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フェンシング部回想①

numberで読んだ記事。
高校野球や部活動をめぐる状況も年々変わっているし、こういう考え方をする指導者が出てくるのはすごくいいこと。
でも、こういう人がまだまだ特別な例として取り上げられるってことは、それだけ運動部と、体育会系のあり方が日本の社会に強く根付いてるってことでもあるんだよね。

過剰なまでの選手管理、勝利を追求し過ぎるあまりに蔓延る不正行為、高校生を大人が理想とする型にはめ込もうとする同調圧力……。列挙していくと切りがありませんが、さまざまな問題が華やかな舞台裏には潜んでいるのです。

上記記事より

何をするのも一緒で、その集団の中にいることを重んじて、そこに属してさえいれば安心。これも高校野球の負の文化であり、日本人のメンタリティの形成に悪影響を及ぼしていると感じています。

同上

そうこれ。しかも問題は高校野球だけじゃないでしょう。
中・高・大学と続く体育会系部活動、特に名門とか、強豪とか呼ばれてる所ほど、最近ものすごく問題が表面化してる。
指導者の暴言や体罰、部員同士でのイジメ、集団での性的暴行や、最近問題になっている大麻蔓延などの犯罪行為…。

今の日本で起きているさまざまな問題は、そんな体育会系風土を当たり前だと思っている人たちが社会に出て起こしているってのはあながち間違いでもないと思う。
以前、「もう部活動はいらない」的なのを書いたのもそうした思いからだ。

だけど今回はその話ではなく、自分が部活をしていた頃はどうだったかな、というのを淡々と振り返る話。

自分も中・高と運動部だったこともあるので、部活でスポーツをすることの価値は否定しない。「教室では得られない人間的な成長」つてよく言われるけど、たぶんそういう有形無形で得られるものも何かしらあるんだと思う。
自分の場合かなり怪しいけど。
というわけで、最近ときどき当時の様子を思い返す。結局何を得られたんだろう。

フェンシング部に入ってからの毎日

高校ではフェンシング部に所属していた。
高校入学前に、NHKの『アニメ三銃士』とその原作であるアレクサンドル・デュマの『ダルタニャン物語』にハマってた影響は確かにある。

入部した時、同級生の部員はずいぶん多かった。なんでこんなにいるんだと思ったが、前の年に地元ローカル局の部活紹介番組で取り上げてられてたことを思い出した。自分は観ていなかったけど。

フェンシングは全員が高校から始める。ジュニアスクールがある地域もあったけど、通ってた学校の学区にはそんなものはない。なので最初は全員初心者。
入部後半年は、1年生全員がフェンシングに必要な体づくりに明け暮れる。
まだ道具を買っていないのもあるが、その間は剣なんて持たせてもらえない。

部活が始まるとすぐ、引率の上級生一人と共に、皆で近くの山寺へ向かう。
ここは麓から山門までクソ長い石段が続き、近隣の高校のいくつかの運動部もトレーニングの場として使う場所でもあった。
我々のトレーニングは、ここを何往復もひたすら登り降り。
ダッシュで登るだけでなく、ペアで相手を背負う、相手に足を持ってもらい腕で歩くいわゆる手押し車で登り降りする、など。
ちなみにうさぎ飛びはやった記憶はない。ヒザを酷使するスポーツなので、その弊害は早くからわかっていたと思われる。

下山し、学校に戻ってきた新入生は、柔軟体操に腕立て、腹筋背筋の基礎運動の後、基本姿勢を叩き込まれる。
足を肩幅、つま先は90度に広げて立ち、そのまま膝だけを曲げて上体をすーっと下ろす。
できるだけ低く、重心は常に両足の真ん中
背筋は曲げない。
お尻は出ないように、上体は常にまっすぐ
腕は剣を構える状態で前に出し、剣を持たない方の腕は肩より上に。
肩は平行、左右に傾かないように。
両足はヒザからつま先まで外側にも内側にも出ないように一直線

右側が訓練していた基本姿勢。まだ剣は持てないので、側から見ると相当マヌケ。


実際やってみるとこれ、ものすごくキツい
フェンシングの試合時間は5分なので、最低でもそれぐらいは保たないと話にならないんだけど、当然最初は1分でも地獄だ。

そして何より、かなり恥ずかしい
1年生の人数が多かったからなのか、やっていたのは体育館ではなく、なぜか学校の廊下。こちらを見て笑いながら通り過ぎる他の生徒の視線は地味に辛かった。
スマホで撮られない時代でよかった。

なんとか基本姿勢を保てるようになっても、キツいのはさらにここから。
今度はそのままの姿勢で前後に移動できるようにならなければいけない。
利き足のつま先を軽く上げ、すり足ギリギリで前進、踵から地面に着く。
上半身の姿勢は崩してはいけないし、重心も均等。前後に動く時も上下に浮き沈みしてもいけない。
水面下で水鳥が必死に足を掻くように、上はそのままで腰から下だけが動く。
たぶん当時は、「いつまでこんなことしなきゃなんないんだろう」ってみんな思ってただろうな。

体に基本を覚え込ませることの意味

やがて体育館での練習に参加するようになり、練習メニューは少しずつ増えていく。次は試合で攻撃に移るために必要な足の動きだ。

①.例の基本姿勢で腰を両手に添え、そのまましゃがむ。立ち上がる。またしゃがむ。これを10回。上半身はまっすぐで動かさない。
②.①のしゃがんだ姿勢から、利き足と逆の足をバネに体を前方へ思いっきり蹴り出す。利き足は前にまっすぐ伸ばし、踵から着地。着地と同時にヒザを曲げて姿勢を保つ(上の絵の左側の人)。足の力だけで最初の姿勢に戻る。これを10回。やはり上半身は動かさない。
③.基本姿勢から前に一歩踏み出し、戻す。×10回。上半身は(以下略)
④.③の前に一歩踏み出した姿勢から、②の蹴り足で前に飛びながら利き足を踏み込む動きを10回。

ここまでくると、今までやってきたことの意味がようやくわかるようになってくる。
上半身が上下にブレさせないのは、攻撃の際にも正確に狙いを定め、動いている最中でも体勢を崩さないため。
背筋を伸ばす、肩を平行にする、重心は常に両足の中心に保つのは、防御に転じた際でもバランスを崩さないようにするため。
そして、伸ばしたヒザを踵の着地と同時に曲げる、ヒザからつま先まで外側にも内側にも出ないようにするのは、衝撃や力のかかり方を均一にすることでケガを防ぐため。

地味で超キツい基本姿勢とその動きが、自分なりに理解できるようになってからは、ヒザと踵の向きの偏り、上半身の傾きにはすごく気を使うようになった。

体に基本を叩き込むことの重要性を初めて実感したのは、その時からかもしれない。

入部してまだ剣を持てない日々のことを書いていたら、フェンシング入門者向けトレーニングみたいになってしまった。
いったん話を切り上げて、次は当時の部の環境はどうだったかを書いていきたい。

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