まった時、何かの切れる音がした。

あーわかった、辞めてこい。
なんか知らんが行きたくないんなら行かなきゃいい。

なーんもするな。辞表書け。
今すぐ会社に電話しろ。

普段、「カワウソくんみたい」などと言われるほど微妙にハの字に垂れた僕の眉が真逆にひっくり返った。そんな僕の顔に怯えたように、あわてて奥さんが職場へ電話をかける。はいはいはいもうやめてしまえ俺が稼ぎゃいいんだから etc...

やっちまった。と反省したがもう遅い。
よくこうやって墓穴を掘るのだ。

その後、ひとしきり職場の方と相談を重ねて

有給をフルに使い切り、ひどい悪阻による傷病手当扱いなども含む、早めの産休取得が決定したのでした。

やっぱり大企業って、凄い。

つづく

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父親目線で綴った三つ子の育児日記です。 奥さんの妊娠から出産〜退院までをまとめています。

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