見出し画像

『ダブドリ Vol.2』 インタビュー03 大神雄子(トヨタ自動車アンテロープス)

2018年3月15日刊行(現在も発売中)の『ダブドリ Vol.2』(ダブドリ:旧旺史社)より、大神雄子さんのインタビューの冒頭部分を無料公開いたします。なお、所属やクラブ・チームの名称等は刊行当時のものです。

今季(17-18シーズン)限りでの引退を発表している女子バスケットボール界の生きるレジェンド大神選手が、近年のWJBLに起きているポジティブな変化を分析する。インタビュアーに湘南サンズ及川啓史選手。

オールスターのベンチパフォーマンスを主導しているのはトヨタです。少しずつ他のチームの選手もアイデアを出してくれるようになって、まとまり感が出てきた。

及川 よろしくお願いします。僕自身、インタビューとかあんまりしたことないんですけど……(笑)。
大神 あっ、そうなんですか?
及川 はい、僕もずっとバスケをやってまして。今も3×3の「湘南サンズ」っていうPREMIERのチームにいるんです。
大神 ああ、あれですよね、石田(剛規)君がやってる?
及川 そうです、石田さんと一緒に。
大神 はいはい。石田、同級生ですよ。
及川 その流れで、バスケのユニフォームとかを作ってる会社で働いているんですね。それで最近は女子の選手、WJBLの選手にウエアの提供とか、いろいろ盛り上げていきたいなって思ってたんです。そんなときに、『ダブドリ』から誰かにインタビューしてみないかってお話をいただいて。それで大神さんをリクエストさせていただきました。
大神 ありがとうございます。よろしくお願いします。
及川 まずはオールスターお疲れさまでした。僕、見に行ってました。
大神 あっ、そうなんですか。
及川 はい。あんなにじっくりと見させてもらったのは今回が初めてだったかもしれないですね。もちろん今までも見たことはあったし、3ポイントコンテストだったり、スキルチャレンジも含めて見てたんですけど。それで今回、印象的だったのが、お客さんを楽しませる面白い部分と、しっかり技を見せる部分が分かれていたこと。それに、選手側が大会を盛り上げようと考えてやってるんだなっていうことでした。僕もそういうのを企画する側の目線で見てたので、すごく新鮮でしたね。
大神 うんうん。
及川 イーストとウエストで、大体ウエスト側のほうが“遊ぶ”じゃないですか?
大神 はいはい。ベンチパフォーマンスですよね。
及川 あれって、トヨタ発信ですか。
大神 そうですね。オールスターは今年で3年目なんですけど、1年目のときから、ベンチパフォーマンスに力入れてるのはウエストですね。それがトヨタからっていうのは間違いないです。
及川 ほお。
大神 ただ、今年の「にゃんこスター」とかは、デンソーの高田とかが提案したんです。結構、少しずつウエストにも、その団結力が浸透しつつありますね。
及川 そうなんですね。やらなきゃ感が出るんですね。
大神 そうそう。今年はお面とか用意して、パフォーマンスについては手作り感満載だったと思うんですけど。そういうのも元々は、トヨタの選手が始めました。ロッカールームにもそういうアイテムがいっぱいあるんですよ。そのアイテムを持って行って、やる。
及川 へえ。だから長岡(萌映子)選手が富士通からトヨタに移籍して……。
大神 はい。あっ、そうですよね(笑)。
及川 通常、イースト側で出ている選手達はそういうパフォーマンスについては温かい目で見守っているだけ、という印象だったのに、ウエストになって一緒に楽しんでたから。これはトヨタ(発信)だなと思って。
大神 そうそう(笑)。
及川 非常に面白かったです。
大神 でも本当にね、少しずつ他のチームの選手とかも、にゃんこスターのこれをやろうとか、こうしようとか、結構提案してくれたりして。少しずつ、まとまり感が出てきましたね。愛知県のチームに。
及川 ああそうか、デンソーも、みんな愛知県の選手。
大神 ほぼ、そうですね。シャンソン以外そうじゃないですか。ウエストは。
及川 よく会ったりとかもするんですか。
大神 三菱の選手が一番多いですかね。この間も会って、一緒にご飯食べて。
及川 へーそうなんですね。……で、結果を見るとイーストが勝利しましたけど。
大神 はい。
及川 面白かったのは試合終盤。誰も笑わず3ポイントを決め続けてる辺りで、ああ、負けず嫌いが出てるなと(笑)。多分、僕もだし、みんなも思っていると思うんですけど。4Qじゃないですか、オールスターの一番楽しいところって。それまで割とおちゃらけてたのに、最後だけは真剣になるという。
大神 はいはい。
及川 特に大神さんが決めまくってるのを見て、面白かったですね。僕自身はもう、引退されるっていうのを聞いた上で見てたので。
大神 はい。
及川 多分、言ってしまえば最後のオールスターになると思うんですけど……。だから何を残したいのか。何を見せたいと思ってプレーされていたのかな、というところをまず聞かせていただけますか?
大神 そうですね、まず自分たち選手は、自分がどんなに出たくても、メンバーとして選出してもらわないとオールスターのコートには立てないじゃないですか。ファンの皆さんの投票のおかげでコートに立たせてもらっているんですよ。だから、選んでもらった以上は、バスケットの面白さを、普段の試合とは違う形で伝えられたらな、と。オールスターはそういうことを考えていますね。
 その上でまず、バスケットは勝負事なんで、勝負の面で見せるのが一つ。さっき話していた4Qみたいに、点差を縮めるために必死に食らい付いたりしてね。そしてその一方で、オールスターならではの、オフェンスとディフェンスの駆け引きをじっくり見せること。技の見せ合いですね。例えばオフェンススキルを見せるために、ディフェンスがちょっと引いてみたりとか、逆にそれをさせないために、ディフェンスがアタックしたりとか。こうした攻守の駆け引きもまた、面白いスポーツだと思うので。
及川 なるほど。
大神 あの場に集まっているお客さんは本当に純粋に、バスケットを好きな人たちですよね。コアなファンの方もいらっしゃる。より詳しくバスケットを知ってる方だと思うんですよ。だからそういう人たちにも楽しんでもらえるように、っていうのがなかなか難しいところではあるんですけどね。ただ何より大事なのは、オールスターでは自分たちが楽しむことだと思うんです。オフェンス、ディフェンス両方で。だからまずは、自分が楽しもうという気持ちでいました。
及川 そうですよね。楽しむといえば、実は僕、試合中の写真も撮らせてもらったんですけど、全員笑ってるんですよ。シュート打つ人も、チェックする人も、ボックスアウトしてる2人も全員、笑顔で。
大神 うんうん。
及川 ただそれが1枚撮れただけだったら別なんですけど、どの写真を見てもみんな笑ってる。オフェンスもディフェンスも笑ってる中でプレーしていたっていうのが、選手一丸となってWを盛り上げていきたいっていう気持ちが伝わってきました。
大神 そうですね。男子はダンクできたりとか、派手なプレーを見せることができても、女子ってやっぱ、身体能力の面からしてもなかなかダンクとか、空中でのプレーの見せ合いってのはできないんですよね。その分やっぱり、細かい技とか、1つ1つのスクリーンだとか、鋭いパスとか、そういうところをどれだけ見せ合いっこするかなんで。
及川 うんうん。
大神 そんな中で、自分たちでも「うわっ、コイツすげえな」なんて驚くプレーが生まれるから楽しい。お互いがお互いの技を見せ合ったりとか、「よし、やってみろよ」みたいな挑発をしたりとか、そういう普段とは、またちょっと違うバスケをやってましたね。
及川 ノーガードの殴り合いみたいな感じ。
大神 そうです、そうです。そういうのができる場所だと思ったので。
及川 そうですね。選ばれた人でしかやれないっていうゲームですもんね。すごく楽しませていただきました。
大神 ありがとうございます。
及川 僕、普段の試合も結構見に行かせてもらってるんですけど。
大神 はい。
及川 トヨタさんの中で印象に残ったのが、11月に東京で羽田(東京羽田ヴィッキーズ)と試合をした際に、試合中に多分、トヨタの選手の方が脱臼か何かされた場面があったじゃないですか。
大神 ああ、はいはい。しましたね。
及川 それまでもちろん、実力差があって優位に進めてたと思うんですけど、審判が気付かなかったので、ベックHCがコートに出てわざとテクニカルを取らせて止めて、交代させたっていうシーンがあったじゃないですか。
大神 うんうん。
及川 あの瞬間ってチームとしてもざわつくし、会場全体も何があったんだろうって、ざわざわとしたと思うんです。でもその瞬間にHCが大神さんを、間髪入れず交代でコートに出したんですよね。その結果、空気は締まったまま相手に流れも与えることなく、トヨタがそのまま勝利した。見事でした。HCや首脳陣からはどのようなポジションというか、役割を任されているんですか。
大神 プレー面ではもちろんルーキーみたいにがむしゃらに、一生懸命、ハードにやることが自分のスタイルなんで、それはもちろんやりたいと思っています。でもそれプラスアルファが必要。何かっていったら、やっぱり一番年上だし、まずはコーチとの信頼関係がないとやっていけないと思うんですよ。もう絶対。で今年、キャプテンを任されてるのもあるんですけど、リーダーシップとか、チームに何かあったときに……言い方、何ていうんですかね。「締める」とかっていうんですか。雰囲気を良くする、声を出すとか。そういう役割です。これはヘッドコーチに教えられてやるものじゃないと思うんです。
及川 うんうん。
大神 だからあの時みたいに、試合中ちょっと流れが悪くなったら、自分がパッて出て、何よりもチームを落ち着かせるっていうのは大事な仕事かなと。正直、声を出すだけならルーキーでもできなくはないと思いますよ。ただ違うのは、自分は今まで色んな人の背中を見て学んできた経験がある。今まで出会った人たちに教えてもらったり、自分で気付いてきた部分に裏打ちされた説得力があるんじゃないかなってすごく思うんですよね。だからそれこそが、自分がただ一生懸命やるということに加えた、プラスアルファの部分なのかなとは思うんですけどね。
及川 浮き足立ちそうな感じだったのが、大神さんが入ったことで締まったというか、何もなかったかのように元に戻った。
大神 でもそれって、どんなにベテランでも、いきなり試合で言うだけではできないと思うんですよ。
及川 そうですよね。
大神 だから、やっぱ普段の練習から声を掛けることは意識してます。もちろん自分も最初からできたわけじゃありません。まあ応援団やったりしてたので、性格上声を出すことは好きでしたけどね。やっぱり今までは自分にも先輩がいた。でも今は先輩が誰もいないんです。先輩がいた頃はその姿勢を見て学ぶことができた。プレー面でも、こういうところはやっぱり体で張るんだとか、フォーメーションチェンジではやっぱハドル組むんだとか。それに付いていこうと思ったし。そういうところから学べているっていうのも含めて、一歩一歩やっぱ経験させてもらってきた証拠なのかなとは思います。はい。

自分のやることがチームのためになると考える。周りと比べることはあまりしないように。自分の信念をずっと貫いています。

及川 その役、チームから求められている役割だと同時に、どうしても聞きたかったのは、大神さんってずっと女子バスケットボールの顔として活動、活躍されてきたじゃないですか。アテネオリンピックで大活躍をしたりとか。そのときって、チームから与えられている役割は、エースとして勝利に導くとか、点を取ってくるっていうのが第一だと思うんですけど、年齢を重ねていくにつれて身体能力の低下だったり、できなくなってくるプレーがありますよね。その時に新たに見えてくる視野っていうのもあったと思うんですけど。
大神 はい。
及川 その中で自分自身でエースから、その、周りをサポートしてあげよう、キャプテンシーを発揮してチームを引っ張ってあげようっていう気持ちに、切り替わった瞬間っていつだったんですか?
大神 うーん、中国に所属した時ですかね。その時のチームメイトに、自分よりも7つぐらい年下のマヤ・ムーアっていう、アメリカの女子の代表のスーパースターがいたんですよ。マヤは平気で1試合50点とか取る選手で、自分は最初、「あっ、マヤにパス出しとけばいいや」って思ってたんです。
及川 はい。
大神 だから1回、意識して自分を表に出さないようにした試合を何試合かやったんですね。チームに点を取ってくれる人がいるから。そのときに、当時のヘッドコーチ――スペインの女子の代表のヘッドコーチで、リオオリンピックの銀メダリストの女子のヘッドコーチなんですけど、彼が「違う、点数を取りに行け」と。「点数を取りに行くからお前は生きるんだよ」っていうのを言われたんです。JX時代に、渡嘉敷(来夢)がいるから自分は攻めなくてもいいかと考えた時に、内海(知秀)さんから言われたことと同じようなことを、もう一回言われた。やっぱり自分がやることで周りが生きるんだ、周りを生かすとか周りをサポートするっていう考えよりも、自分でやることが結果的に周りのサポートになるよっていうような考え方に変わったんです。
及川 うんうん。
大神 今もトヨタには点が取れる選手がいます。長岡萌映子もそうだし、フォワード陣とか、ガード陣も。でも、それでも自分がやることでそれがチームのサポートになる、チームのためになるって思ってやってます。
及川 僕自身ももう今28歳で、一応、まだ一線でやってるんですけど、そろそろ能力の低下というか、若い子と対峙したときに、何の勝負もなしにスピードでぶち抜かれたりするのを感じるようになってきたので、大神さんは自分の役割というか、どういうふうにマインドを変化させてったのかなっていうのを、すごく疑問に思ってたんです。
大神 もちろん、めちゃめちゃ走る練習とかになったら、それは若い子が強いですよね。まあ走るし、ウエートも上げるし。でも一方で彼らにないものも自分は持ってるわけだから。やっぱり自分でやることがチームのためになるっていうふうに考えますね。だからまあ、言ってみれば、周りと比べることはあまりしないように、ということかな。やっぱ自分の道っていうか、自分の信念は貫くっていうのは、ずっと思ってやってると思います。
及川 そうなんですね。
大神 やっぱり人間って葛藤するじゃないですか。だから、じゃあマヤがいるとか、渡嘉敷がいるから、そこを生かそう生かそうっていうのじゃなくて、まず自分が攻めなさい、まず自分でシュートだよって、内海さんに言われたり、ルーカスに言われたりとかして。そうだ、だから自分のためにやることがチームのためになるんだっていうふうなマインドセットに変わったかなとは思います。
及川 なるほど。貴重なアドバイスありがとうございます。
大神 いえいえ、すいません。
及川 ずっと聞きたかったことなんですよね。
大神 本当に、やっぱり自分が一番だって思ってやってないと。選手はね。やっぱ若い選手が来たから、若い選手すごいなあじゃなくて、おお、すごいよ。でも来いよっていうぐらいの気持ちでいつもやってます。
及川 今、お話にもあった中国リーグの部分を、少しお聞きしたくて。先ほど言われたマヤ・ムーアがいたりとか、監督がスペインの有名な方だったりとか。環境ってやっぱり全然違うもんですか。
大神 バスケットだけをやるならば環境はめちゃくちゃいいです。正直、日本にいて中国にいたことのない方って、ニュース見たときとか、やっぱり中国に対しては結構、ネガティブなことが多いと思うんですよね。反日だったり、その食事だったり。
及川 貧富の差もすごいですしね。
大神 そうそう。やっぱりそういうことはありますけど。ただバスケットだけ、っていった部分では何ら不自由はなくて。めちゃくちゃ人気があるし。ファイナルでお客さんが1万人来たりとかしますから。
及川 箱に入るってことですか。
大神 入ります。
及川 おお。
大神 普通のレギュラーシーズンの試合でも5000~7000ぐらいは入るんですよ。女子でも。だからバスケットっていうスポーツは、本当に国技に近いぐらい人気あるんじゃないですかね。
及川 やっぱり設備もすごいんですか。
大神 うん。体育館もホーム・アンド・アウェーなんですけど、ホームのメインアリーナ、いつでも試合する所で練習はできますよ。
及川 それ、すごいですね。
大神 でしょう? 冷暖房も完備されてるんですよ。まあ、めっちゃ効いてるかっていったら、そうじゃないときもあるんですけど(笑)。でもメインアリーナで毎日、練習できるのは大きいですよ。生活環境もね、外国人選手は外資系のホテルに泊まって運転手が付いて食費ももらえる。だから何ら不自由ない。何時ねって言ったら運転手さんが迎えに来てくれて、体育館に行って帰りも送ってくれる。
及川 すごい。
大神 だから私は、また中国にチャンスあるんだったら行きたいなと思ってたぐらいなんです。他の日本の選手にも伝えてるんですよ。中国には外国人としてアメリカの選手とかも来るんだから、一番いいじゃんって。WNBAでもみくちゃにされるのも大事だけど、中国でもアメリカの代表の選手とか、海外の代表選手とやれるよっていうのは、もうめちゃくちゃ伝えたいです。
及川 海外の選手とやるの、大事ですよね。正直、日本の女子の中でも、もう日本人じゃ止められないよねっていう人たちっているじゃないですか。
大神 うんうん。渡嘉敷とか、渡嘉敷とか、渡嘉敷とか。
及川 ハハハハ。まさに僕も今、渡嘉敷のことを思って言ったんですけど。
大神 ですよね。
及川 だからああいう“規格外”の選手は、本当に海外に行きまくって、もみくちゃにされるべきだと思うんですよ。
大神 そうそう。だからそこのサポートを、リーグがしなきゃいけないと思います。協会だったり、リーグだったり。今、本人の意思もあって、(八村)塁君とか(渡邊)雄太君とか行ってますけど。これから、まあ、(田中)力君とかも行くんでしょうけどね。女子も、そうやっていかないといけないと思うし。
及川 うん。そうですよね。
大神 今からでも、もちろん遅くないと思う。だからね、そういうのは本人が行きたいっていう気持ちもそうだけど、やっぱりリーグですよ。サポート体制を整えて、今こういう制度があるから、レンタル移籍でもいいから行って、ファイナルのときだけ帰ってくるでもいい。もし本当にJXが手離したくないんだったら、特例でOKにしてあげるくらいしてあげないと、と思います。

大神雄子締め用

★ ★ ★ ★ ★

この後も、WJBLでの移籍制度や外国籍登録枠にまつわることなどたっぷり語ってくださっています。続きは本書をご覧ください。

#バスケ #バスケットボール #Wリーグ #WJBL #大神雄子 #トヨタ自動車アンテロープス #海外リーグ #女子スポーツ #湘南サンズ #及川啓史 #KC #3x3 #3x3exe #バスケで日本を元気に #ダブドリ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?