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父になりました その4(「初」面会)

9月頭 24時ごろ

退院後間もない奥さんを家に残し、わざわざ地元から会いに来てくれた友人の待つ居酒屋へ車で出向き、ノンアルコールビールで腹を満たしたあと、足早に病院へ向かう。NICUの面会は24時間営業なのだ。しばらく酒はまともに飲めそうにない。

面会時の駐車場割引きチケット、入館申請、病棟への行き方…などなど、ひと月近く毎日のように通っていた僕はもう慣れたものでスイスイとやり過ごしていると、なんだか奥さんが妙にまごまごしているので何だかおかしいな…と思っていたが、そういえば奥さん、「お見舞いされる」側は今日が初めてだった。退院直後の初面会である。長いベッド生活でなまった身体は弱々しく、浮腫みの取れ切らない足を引きずりながらヨタヨタと歩く。病室までの距離が2~3倍くらいに感じる。この遠さが、最近の壮絶さを物語っているようだった。

NICUの入り口でインターホンを鳴らす。このとき悩むのが「名乗り」。たぶん普通は「(子どもの名)の父です~」とか言っておけば良いのだが、3人上げ連ねるのも長くなるし、奥さんの名で通すのもいいけど本人が退院した後だと何だか違う。なのでひとまず長男に代表になってもらう。こう言うとき、雑に引っ張り出されるのも長男の宿命である。強くなれ。

入り口をくぐってからから、マスクを忘れたことに気づいたので一旦出て院内のコンビニへ走る。マスクを買ってまたNICUへ戻る。インターホンで再び長男の名前を出す。さすがに2回続けて長男は不公平だろうか?次は長女にしようか。次男より先に長女だよな語感的に。やっぱり順番もあるしな。こんなしょうもないことを、その瞬間は割と本気で考えている。ゼェゼェと息を切らしながら、奥さんが買ってきたマスクはなぜか子供用でやたら小さかった。残念でどうしようもないしどうかしている。

小さなマスクをつけて、やっとNICUへ。

ここ一週間位は体重が減少する時期で、三人とも200g前後減っていたけれどそれも落ちついたらしく、一日数g単位で体重が増え始めた。何より安心なのは、呼吸器が外れたこと。自発呼吸がしっかりしてきて、保育器内の酸素濃度も20%前半まで下げているという。外の世界の酸素濃度はおよそ21%くらい。たまに呼吸をサボる(看護師談)らしいが、ほぼ外と変わらない環境で生活できている。顔まわりの管が母乳用のやつだけになったので、顔がよく分かるようになった。


iphoneの写真編集アプリなどは今までほとんど興味なかったのに、この数日間でどれだけ検索しただろうか。この日の3人の写真は当然のように待ち受け画面に設定した。まだまだ1300~1400gくらいの超低出生体重児なので、他人が見たらぞっとするような姿かも知れない。ブログやSNSなどにUPするのは些か非常識かも知れない。しかしながらこの3人を見ていてそういうネガティヴな感情が、やはり湧かない。この日は長女などはよく目を開けていたものだから、表情もよく分かってきてとにかく可愛さしかない。少しして、次男を抱かせてもらえることになった。奥さんは搾乳をしているのでほぼ自分が面倒を見ることになった。恐る恐る抱きかかえた我が子は、なぜかやたらと腕にしっくり来る。小さいとはいえ、ある程度の重みはあるけれども全く平気。知らない間に、何やら我が子に話しかけている父。特に話題などない。箸が転げたようなことを延々と問いかけるのだ。もう楽しくてしょうがない。時折、手足をバタつかせて父の顔に触れてくる。何度も頬擦りをした。時間が止まっているかのよう。搾乳を終えた奥さんがうらやましそうに見るので、あえなく交代。

だいぶ、ものの見方が自分の子供基準になってきた。3000g以上ある他人の赤ちゃんなどを見ていると「なんでこんなにブクブク太っているんだろう??」と本気で違和感を感じる。目の前の華奢な3人に勝る奴などいないように思える。父はもうかなり気が狂れてきている。

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父親目線で綴った三つ子の育児日記です。 奥さんの妊娠から出産〜退院までをまとめています。

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