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読書感想文:「ジ・エンド・オブ・バンキング 銀行の終わりと金融の未来」

本書はBanking = 銀行と訳しているものの、内容としては、「信用創造」について書かれている。また、「信用よりマネーを創造すること」をbankingと定義付けていることから、タイトルにあるように銀行という事業体のみを話したものでもない。

詳細は、本書を読んでもらうとして、なぜ金融危機が本書でいうところのbankingが原因であり、それが今後、テクノロジー等によって、どういう形になるのかという2つの点について論じている。

特に前者については、一般にリーマン・ショックと言われている金融危機の原因について、分かりやすく説明されているので、考え方の整理にはちょうどいいと思う。

金融機関が果たす「信用創造」という仕組みから、それがなぜ膨張したのか、そしてどのような結果を生んだのかを、基礎的なコンセプトから丁寧に説明してくれている。特に改めて信用創造が持つ影響力とそれと対をなす複式簿記という視点は、非常に面白い。

複式簿記を用いることで、手元の純粋な現金とは、違った形でマネーが増殖していくという整理は、会計などに詳しくない人でも分かるのではないだろうか。

その後、現在または未来の金融にインパクトを与えそうな技術の話をしながら、最後の方では、どういった形態の金融制度(市場)が本書で言うところのbankingという仕組みを抑制しつつ、実体経済を発展させることができるかを提示している。

しかし、その主張の中心は、直接的な資金調達市場の効率化とそれに伴う「信用創造」の抑制が根幹になっているように思えた。本書では、著者の理想とする状態の金融市場への移行プロセスは、書かれていない。著者自身もそれを言及するのは難しいのか、冒頭で移行の方法は紹介せず、理想的な状態の紹介に留めることを表明している。

僕としては、直接市場(銀行の貸し出し等に頼らない直接、投資家から資金調達する金融市場)の効率化という点においては、今後テクノロジーの進歩も著しく、また大きな影響を与えるであろう点については、異論は無い。

他方で、前回の金融危機を引き起こしたからといって、「信用創造」をなくすまたは、ほぼ無くなるくらいまで抑制していいのかという点については、同意しかねる。移行期における信用収縮の可能性もある上に、外部貨幣(詳細は本書を参照)のみで、経済成長を達成できるという証拠も提示されないなかでは、素直に同意しかねるというのが、自分の感想である。

同意しかねる部分はあるものの、「信用創造」という金融機関が持つ非常にユニークであり、危険な機能を理解し、今後の金融に関わるテクノロジーを俯瞰して考える上では、良書だと思う。

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