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劇団ペトリコール社project.3「ブルグマンシアの世界」終演

いつも思うことですが、時間というのは誰に断って過ぎていってるんでしょうね。僕は「過ぎていいよ」と許した覚えはないです。いつかアインシュタインを正座させて小一時間説教しなければとわりと本気で思ってます。
苦痛な時間はいっこうに過ぎていかないのに、公演本番が近づいた時の時間はミハイル・シューマッハや星野一義を置き去りにする勢いで飛び去っていきます。どうでもいい比喩情報ですが、要はホントに勘弁して欲しい、ということが言いたかったのです。
で、公演が終了してからもうまもなく1週間が経とうとしています。
どこの現場もそうですが、「終了した!」と言ったそばから次の現場へ走り出してるメンバーもいたりします。
それを見て単純に「すげえなあ」という言葉しか出てこない僕は、1週間がかりでようやく少しだけヒットポイントを回復してる有様で。
1週間はこれもあっという間でした。
ようやく少しだけ振り返る余力ができてきました。トシはとりたくないですねえ。

さて。
劇団ペトリコール社project.3「ブルグマンシアの世界」。
終演いたしました。
これまたどこの現場でも、というやつで、終わったのかどうかあんまり意識的な区切りがつけられません。安堵感の裏返しでガラにもなく少しだけ空洞を埋めきれないのだと思います。胃よりも少し上、丹田と呼ばれる辺りで「ぽっかり」という擬音語にエコーがかかっています。可能な方は「エコー」じゃなくて「スプリングリバーブ」を想像していただけるとよりありがたい。
だって楽しかったから。本番も、稽古も。
ただまあ、とは言っても終わったものは終わったので、区切りとして「終演いたしました。」という言葉を使ってみます。
使っちまった。
使っちまったので、これでやっとありがとうが言えるようになりました。
観に来てくださったお客さん、僕を出演者として迎えてくれた劇団ペトリコール社、僕と同じ「客演」と呼ばれる劇団外からの出演者、この日のために結集したスタッフ、もちろん劇場、関わってくれた全ての皆さんに。
ありがとうございました。

※1月28日(土)19:00のステージで機材トラブルがありました。
劇中で動画が流れる予定だったのですが、映像信号がキャンセルされてしまい、全く投影されませんでした。
音響ブース(操作室)の設えを捌いていた中村の確認ミスです。あとから思えばリハーサルで初発したときに原因は特定できていた訳ですから、オペレータに「もしトラブルが再現したら交流電源の入力結線を疑え」とひとこと伝えておけば。
お客さんに対しても。主催者に対しても。
何よりいちばん忸怩たる思いを抱いているはずの、この動画を作成した斎藤ゆうさんに。
お詫びのしようもないけれど、せめて、
申し訳ありませんでした。
※23.02.05追記。
投影されなかった動画を中心に、どんなシーンだったのか、劇場で合間を縫って再現・収録していました。斎藤ゆうさんがyoutubeに上げてくれています。むろん臨場感を余すところなく、とはいきませんが、これだけ渾身のものを創り上げていたという事実はご覧頂きたいと思っています。
https://www.youtube.com/watch?v=Vp8XTKrgIzg

さて。
中村の私見を中心に、振り返ってみようかと思います。

(※23.02.06追記。
調子に乗って書き始めたはいいけど、ビルドばっかりでスクラップを無視する展開になってしまったので、いったんこの稿で公開することにしました。続きはもちろん書いてます。次章は「『ブルグマンシアの世界』のひとびと」と題して、キャスト・スタッフ個人への思いを綴る予定です。もし、もし、興味を抱いていただけるなら、続きをもう少しお待ちください。
それと、今後の展開はほとんど考えてないのですが、「どんな作品」という総論的な視点からの詳述は敢えてせず、僕の断片的な記憶の掘り下げに止めようと思います。まあこれもノープランに近いのですが。)

いつものことですが、中村の意図的な誤読を軸に、恣意的に綴ることになります。
劇団あるいは作家・演出家の公式的な見解とは異なります。お含み置きいただければ。

最初に出演依頼のお話をいただいたのは、斎藤ゆうさんからでした。
オリゴ党「シンドバッドの渚」とある日の稽古が終了して退出しようというタイミングでした。第一声が「お願いがあります。」だったと思う。
「ブルグマンシアの世界」のときと同様、あるいはそれ以上に稽古で思うように動けず凹んでいた時期でもあって、これは僕の思い込みなんだろうと思うのですが、彼女の思い詰めたような表情・声色に、てっきり「段取りくらい覚えてください。」というダメだしが来ると思ったんです。僕は全身で身構えてました。ごめんなさいを言う準備もしてました。冷たい汗が瞬く間に背中を濡らしました。
「・・出演してもらえませんか。」
あまりに予想外な言葉にすっかり平静を失い、「へ?」とか何とか答えて以降しどろもどろになった(たぶんかなり余計なことを口走ったと思う)、それくらいしか記憶に残ってません。
推測ですが、ペトリコール社共同経営者の田中愛積さんがプッシュしてくれたんだと思います(口火を切った斎藤ゆうさんの背後に田中愛積さんが満面の笑みをたたえて立っていたような記憶があるので間違いないでしょう)。彼女は僕のことをとても買ってくれている。直接伺ったこともあります。正直買い被りだと思うところもありますが、同時に正直嬉しいことで。とても嬉しいことで。とても名誉なことで。
でも、「・・出演してもらえませんか。」「・・はい。」とは言ったものの、我ながらかなりひどい状態だったこともあって「(言っちゃったよおい)」と思ったことも白状します。お二人の顔に泥を塗る訳にはいかない。でも、だからこそ、何とか自分を回復させて、「呼んでよかった」と言っていただかないと。
その後遅まきながら病院に行きました。案の定LongCovid(新型コロナ後遺症)でした。言い訳にしちゃいけないんですが、それでも都合よく他責にすることだけはできました。呼吸器系はかなり回復したのですが、言葉の理解力は現在も完全には復調していません。それでも、多少は闘う態勢は整ったかも知れません。

すっかり前置きが長くなりました。すでに前置きといえる長さじゃないですね。
10月に顔合わせ、11月から稽古が始まりました。事前に台本はデータで頂いていたのでひととおり目を通しています。
・・一筋縄じゃいかねえな・・・。
第一印象です。
まあ「一筋縄でいく」台本というのにお目にかかったことないんですが、これまで自分が手にしてきた、あるいは読んだことがある台本とは明らかに異質なものを感じました。恐らくのところ、題材として「ゲーム」「バーチャルリアリティ」(以下「VR」と呼称します)を扱っているということに最初に戸惑ったのだと思います。細分化していくと、登場人物がほぼVRの「内側」に存在する「アバター」であること、同時に、アバターを動かしている「外側」の「プレイヤー」の存在も暗示あるいは明示されていること。
僕にこのタイプの台本に対する免疫/ノウハウがなかっただけですが、登場人物の機微/発想を「アバター」「プレイヤー」どちらに軸足を置いて理解したらいいんだろう。
稽古期間序盤くらいまでに決めればいいやと高を括ってたので、悩む、というほどではありませんでしたが、戸惑うくらいの感覚はありました。
併せて、斎藤ゆうさんの台本は比較的平易な言葉で書かれています。ところどころ口調が固くなる(ひょっとしたら僕に当てて書かれた部分だったのか)こともありますが、概ね日常会話的な「口語」として綴られています。
「読みやすい」んです。
スラスラと読んでいるうちに、手探りで距離を測っていたはずの軸足がいつの間にか疑いなく勝手にどちらかに移ってしまっていることに気づく。思い込んで読んでいることに気づく。
こんなこと言うと怒られるかもしれませんが、すごく巧妙な罠を仕掛けられた気分です。
前後しますが、(もうネタばらしてもいいよね?)ラストシーン。
主人公であるアルカ(中村太亮くん)が、(結果的にですが)現実の世界でのみならずVRの世界でまで自分を追い詰める榊(斎藤ゆうさん)を全力で絞殺するシーン。首を絞めて、ぐったりした彼女を見下ろして、アルカが呟きます。「え?あれ・・・。」「・・なんでここで人が死ぬんだ・・・!」「・・・ここ、は、どっちだ・・・?」
サイ(田中愛積さん)「実刑判決。■■■、被告人を、無期懲役の刑に処す。」
無期懲役の判決を言い渡された「■■■」はアバターたる「アルカ」なのか、プレイヤーである「天音」だったのか。
今自分がいるのは「外側」=「(一般的に)現実(と呼ばれる空間)」なのか、「内側」=「(一般的に)VR=虚構(と呼ばれるが、虚構と断じるにはあまりに手触りがたしかな空間)」なのか。

――これはアルカ/天音に関する記述ですが、「現実と虚構の区別がつかなくなる」点に関しては、抱える背景は違えど僕が演じた「ダスト」という登場人物や他の役者が演じるアバターに起こっても不思議のないことで。
そう考えると、作家は上記の巧妙な罠を張り巡らせて、お客さんを欺く(もちろんいい意味で、です。「語り」の語源が「騙り」であることに象徴される、お芝居の根源的な愉しみとしての「だまし」だとご理解ください。)ための下準備として僕を誑かしにきた。そんな風に感じます。考えすぎでしょうか。
そして、僕はその罠を何とか掻い潜ったと信じてるのですが、その判断は正しいのでしょうか。

書きたいことを思いつくままに綴ってみたら、予想よりも文字数を食ってしまいました。いったん「続く」にさせてください。

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