【ライトノベル?】Vオタ家政夫#39

クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~

39てぇてぇ『不自由ってぇ、まあ普通に不自由なんだってぇ』

 ルイジと出会って、ワタシ、引田ピカタはごはんを食べるようになった。

 でも、違う。
 あの時のおいしさ。
 あれには辿り着けない。

「ピ、ピカタさん、どうかしました?」

 ワタシの担当マネージャーが不安そうに聞いてくる。

「なんでもない。おいしいよね」
「は、はい! このお店予約もなかなかとれないお店なんですけど、ピカタさんが紹介すると言ったら、オッケーしてくれて」

 道理で、サービスがいいわけだ。
 若い店長さんが毎回料理を届けてくれて、目配せしてくる。

 別に構わない。
 仕事はするし嫌いではない。
 でも、あの時のおいしさには届かない。

 ワタシは精一杯の笑顔でお店を後にする。
 話す内容は大丈夫。
 自分の中で纏まってる。
 マネージャーが心配そうな顔で見てるけど問題はない。
 マネージャー……。

「あの……」
「は、はい! なんですか!? ピカタさん!?」

 マネージャーが滅茶苦茶驚いている。
 まあ、普段無駄話なんてしないもんな。

「あの、てん、どう、るいじ……って人知ってる?」

 そう聞くとマネージャーは、ぱあっと顔を輝かせて口を開く。

「ああ! 天堂君ですか!? 知ってますよ! 小村れもねーどちゃんの担当ですね!」
「そう、なんだ。ふーん」

 ワタシはそう言っただけだけど、マネージャーは何故かテンション上がってワタシに話しかけ続けた。

「いやあ、あの子のVtuber狂いは凄いですよ! 切り抜きメインとはいえ、ウチのVtuberの配信滅茶苦茶チェックしてますからね!」
「そう、なんだ。ふーん」

 チェックしてるんだ。まあ、マネージャーだし、Vtuber好きなら、まあ、そんなもんだろう。

「で! 私に会う度にほめてくれるんです」
「あ、そう。ふーん」

 なんでよ。

「今日もピカタさんの配信最高でしたねって!」
「……あ、そう。ふーん」

 ふーん。そっか。ふーん。そっかそっか。ふーん。

「……うふ」
「……なに?」
「ピカタさん、うれしそう」
「いや、ほめられたらうれしいでしょ」
「そうですね……うん」

 別に関係ないけど次の日のワタシの配信は良かったと思う。
 凄く登録者増えて、フロンタニクスのトップ3に入ったとマネージャーから連絡あったし。ふーん。

 そして、更にその次の日、事務所に行ったワタシは、あの人に出会う。

「あ! ピカタさん!」
「あ、あ……どうも」

 天堂ルイジ、さんだ。

「いやあ! おめでとうございます! トップ3に入ったらしいですね! しかも、ウチでは最速記録! すごいですね!」
「……どうも」
「ウチのれもねーども頑張らないと!」

 ウチのれもねーど。
 ウチはフロンタニクスであって、れもねーどさんはあなたのものではないと思うけど。
 ……いや、何を考えてるんだ。ワタシは。

「配信すげーよかったですもんね!」
「……どぅも」
「ただ、配信でも言ってましたが、ごはんはちゃんと食べたほうがいいですよ! 心配です」
「……はぃ」
「あ、すみません! 引き留めて。昨日の配信良かったというのを伝えたくて……。じゃあ、失礼します!」
「ぁ……」

 ワタシはまた、袖を掴んでいた。
 そして、口が勝手に言ってた。

「また、サンドイッチくれない?」

 勝手に。勝手に言ってた。

「え……あー、俺が作ったあれですか?」
「……ぅん」

 謎だから。なんであんなに美味しかったか謎だから。

「わかりました! じゃあ、また作ってきます! ……って言っても、ピカタさんが会社来る日わかんないっすね……」
「連絡先、交換……連絡するから」

 必要だから。謎を解明するために必要だから。

「……これでよし! じゃあ、また会社こられる時は連絡してください!」
「……ぅん、する」

 天堂さんは、笑顔で去っていった。
 見送ったあと、登録された連絡先をじっと見てた。
 そうしたら、

「ふふふ……」

 後ろにマネージャーがいた。
 びっくりした。

「うれしそうですね、ピカタさん」
「……なにが?」
「でも、本当に天堂君が言ったようにご飯は食べてくださいね。あと、お部屋も掃除してください。昨日の配信私も聞いてましたけど、流石に酷いです」

 そう、昨日はテンション何故かテンション上がって部屋の惨状まで話してしまったのだ。
 でも、珍しい。
 マネージャーが注意するなんて……。

「……そうだ! いやじゃなかったら、天堂君も呼んで三人で掃除しましょうか?」
「は、はあ!? なんで!?」
「いや、天堂君って、滅茶苦茶家事出来るらしくて、男性Vの部屋とかれもねーどちゃんの部屋とかすっごく綺麗に掃除したとか」
「れもねーどさんの部屋も?」
「……あー、勿論、女性スタッフも一緒には行ってますよ。ただ、天堂君の家事スキルが滅茶苦茶高いらしくて」
「ふーん。そっか。ふーん。……なら、三人でやろうか」
「……わかりました! 頼んでみますね!」

 そう言って決まったワタシの家の大掃除。
 結果から言えば、天堂さんを呼んで正解だった。

「うそ、でしょ……あのゴミ屋敷が……?」
「すご……」

 マネージャーが失礼なことは言ったが、まさにその通りのウチのゴミ屋敷は天堂さんによってピカピカにされた。
 そして、せっかくだからと作ってくれたご飯は物凄くおいしかった。

 ワタシもマネージャーも普段呑まないお酒まで呑んでわいわいした。
 たのしい。
 たのしかった。

 ルイジ君は、れもねーどの配信があるからと先に帰った。
 マネージャーと二人。
 でも、なんだかいつもと違って二人とも饒舌で好き勝手喋ってた。
 だけど、マネージャーが突然静かになって、言った。

「天堂君がマネージャーの方がよかったですか?」
「……は? なんで?」
「だって……! 天堂君と知り合ってからのピカタさん変わりました。私には出来なかったことです、よね?」

 こんな時に何て言えばいいか分からない。
 私はなんて無力なんだ。

 ああ、面倒だ。
 ワタシは面倒だ。
 こんな時に何も言えない。
 めんどくさい女だ、ワタシは。

「すみません、忘れてください」

 マネージャーはそれだけ言って帰った。
 やけに綺麗な部屋でワタシはひとりだった。

 ひとりはいい。
 自由だ。
 なのに、なんだろう。
 この怖さは。
 動けない。

 震える手でワタシは、何故かあの人に電話をかけていた。

『もしもし? ピカタさん?』
「あ、あの……ごめんなさいごめんなさい」
『……大丈夫です。ゆっくりでいいから言いたいこと言ってみてください』

 それは、不思議な感覚だった。
 その言葉を聞いた瞬間、ワタシは全部気持ちを吐き出していた。

 天堂さんは、やさしく相槌しながら聞いてくれた。

「……ワタシは、ダメだ。うまくやれない。ひとりでなんでも出来ると思ってた。でも、違った。全然ダメ。うまくやれない」
『う~ん、いいんじゃないっすかね、うまくいかなくて』
「え?」
『全部うまくやれるならVtuberなんて機械がやればいいんすよ。うまくいかないこともあるから、人間だからVtuberって、てぇてぇんだと思いますよ。だから、一回で決めつけないで、もっかい。もっかい頑張ってみましょうよ』

 なんでだろう。
 なんでこの人はワタシを自由にすることができるんだろう。

 ルイジ君の声を聞きながら、ワタシは一人きりの部屋で立ち上がった。

 もっかい。がんばろう。めんどくさくても。やりたいなら。

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