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『ダブドリ Vol.18』インタビュー06 前田健滋朗(長崎ヴェルカ)

2023年10月27日刊行の『ダブドリ Vol.18』(株式会社ダブドリ)より、前田健滋朗HCのインタビュー冒頭を無料公開します。

B3参入から最短の2年でB1昇格を達成した長崎ヴェルカ。就任2年目の前田健滋朗HCに新シーズンに向けた思いを伺った。(取材日:8月27日)

[ Interview by マササ・イトウ/Photo by 三浦雄司 ]

質を高めることと、新しいものを加えることで昨年以上にアグレッシブにしていきたい。

―― 今シーズンの目標は30勝と発表されました。勝ち星の目標を発表するチームは珍しいと思いますが、どういう経緯で発表に至ったのですか。
前田 記者さんに「去年はB2優勝という具体的な目標がありましたけど、今年はどうなんですか?」と質問されたので答えたのが経緯なんですけど(笑)。
―― ハハハ。
前田 我々は30勝を「ゴール」ではなく「ターゲット」にしてます。負けず嫌いなので理想は全部勝って優勝したいです(笑)。ただ、例えば富士山だと八合目を登らないと絶対に頂上には行けないじゃないですか。そういった意味で八合目は「ゴール」ではなく「ターゲット」。日本語で言えば「目標」で同じですけど、「30勝した後に何試合残っているか」という質問を自分たちに投げかけることが、すごく重要かなと思います。試合数によってはチャンピオンシップを狙えるチャンスもありますし、なるべく早く30勝にいきたいと考えています。
―― B1昇格チームの記録ですね。
前田 群馬(クレインサンダーズ)さんが2年前に25勝だったと思いますが、彼らは試合数が少なかったですよね。
―― 55試合ですね。
前田 それを60試合換算すると27勝ぐらいになります。なので、過去最高を27勝と捉えて、それを上回るターゲットにしています。それから昨シーズンに勝率5割を超えたのは9チームしかない。
―― はい。そうですね。
前田 その9番目のチームが、荒谷(裕秀)が在籍していた(宇都宮)ブレックス。その上が森川(正明)がいた横浜(ビー・コルセアーズ)ですね。全員にとって30は見やすい数字ですし、去年、宇都宮や横浜にいた彼らはそれを上回る数字を追いかけたいだろうなと思って、そういう数字にしました。
―― 「昨年以上」というコメントもありました。B1という環境変化を受けて、例えば、これまでやってきたことをより強化していく方向と、新しいことを追加していく方向があると思いますが、どちらになりますか。
前田 両面あるかなと思います。一つ目は今まで積み上げてきたものを更に良いものにしていく。アグレッシブさに関してはよりアグレッシブに。トランジション、クリエイト、アドバンテージの局面で、いつどのようにアグレッシブにプレーするか、昨年以上にもっと積極的に、尚且つ、もっと精度を高くやって欲しいところが一つ。もう一つは、より新しいことで更にアグレッシブにしていきたい。うちのロスターも全員決まりましたが、平均的な身長、特に外国籍選手の身長は高くないです。ただ、彼らは素晴らしいものを持っていて、他のチームに在籍している外国籍選手とは異なる武器があるので、そこの部分を活かして積極的に攻撃して、積極的にディフェンスしていく。他のチームとは少し違う新たなアグレッシブさが出るようにしたい。なので「去年に加えて」と「今年は」という両方の意味があります。
―― 先日は「負ける確率を下げる」というコメントをされていて興味深いなと思いました。「負ける確率を下げる」ために「トランジション、リバウンド、コンテスト」を重視しているとか。
前田 昨シーズンの経験と、今シーズンのオフに印象的な記事や動画を見て、その考えに至ったんです。2シーズン続けてアグレッシブなスタイル、ディフェンスを非常に強調して、ターンオーバーを誘う数がB3、B2でも圧倒的にありましたし、B2の中でも明らかに我々の武器でした。ただ一方で、ターンオーバーを誘えないときに簡単なレイアップを許したり、ショットが打たれたときにオフェンスリバウンドを許したりする機会が、昨シーズンの前半戦は非常に多くて問題意識を持っていました。そこから、チームとしていかにコンテストしたショットを打たせるか、リバウンドを取るかをシーズン後半に強調したことによって、ディフェンスの安定感が出てきて、ターンオーバーを誘うところと、しっかりと守り切るところの両立ができたと思っています。その経験からも、今年はそこをフォーカスしていこうと考えていました。もう一つは、サッカーのJ2の町田ゼルビアさんなんですが、高校サッカーですごく有名だった黒田監督がプロの監督になられて、今、すばらしい成績を挙げられている。彼の記事や動画の中で「負ける理由をしっかりと消していく」「そこが結局は自分達がぶれそうな時に立ち返る部分だ」というお話をされていて、確かにその通りだなと思いました。
 昨シーズンの前半戦は、我々が良くないときに立ち返るところは、「いかにアグレッシブに戦って、ターンオーバーを誘うか」だったんですけど、後半戦は、「トランジション、リバウンド、コンテスト」になった。試合に負けたとき「あのカバレージをしたから負けた」というのもありますが、負けのほとんどは「トランジションでやられすぎた」「オープンにシュートを打たせすぎた」「リバウンドを取られすぎた」です。そこを徹底して、相手を抑えることができれば、負ける可能性は下がっていくと考えました。
―― 今のお話はすごく興味深いです。高い位置でアグレッシブに守る場合、リスクを減らそうとするとアグレッシブの強度をある程度落とす必要が出てくると思うのですが、コーチの場合はアグレッシブさを強めて更にリスクも減らしていく。どう両立させるのでしょうか。
前田 一言でいうのは難しいのですが、いわゆる「ソリッドに守る」ということです。コンテストしたり、ボックスアウトしたり、それだけをやっているとヴェルカのスタイルは絶対に出ない。ヴェルカのスタイルを表現するには、その両立が絶対に必要です。アグレッシブだけ、ソリッドだけというのは我々のスタイルとマッチしない。もう一つは、ギリギリを攻めるところが一番楽しいんじゃないかと思っています(笑)。
―― ハハハハハ。
前田 選手にもよく言うんですけど「スティールできるんだったら、スティールしろ」「スティールしないんだったら、ちゃんと守れ」と言ってます。もしかしたら、ほとんどのコーチは「ギャンブルするな」という言い方をするかもしれないんですけど、自分は「取れるんだったら取れ、取れないんだったら、しっかりと守れ」そのギリギリが一番選手を上手くさせるところだし、選手がプレーしていて楽しいところだと思うんですよね。言われたことだけやっていても、何のリスクもなくチャレンジをしていても楽しくないですし。
―― 面白いです。選手がそのギリギリを状況判断して行動する。ただ、これはその情報を選手に詰め込んでいく必要がありますよね。詰め込みすぎることもできないと思います。秘訣はありますか。
前田 そうですね。ディフェンス面は昨シーズンも色んなことをやってました。選手が混乱するのが一番良くないので、試合中に混乱したらすぐに止めるようにしています。昨シーズンのプレーオフの熊本(ヴォルターズ)さんとのゲーム1でも、かなり特殊なことをやろうしましたが、うまくいかず20点ビハインドしたので止めました(笑)。
 ヘッドコーチとして意識しているのはチームとしての方向性、大枠、進むべき道、行きたい場所に対して共通認識を持つことです。やるのは選手ですし、それぞれの選手の良さを活かすのが自分の仕事です。自分のスタイルは「これだから絶対にこれでやれ」ではなく、色々な選手の特徴を見ながら、彼らが一番輝ける状況を作り出すということをすごく意識しています。

アドバンテージをなるべく早く作るために、ハーフコートラインを2秒以内に越えたい。

―― オフェンスも伺いたいのですが、時間に対するルールも細かく設定されていると思います。時間の使い方についてもありますか。
前田 全体像として、オフェンスもディフェンスもフェーズ分けをしています。トランジション、プリパレーション、クリエイト、アドバンテージ、最終的にはショットのフェーズです。女子日本代表がやっているような形ですね。アドバンテージをなるべく早く作りたい。そのためにハーフコートをいかに早く越えるか、それを実現するためショットクロック2秒以内にハーフコートラインを越えたいというルールがあります。
―― 他チームが対応し辛いというコメントもありました。
前田 我々はスタイルにあった選手達をリクルートしていて、全員がスリーポイントを打てる。他のチームからするとやり辛いと思います。あとは外国籍の選手がボールをアドヴァンスできることが絶対的なうちの強みだと思っていて、昨年は、マット・ボンズ、ジェフ・ギブスがボールを持って行っていたと思うんですけど、それを可能にするのが今のうちのオフェンスだと思っています。
―― 誰がボールを持ってもプッシュできるということですね。
前田 なるべく速くボールを持って行きたいので、誰が持って行っても良い。
―― どんな相手が来てもプッシュできるのは強いですね。
前田 今は相手もスカウティングはしてきますし、ゲーム中も映像が見れちゃうので、セットプレーをやってもすぐにバレる。なので「何でも切れる刀」を持ってないと意味がないなと思っています。切れ味の悪い刀を百本持っていても意味がない。それはルカHC(サンロッカーズ渋谷)と一緒にやって、すごく感じましたね。やることがわかっていても守れない、結局それが一番強いんだなって、そこは意識していますね。

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