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「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」に対する意見を提出しました

2022年9月27日、デザイナー法務小僧を運営する弁護士田島佑規及び宇根駿人は、「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」に対し、意見を提出しました。

これまで約4年にわたり、のべ100名以上のフリーランスのクリエイターの方から相談を受けてきた経験を踏まえ、以下の2点を意見として提出しております。
日本のクリエイティブ産業の発展のため、そして何よりクリエイターの方が安心して活動できる環境のために、引き続き、活動してまいります。

※本件に関するお問い合わせは以下までお願いします。
soudan@d-kozo.com

意見1

(意見内容)
フリーランスへの発注において書面の交付等を義務づける条項の必要性及びその時期について、フリーランスや各業界団体、フリーランスに関するトラブル解決等に実績のある有識者の意見を踏まえて、改めて検討いただきたい。

(意見の理由)
我々は、クリエイターが安心して活動できる環境を作り社会における新たな価値創造に貢献したいという思いのもと、クリエイターに対する無料法律相談窓口をweb上に設置し(サイト名『デザイナー法務小僧』https://d-kozo.com/)、これまで約4年にわたり、弁護士として、のべ100名以上のフリーランスのクリエイターから発注先との契約・トラブルに関する相談を受けてきた。
フリーランスの取引適正化という本法制度案の趣旨は、我々の活動の思いと趣旨を同じくするものであり、本法制度案の趣旨には賛同する。しかし、業務委託の際の書面の交付等を義務づける規定については、以下の理由のとおり、現時点において規律すべきではないと考えている。
フリーランスへの発注に契約書等の書面が必要となった場合、発注者としては、最大限自らに有利な契約書をひな型として準備することになると思われる。この契約書について、受注者であるフリーランスとしては、条項の削除や修正を提案するなど適切に契約交渉を行うことが重要であるが、多くのフリーランスにおいて、契約書を適切に読み内容を理解し、発注者と適切に交渉を行えるような契約知識・法務スキルは十分に備わっていないと思われる。また、契約書のレビュー等を弁護士などに有償で依頼することもコストの面から難しいことが通常である。こうした現状は、昨年9月から本年7月にかけて文化庁において実施された「文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議」における取りまとめ(https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kondankaito/bunka_geijyutu_bunya/index.html)においても、フリーランス自らが「当事者たる意識を持ち、……契約に関する知識を深め、事業者等と協議・交渉できる力、契約書を交わせる力をつける」ことが重要であるとして言及されている(なお、上記検討会議の結果を踏まえ、今後、文化庁においては、「芸術家等実務研修会の実施」がなされる予定である(https://pf.mext.go.jp/gpo4/KoboSRCH/list/kpdispDT.asp?id=KK0012244))。
上記の状況において、フリーランスへの発注に契約書等の書面の交付を義務づければ、契約知識・法務スキルの不足から書面の内容が分からないままとりあえず契約締結を行うフリーランスが出てくることが容易に予想される。その結果、書面がなければ、民法等の法律に基づいて中立的に処理されていたトラブル等が、あえて自らが不利な契約書を締結してしまうことにより逆に不利な解決となってしまうことが想定されるのであり、書面の交付の義務づけは、現時点においては、むしろフリーランスに不利に働く可能性があると考える。
ついては、フリーランスへの発注において書面の交付等を義務づける条項の必要性及びその時期について、フリーランスや各業界団体、フリーランスに関するトラブル解決等に実績のある有識者の意見を踏まえて、改めて検討いただきたい。

意見2

(意見内容)
長期間にわたってフリーランスの活動に影響を及ぼす契約条項を定めることの禁止、及び、そのうち今後のフリーランスの活動を著しくかつ不合理に制限することとなる契約条項は無効とする旨の規律を設けるなど検討いただきたい。

(意見の理由)
我々は、クリエイターが安心して活動できる環境を作り社会における新たな価値創造に貢献したいという思いのもと、クリエイターに対する無料法律相談窓口をweb上に設置し(サイト名『デザイナー法務小僧』https://d-kozo.com/)、これまで約4年にわたり、弁護士として、のべ100名以上のフリーランスのクリエイターから発注先との契約・トラブルに関する相談を受けてきた。
フリーランスの取引適正化という本法制度案の趣旨は、我々の活動の思いと趣旨を同じくするものであり、本法制度案の趣旨には賛同する。しかし、以下の点において、不十分な点があると考えている。
上記相談の経験上、我々が最もフリーランスに悪影響があると考えているのは、長期間にわたってフリーランスの活動に影響を及ぼす契約条項の存在である。例えば、「本契約締結以降、同種及び類似の業界からの業務を受注してはならない」といった期間の定めのない競業避止義務の条項や、「本契約に違反した場合は、多額の違約金(当該フリーランスの年間売上以上の金額など)を支払わなければならない」といった違約金に関する条項などである。
フリーランスへの発注に契約書等の書面交付が義務づけられるようになった場合、発注者としては、上記条項を含むような最大限自らに有利な契約書をひな型として準備することになると思われるが、フリーランスにおいては、契約知識、法務スキルが十分でないことも多く、そのような契約内容と知らずに締結してしまうことが容易に予想される。
ついては、過度な競業避止義務条項や高額な違約金条項など、長期間にわたってフリーランスの活動に影響を及ぼす契約条項の設定についても禁止行為として定めることを検討いただきたい。
また、上記のような長期間にわたってフリーランスの活動に影響を及ぼす契約内容で契約を締結してしまった場合の対応として、フリーランスにとって最も重要なのは、当該契約からの解放であり、発注者に対する行政上の措置ではないと思われる。契約自由の原則が大前提として存在するものの、上記のとおりフリーランスには契約知識・法務スキルが十分でないことも多いため、フリーランスの取引適正化を進めるためには、契約内容への最低限の介入も必要であると思われる。
ついては、長期間にわたってフリーランスの活動に影響を及ぼす契約条項のうち、今後のフリーランスの活動を著しくかつ不合理に制限することとなる契約条項については無効とするなどの規律も検討いただきたい。


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