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父になるようです その4

次の週。

エコー画像にはくっきりと三つの袋。

袋の中身も確認できたという事で、がっちりと三つ子が確定したのです。

ちなみに
「品胎」と言うらしいです。

見たまんま。

両親に電話で報告。わりと脳天気な発言の多いうちの母も流石に「…えっ(°ロ°)」としばらく絶句。

これから色んな人で、何度となく目にする反応です。

三つ子の出産や育児の経験が豊富な親など、まぁ居ない。出てきた言葉は

「…う~ん…どうしようかねぇ………まぁ、大丈夫でしょ、大丈夫大丈夫」

頼りない。まるで打開策の無いまま「大丈夫」を連発するなんてもってのほか。

しかし、そんな経験はもちろん無いのだから当然である。

子育てや人生においても当然、大の先輩である両親と、ペーペーと呼ぶにふさわしい息子。その差はそうそう埋まるものではない。
しかしながらこれは、親と子が今までで最も近い目線上に立って会話を交わした瞬間でした。

無策ながら「大丈夫」と言い切った母親を心から尊敬します。他人事ではない。なんせ我が子であり、孫である。適当に素通りなどできるはずが無いのです。それを踏まえての、無策の「大丈夫」。
母自身も何かを覚悟はしていたはず。


とはいえ、色々な選択肢がありました

「減数手術」の話

まず第1の関門として「産むか堕ろすか」。

少ない回数ながらも不妊治療までして授かった我が子でしたが、思いもしないリスクが降りかかったわけなのでそれは悩むわけです。いちど堕胎して再チャレンジする手段ももちろんある。が、

このとき既に30も半ば、既に高齢出産のカテゴリに入るなかで多胎というさらにハイリスクな状況をこのまま進めるのか。

資金もストレスもかかる不妊治療を長く続ける気はありませんでした。いっそのこと子供を諦めて、犬や猫を飼いながら2人でゆっくり暮らすのもそれはそれで幸せなはず。一番気楽かも知れない。

医師からは冷静に、
減数手術という手段もあります」と伝えられました。
初めて聞く言葉。


全員を出産出来ないと判断した場合、個別に堕胎することができるのです。胚を選んで、それに生理食塩水か何かを注入するらしい。そうやって、人工的に流産させて、数を調整するのだそうで。

目的はもちろん母体の安全確保。常識で考えれば、1人出産するにも大きなリスクが伴う中でこのままいけば3人を同時に出産するなんて無茶でしかない。一気に高レベルの死亡リスクを通常の3倍突きつけられたわけです。

安全に産んだとしても、その後の経済的にも負担は3倍〜いやもっとかかるかも知れない。今この時点でそろばんを弾けといわれても、なにを想像して見積もればいいのかわからない。

「2人まで位なら臨床例も多いです」と医師。
医療においてなによりも優先されるのはエビデンス[臨床例]なのです。その蓄積をもとに色々な処置を進めていく。そうやって安全を担保していく。そうかそうか、そうだよな。双子は確かによく見るし知り合いにも何組かいる。

……で、どれ(誰)を選ぶの……?

モヤモヤする。

選ぶ。楽になる?身体?お金?中に針を刺して?え?

産まれた子供たちに
「お前たちと一緒にね、実はもう1人いたんだよ…」

目の前が一瞬真っ暗になった。

無理です。

そういう苦渋の選択をする人もいるのはホント分かるし、その決断は最大限尊重するべきだと思う。

けれども、自分は。。。。
無理だ。。。無理無理無理。

医療が発達するのは良い。でも知らなくて良いこともあるんです。

なぜこの医者はワザワザそんな事を言うのか…?感情の矛先が、あらぬ方向へむかう。何言ってんだこの医者。そもそもてめーが双子がどーとか言いながらのほほんと注射打つから…

とても冷静とは言えない状態でした。
その日は話を聞くまでに留めて、クリニックをあとに。

翌週。
奥さんに付き添い、またクリニックへ。
開口一番医師に向かってタンカを切るかのように

「減数の意思はこれっぽっちも有りません。飽くまで三人、健康に産む事に全力を注ぎたいです 」

目の前には呆気に取られた医者と、少々困った顔の奥さん。
このとき奥さんはなにを思ったのだろう。今でも真意は分からない。

一見、格好のいいような、正論を言ったかのようなお話ですが当の本人はただ、感情に任せて口走ったに過ぎず、その後巻き起こる様々なことなどひとつも想像できてはいませんでした。
医者はあくまで冷静に、カルテにいくつか文字を記入したのち

「・・・はい、では頑張って行きましょう」
とだけ口にして、また数行カルテに何かを書き込みました。
心なしか、医師の顔から少し緊張が取れたような感じはしていたけれど、その真意はもちろん分からない。

「うちは小さくて品胎の出産は難しいので、近くの大学病院に紹介状用意しますね。三つ子のケースは年に1~2組位ありますが、色々苦労はあるけどみんな問題なく産んでますよ」

年に1~2組の分母はよく分からないけれど、これから自分達にとって本当に貴重になっていく[共感]という体験。根拠など分からないけれど、少しだけ気持ちが軽くなる。

ということで、ひとまずここで「三つ子を産む決意」をしたのでした。

これが軽はずみな決意だったかどうかは、一生終わっても分かることはない、けれども。

つづく

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父親目線で綴った三つ子の育児日記です。 奥さんの妊娠から出産〜退院までをまとめています。

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