もはや水に流して済む話ではない

先月から国論を二分している福島第一原発の汚染水問題。
いったいどうしたもんだろう。
自分の中ではいまだにどちらが正しいのか判断がつきかねている。

東京在住の宮城県人、しかも漁師町出身の身としては、今回の措置をとても苦々しい思いで見ていた。
とは言え、自分はもう地元に住んではいないし、漁業関係者でもない。

マスコミやネットでは相も変わらずの議論が続いている。
賛成派/反対派が互いの立場を理解せず罵りあい、それぞれ自分たちこそが科学的根拠に立っていると口角泡を飛ばす。

今回の論争では、どちらの側も、それぞれの「科学的根拠」を持ち出して応戦する。多分本人たちは、その根拠のもととして持ち出してきた研究結果や論文こそが「自分の意見を裏付ける」正しい証拠なのだ。

もうこうなってくると、研究者でも技術者でもなく、原子力工学や核物理学どころか高等数学レベルすら怪しい自分なんぞは、どちらの言っていることが正しいのか、もはや検証する術はない。

もしかしたら希釈されて半減期を迎えて、懸念される生物濃縮もないのかもしれない。
IAEAや政府の調査がしっかりと為されていて、心配がないと判断したうえでのことなのかもしれない。
いくら現在の政府がボンクラでもまさか国民に致命的な被害をもたらすような選択はしないだろう。そう思いたい。

だがそれでも、腹の底からせり上がる不安は払拭できない。
最近の政府を見ていると、本当に国民の立場を考慮した政策をしているとは言えず、むしろ真逆なことばかりをしている。
政府も企業も、100年、1000年先のことなんて考えておらず、ここ数年さえ乗り切ればいいという態度しか見えてこない。
こんな連中を信じろというほうが難しいだろう。

そしてつい最近読んだこの本は、そんな不信感を裏付けるものだ。

この本を読むと、この国で責任ある立場にあるべき人々が、いかに自分たちの属する集団や関係者の利害しか考えていないかがわかる。
日本特有の、狭い「世間」と「身内」に閉じこもって、都合の悪い事実はどんなに国益国難に関わることであっても無視し、目を背ける。
こんな人たちばかりで社会が構成される日本という国は、原子力発電なんていうものに手を出した時点で終わっていたのかもしれない。

ただ、原子力発電自体を否定するわけではない。
技術や道具は使う人と使い方次第だ。
原子力発電なんていうヤバいものを扱うからには、

地震や大規模な自然災害が少なく
考えられる限りの不測の事態を想定してありとあらゆる対策を立てられ
いざという時には携わる人間が明確な責任と役割分担のもとに的確に動ける体制をとれる

そうした条件が不可欠ではないのだろうか。

そう考えると、日本なんて完全に正反対。完全にアウト。
いつどこでも巨大地震を起こす地盤の上に乗っかり、縁起でもないことや起きてほしくないことは「仮定の話」などと言って考えることを避け、物事はみんなで曖昧に決めて、何かあっても「想定していなかった」を繰り返すばかりで、誰も責任を取らない、取る人を決めていない。

技術的云々の前に、日本は最初から原発なんて向いていなかった。
自然災害てんこ盛りなうえに、甘ったれた未熟なコドモしかいない国に、危険な道具を持たせちゃいけなかった。

話を戻すと、問題が「処理水」か「汚染水」かなんてどうでもいい。
放出した水が安全か、蓄積するのかしないのか、今の段階では本当のところはわからない。
今は目立った問題がなくても、30年後どうなるかは誰にもわからない。
そもそも放出が、廃炉が30年で終わるのかすらもわからない。

これまで前例のないことなのだから、誰しも「わからない」という態度が本来なのではないのか。
みな一体何をもってそんなに「安全だ」「危険だ」と言い切れるのだろう。

じゃあオマエは一体どうすればいいと思うんだ、って?
そんなのそれこそ「わからない」。
いろんな人たちがネットやSNSで、論文やデータを読みかじったところで、それを正しく理解している人がどれだけいるんだろう?

なら自分ができることは、生物としての本能的な危機感、直感的な不安、身体的な感覚、長い時間の感覚や過去の教訓に従って物事を感じ取ることだ。

そう考えると、やはりあれは海に流すべきではない。
たとえ短期的に異常はなくても、不自然なことはすべきではない。
たとえ今この瞬間には科学的に正しくても、将来どうなるかはわからない。

もちろん、少しでも正しい(と思われる)情報を探し続けることは必要だ。引き続き関心を持ち続け、その時その時の状況と照らし合わせて自分の考えをアップデートしていかなければならない。
それでも、常に自分の身体的な感覚や直感と向き合っていくことはしていきたい。カツオやイワシ、牡蠣は好きだから今後も魚介類は食べるけど、頭の片隅に常にこの問題を抱えながら暮らしていくんだろうなとは思う。


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