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梅風(うめかぜ)

羽根木の丘の階段で

ちょうど
メジロが白梅の蜜をつついてた

冷えた風は春を抱えているがまだ寒い。
公園の丘を巻き上げた砂ぼこりが走り抜ける。

風砂にまじって紅梅の花びらが、
飛び出す。

そぞり空を照らして


世田谷の梅祭りだ


 


枝にくくられた紙
「ここ富士山眺望所 → 」

風がやんだすきに眼を細めて振り返って富士をさがす。

そこから梅の枝々をすり抜け、昼下がりの建物と家々の先に、

西日のビルはすすけ向こうにかすみ

今年も
富士は見えなかった。

ま、いつものこと。

「豚汁100円だよ-」
休憩所にも人はいる。
時間もアレだし、少し安い。
「いっぱい入ってるよ」
一杯のミニ汁か

「ただしミニカップになります-」

あったまるし、食べよう


おもてのにぎわいより

赤い花のうしろ姿をみるのが好きだ
透かした花びらの紅色が
鮮やかに燃えていた

古いギリシャの女詩人の唄


みめ貌(かたち)よき
人はただ
ひとめによしと、見ゆるなり、

正しき人ぞ いつしかに
またみめよくも
なりぬべし。(※)


きまじめな濃い赤の熱さは、
幼子(おさなご)が一所懸命に描いた
落書きクレヨンの

太陽みたいな生命力。


豚汁が、あちい。


汁の湯気に
こまかいニンジン、豚肉と細い大根がここぞせましとポリエチレンの簡易なカップにおさまり、むせぶ。
割りばしからカブリつき、すする。


また大風が吹く


砂ぼこりを巻き上げる

人と梅が呑み込まれる

豚汁に
小さな紅梅の花びらが入る


動脈の血管みたいに燃える花びらだ。


もったいなく、


つまんで
口にいれると


ほのかに
春の香辛がする。





(※)サッポー(紀元前621頃~?)ギリシャ 「断章」呉茂一 訳
「顔かたちのよいヒトは、かたちいいなぁと人から見られるけど、心正しいひとは、いつのまにかかたちよい人を追い抜いてもっとうつくしくなっていきます」
苦悩する近代の詩人と違って竪琴に合わせて唄ってたギリシャ人たち、世界最古の女詩人サッポーも娘たちに舞踏や音楽おしえてたみたいだから、おおらかで楽しそうだ。




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