笑いすぎて小便をドバドバ垂れ流したところの橋を渡って さらにそのもうちょっと向こうの海まで行こうか迷ったが 橋の三分の一くらいを渡ったところで やっぱりやめて引き返した 振り返ると「アドベンチャー」というとっくの昔に閉店したバイパス沿いの喫茶店に外観がそっくりのレストランがあって そこの右から二番目の窓越しでパスタっぽいものを食べていた同い年くらいの女と目が合った その女は梨花に似ていたわけではなかったが その女をみてぼくは梨花のことを思い出した 女から目をそらしがてらほんの一瞬視界に留まった八甲田山は 雲なのか霧のせいでこの日もやっぱり輪郭が濁って見えた そういえばいつかの真冬の晴天以来ビシッと美しい八甲田山を一度も見ていない気がした 一方の東岳は相変わらず隅々まではっきり見渡せたが 美しいとか綺麗というふうには全然思えなかった いったん家に帰って食材を冷蔵庫に入れてから柏原の店にいったが 接客中だったから今日はもうおとなしく家に籠ることにして 帰りにヤスハラでブロッコリーとしめじとイカを買った さんざん悩んだがとりあえずピザ生地のほうはシーフードだけにすることにして タルタルソースはサラダにだけ使うことにした だからぼくはやっぱり揚げ物を買わなかった 冷凍の唐揚げも迷った末に買うのをやめて 食パンは一番安い88円のやつにした 柿の種を我慢するかわりにパルムを買い レタスとアボガドをいったんカゴに入れるも やっぱりレタスはカットレタスのほうに替えて ついでにアボガドもやっぱり完熟していないやつに取り替えて……とか そんなこんなでこの日のぼくはスーパーの端から端を3往復くらいした ともあれこれからはネットでチラシをちゃんと見るようにして ポイント〇倍デー云々もしっかりチェックしようと思った それから安い菓子パンとか3本で98円の串団子みたいなやつはもう絶対買わないで どうしても甘いものが食べたくなったら クリーム玄米ブランか 「ま!ま!満足!一本満足~♪」と草彅くんがCMでやっていたチョコバーみたいなやつとか 一見割高だけど少ない量で満足できるものを買おうと思った 結局ピザソースはケチャップとマヨネーズと醤油とニンニクと岩塩とブラックペッパーとタバスコと乾燥バジルを混ぜて作った やや濃い味になってしまったが 市販のピザソースより断然美味しいと妻のお墨付きをもらって 少し料理が楽しくなった気がした その後にはじめて作ったイカ大根も褒められたが ぼく的には大根の下茹でが微妙だった気がした そもそも1本50円の見切り品の大根だったせいか 包丁でカットすると五分もしないうちに ボコボコと変な凹凸みたいなやつが断面の部分に浮き出てきた イカにしても1パック150円の「赤イカ」とかいう名前の超小さいやつで 処理の途中に肝と足の見分けがつかなくなったりした 2杯で300円の刺身用のイカを買わなかったのは その代わりになるくらい立派な白菜を買うことができたからで これでようやく残りもののカワハギを始末できると思った 妻はカワハギの身より骨を好んで食べる ぼくは普通に身のほうだけを食べる ハタハタの骨は食べない サンマは塩焼きだけ そういえば そろそろすき焼きを食べたがるタイミングかもしれないと思ったが違った 「だったら」の「きりたんぽ鍋」にはセリが必須らしいが もしかしたらミツバで代用できるかもしれないらしい 何にしてもゴボウを皮むき器で薄くスライスするのが一番手間なわけで そのことにぼくはうっかり嫌な顔をしてしまった そしてそれはぼくたち夫婦にとってまあまあの致命的な問題だったから ぼくはまたモンドールのパンで穴埋めをしようと一瞬思ったが モンドールのパンは切り札中の切り札だから あまり使いすぎるわけにはいかないと思い直した モンドールのパンを教えてくれた人はもと占い師だったらしく ぼくは直接会ったことがないその人の顔の輪郭を 誰もが強いて言及したくなるほどけっこうな丸形であると 頭の中で勝手にそう作り上げていて そしてそのことを 妻が仕事でムシャクシャしていたある日に少しでも気晴らしになればと ぼくなりに面白おかしく話したら 「ふふっ」と一瞬笑っただけで 結局その人の顔の輪郭が実はどうなのか?にさえ 妻はまったく言及しなかった
自由連想法による文章練習【5】