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自由連想法による文章練習【4】

 やっぱりちょっと普通じゃないと思って「やっぱりちょっと普通じゃねーわ……」とぼくはつぶやいた 腹が減ったが何を食うべきかすぐに思い出せない いや 具なし味噌汁を飲むのが一番良いことを思い出したが 今日の夜の分の味噌汁をすでに一つ別に用意していたこともあって 具なし味噌汁を作るのはやっぱり面倒くさくなった だからぼくはヒマラヤ岩塩を舐めた いや チョコレートを飲んだ カカオ72%というやつだ アーモンドかクッキーのはいったやつもあるらしいが 溶かして飲めないから買うのをやめた いや 「溶かして飲めない」というこの最も重要な理由に思い至ったのはたった今である そんなことに関係なく ぼくはアーモンドのやつを買おうとした そういえば10年以上前に信子おばちゃんとその店にはいったことを思い出した あの頃ぼくはまだ相当ウンコだった 手から滑り落ちたノートが 6つに割れた腹筋の一番上の割れ目にちょうどストンとはまった いや 実はまだ完全に6つには割れていない あともう少し 最近妻が一緒に風呂を入りたがらないのは ぼくの体が締まってきたからかもしれないと ぼくはちょっと思っている 自分はそうじゃないから 要は恥ずかしいかもしれないということだ ぼくは最近わりと一生懸命腹筋運動をしている いうまでもなく腹筋を完全に6つに割りたいからだ ぼくは痩せて顔が小さくなった つまりぼくはやっぱり少し太っていたのだろう 今日はまだ腹筋運動をしていない 朝 自転車のチェーンがはずれたことで 調子が狂ってしまったからかもしれない しかもレジの女に「現金払いですか?」とまた聞かせてしまった 女には子供が二人いるようで そのうち一人は死んだ魚のような目をしているらしい まあ今のぼくの目もちょっと似たような感じだろう 上野の夜はぼくにとって闇というか 喪失感が深すぎた でもすごく懐かしい ぼくは自分は傷だらけだと思った 見事な負けっぷりだと思った 隣の席で歯磨きをしはじめた男がいたのは たぶんその時ではない 歯磨きをしはじめた男の様子はピノキオみたいだった ぼくはソイツを殴りたかったが もちろん殴ってはいない ぼくは今腕の筋肉も鍛えている 腕立て伏せではなく「壁立て伏せ」というのをやっている 最近自分であみだした筋トレ法だ いろいろ自分がやりやすいように適当にやっている ぼくはもう組織や集団に煩わされることは二度とないだろう そのような状況になったら徹底抗戦だ ぼくはぼくであることを邪魔する人間を殺しはしないが許さないだろう でも妻だけは許す 妻だけは特別だ ぼくは妻との別れや死別を想うととても辛かったが 今はあまりそうでもない ぼくはもう去年の9月までのぼくとはまったく違う ぼくは生まれ変わった いや 去年の9月にぼくはようやく生まれた だから一応ぼくは今月で40歳になることになっているが 正確にはぼくはまだ0歳児である 産声をあげたぼくはその後すぐに18時間くらいも眠った 夢はみなかったが 眠りながら目ヤニと鼻くそをなんどもほじったことは なぜかよく憶えている そのくせ今までにないほどぐっすり眠った感じがした 屁もたくさんでた ぼくは寝ながら自分の屁の臭いをたくさん嗅いだ もういいだろうと思っても 屁はまだでた ぼくは暗闇の中で屁の臭いをしつこく何度も嗅いだ 月の影がコオロギのような形をしていた みんなで蛍をみた後 石井が家に帰りたいと泣き出した キャンプファイヤーの火が花火になって 浴衣を着た妻がふとこっちを向いた そのときココアはまだ生きていた 石井が死んだのは二十歳のときである 石井は小柳駅のバス停のベンチに一人でちょこんと座っていた 石井をみた最後はそれだった ぼくは携帯で金の計算をしていた ダークビッケンバーグのブーツだけは なんとしても欲しいと思った そのためにぼくはバイトを頑張った 中田はそれほど頑張らなかった ぼくは野崎の車をなんどか洗った 車はどす黒い感じの群青色だったが 水しぶきと虹が綺麗に映えた ダークのブーツを買ったのは野崎の車で弘前にいった時ではたぶんない 野崎は裏道を通って弘前にいこうとした その途中に「草原」と呼ぶにはやや規模が小さい原っぱのようなところがあって その中ほどに黒くくすんだ木造の小屋があった 小屋の一部は赤とピンクのバラで屋根近くまで覆われていた 向かいにはソメイヨシノとポプラの大木があった ケヤキや白樺もみえた ポプラの頂上を眺めていると少しだけ空を飛んでいる感覚になる ぼくはポプラの木を両手で撫でるように触った いや 風で揺れる葉っぱが掌に触れるギリギリの位置に両手を添えた それからぼくはポプラの木を両手でガシッっとつかんで 地面から引っこ抜いた それほど力をいれなくてもわりと簡単に抜けた もっと何か起こりそうな気がしたが何も起こらなかった ポプラの木の前のベンチに初老の夫婦がすわった 二人は20分ほどそこで休んでから いつの間にか立ち上がって 腕を組んで歩いていった 男のほうを女が支えているようにも見えた 二人が歩いていたのは墓地だった 前日に雨が降っていたのか 地面はヌルヌルした泥でぬかるんでいた 二人はぼくの父と母だった そろそろ父は限界なはずである 弟の声が少し弾んで聞こえた 「延命治療って拒否できるの?」と聞かれたから「ちゃんと拒否するから安心しろ」と弟にいった 腹六分目にしているのに朝の目覚めが良くないのは 酒のせいではなく 気圧のせいだと思った ともあれもうすぐ高校時代の体になる ぼくが高校のときの街はもっと賑やかだった 駅前のビルに黒夢の清春が来たりもしていた その頃のぼくは腹筋が6つに割れていた そう もうすぐである まあそれは良いとして…… 駅前のビルの駐車場と裏口を兼ねたどこにでもありそうな倉庫のような中の脇に 細長いベンチが置かれた喫煙スペースがあって 谷本君はいつもそこで白いご飯ともやしだけを詰めたタッパーの弁当を食べていた 谷本君はタバコを吸わない つまり休憩室でそんな質素な弁当をみられるのが恥ずかしくて だからわざわざ喫煙所で食べているのか?と思ったが 喫煙者がきても弁当を隠そうとせず それどころか 豪快というか 周囲をはばかる様子もなく いつもムシャムシャもやし丼を食っていた 「そういう感じがまたキモイんだよね~」と小野さんはいった ぼくは小野さんが笑いながら「ブハッ!」と床に噴き落としたフリスクを拾って谷本君にあげた 谷本君がそれを嬉しそうに小野さんの目の前で食べたら 小野さんは白目をむいて気絶した 小野さんの口からは泡のようなものも出ていた 誰かが救急車を呼んで窓を開けた 風は意外と冷たかった とはいえ長袖のシャツを羽織るには暑かった 袴田さんは本社に電話をしたりしていて小野さんの傍にはほとんどこなかった とにかく現場はかつてないほど騒然としていた やがて雅樹の右の拳が陽一の顔面を力強く打ち付けて 陽一は完全に降参した その瞬間ブタヒロがわが校の支配者となった ブタヒロはウィンクの下敷きをもっていた というかウインクの下敷きを買いに行くとき ぼくと江川は無理やりブタヒロに付き合わされた ぼくは納豆を食べた直後の唾をブタヒロの筆箱に吐き入れてやった 江川はブタヒロの弁当を盗み食いした 弁当の中身は白いご飯と焼きイカだけで しかも焼きイカにはほとんど味が付いていなかった 「もうマジ無理……」といって江川が残した焼きイカ弁当を ぼくは一応ぜんぶ食べた 昼飯の時間 ブタヒロが弁当を開けるその瞬間 ぼくと江川はブタヒロの一挙手一投足に注目した ブタヒロは弁当を開けてすぐにぼくのほうを見た ぼくは急いで目をそらしたが間に合わなかった というかその急ぎ方がわざとらし過ぎて 一言も白状していないのにもはや言い逃れはできない感じだった 逃げるぼくと追いかけるブタヒロを見ながら 江川は笑いすぎて大量の小便をもらした ぼくは「キタネーな!海で洗ってこい!」といって江川を海に突き落とした このまま死ぬかもしれない……と思う間もなく 江川は溺れて気を失った 援けてくれたのは近所の中学校の体育の先生だった その人はジャイアント馬場に似ていた いや そうだったということになぜかした ぼくは大量の海水を飲んだらしかったが コップ一杯分もそれを吐き出すことができなかった あとで小便として出るから大丈夫だろうといわれたが なぜかウンコに混じって銀の指輪がでてきた 

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