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脳性麻痺の理解と支援: 理学療法士の役割

 日々向き合う脳性麻痺の子どもたちに、より質の高い理学療法を提供できるような情報を紹介します。脳性麻痺の病態を理解し、家庭や、学校、職場で実践できる介入を通じて、子どもたちの自立を促し、社会参加の道を広げる手助けをすることができます。この記事を読むことで、実生活に即した理学療法のスキルを高めることができます。


1. 脳性麻痺の概要

 脳性麻痺とは、出生前後や出生時の発達途中の脳が何らかの原因で傷害を受けた結果、運動機能や姿勢のコントロールに長期的な影響が出る状態を指します。ここでは、脳性麻痺の基本的な定義と主な症状について詳しく見ていきましょう。

脳性麻痺とは

 厚生労働省の定義によると、脳性麻痺とは「受胎から生後4週以内の新生児までの間に生じた、脳の非進行性病変に基づく、永続的な、しかし変化しうる運動および姿勢の異常」です。その症状は満2歳までに発現します。
 脳性麻痺の発生率は1,000人に約2人と報告されています。主な原因としては、核黄疸、ビリルビン脳症、低酸素性虚血性脳症、脳室内出血、脳室周囲白質軟化症がありますが、妊娠中の感染症や遺伝的要因も影響を与えることがあります。
 脳の損傷が運動機能に影響を与える理由は、脳が筋への指令を司っているためです。脳からの信号がうまく筋に伝わらないことで、意図した通りに動かすことや特定の姿勢を維持することが困難になります。脳損傷の部分や範囲は個々に異なるため、影響の程度や症状の種類も人それぞれです。

 脳性麻痺は、主に以下の6つのタイプに分類されます。

  1. 痙直型: 錐体路の損傷により痙性麻痺を主体とするタイプ。

  2. アテトーゼ型: 不随意運動が主体のタイプ。

  3. 強剛型:重度の大脳基底核損傷といった広範な脳損傷により四肢に固縮が認められるタイプ。

  4. 失調型: 小脳病変により失調症状を呈するタイプ。

  5. 低緊張型:四肢、体幹筋の著しい低緊張を示すタイプ。

  6. 混合型: 上記の2つ以上の症状が混在する。

​脳性麻痺の主な症状

 脳性麻痺によって様々な症状が生じます。主な症状は筋緊張異常、運動制御の障害、筋力の弱さ、バランスの障害、移動の制限です。これらの症状は、人によって異なる形で現れ、生活の質に大きく影響を及ぼします。

・筋緊張異常

 筋緊張異常は脳性麻痺の典型的な症状の一つで、筋の緊張が過剰に高まる「過緊張」や、逆に過剰に低下する「低緊張」があります。この状態は、四肢の不自然な硬直や脱力を引き起こし、日常生活の動作に困難をもたらします。

・運動制御の障害

 運動制御の障害は、筋を正確に動かすための脳の指令系統が適切に機能しないことにより生じます。これにより、手足の協調運動が困難になったり、特定の動作を実行する際に意図しない動きが現れたりします。

・筋力の弱さ

 脳性麻痺者は筋力の弱さによって特定の動作を行うことが困難になることがあります。特に、立ち上がる、座る、物を持ち上げるといった動作が影響を受けやすいです。

・バランスの障害

 バランスの障害は、立っている時や歩いている時に体を安定させる能力が低下することを意味します。これは、座ったり立ったりする際の転倒リスクを高め、歩行においても不安定さをもたらします。

・移動の制限

 移動の制限は、上記の症状が組み合わさることで特に顕著になります。筋緊張の異常や、筋力の弱さ、バランスの問題が影響し、歩行パターンの異常や移動のための基本動作の困難が生じます。

 これらの症状を理解し、適切なリハビリテーションや支援を行うことで、脳性麻痺を持つ人々の生活の質の向上を目指します。

2. 理学療法における二次障害の予防

 脳性麻痺における理学療法の目的の一つは、早期介入によって二次障害の発生を防ぐことです。主な二次障害は「筋短縮と関節拘縮」、「脊柱側弯」、「股関節の脱臼」、「大腿骨と下腿骨の回旋変形」、「外反偏平足」、「廃用性筋力低下」です。ここでは、理学療法がどのようにして二次障害を予防するか、その重要性と具体的な方法について解説します。


・筋短縮と関節拘縮

 筋短縮と関節拘縮は関節の運動の範囲を制限し、痛みや日常生活における様々な活動の困難を引き起こす可能性があります。筋短縮は、筋が正常よりも短くなり、その結果、関節の運動範囲が制限される状態を指します。これは、脳性麻痺における筋緊張異常によって引き起こされることが多いです。筋が常に緊張状態にあると、時間とともに短く硬くなり、関節の動きが制限されます。関節拘縮は、関節周囲の筋や、腱、靭帯、関節包などが短くなり、関節の正常な動きが妨げられる状態です。これは筋短縮と関連していることが多く、筋短縮によって引き起こされる関節の動きの制限が関節拘縮を引き起こすことがあります。
 筋短縮と関節拘縮の管理において理学療法は重要な役割を果たします。適切なストレッチングやリラクゼーションテクニックは、筋の柔軟性を改善し、関節の運動範囲を維持するのに役立ちます。また、ポジショニングや装具の使用も、関節を適切な位置に保ち、拘縮の進行を防ぐのに有効です。加えて、活動的な生活を推奨することも不動による筋短縮と関節拘縮の発生を予防するために重要です。重度の場合には、外科的介入が必要になることもあります。 

・脊柱側弯

 脊柱側弯は背骨が回旋を伴って側方に曲がる状態を指します。脊柱側弯は、脳性麻痺における筋緊張の不均衡によって引き起こされます。一方の筋群が他方よりも強く収縮すると、背骨が引っ張られて曲がる可能性があります。これは特に、成長期において顕著になることがあります。脊柱側弯は、背中や肩の不快感や、バランスの問題、重度の場合には内臓機能に影響を及ぼす可能性があります。また、見た目の問題による自尊心の低下も見られることがあります。
 脊柱側弯の管理において、理学療法が重要な役割を担います。筋のバランスを改善するための運動や、姿勢をサポートし脊柱の曲がりを最小限に抑えるための補装具の導入などが有効です。重度の場合には、外科的介入が必要になることもあります。 

・股関節の脱臼

 股関節の脱臼は、筋緊張の不均衡や、筋の過度な緊張によって股関節が正常な位置から外れることによって発生します。脳性麻痺者では、特定の筋群が常に緊張しているため、股関節に異常な圧力がかかり、脱臼を引き起こす可能性があります。股関節の脱臼は、痛みや、関節変形、歩行や立位の困難に繋がる可能性があります。これらの問題は、日常生活の活動への参加や自立した生活に悪影響を及ぼします。
 股関節の脱臼の管理には、定期的な診察と早期介入が重要です。理学療法や適切な装具の使用によって、股関節の安定性を維持し、脱臼のリスクを低減することができます。重度の場合には、外科的介入が必要になることもあります。

・大腿骨と下腿骨の回旋変形

 大腿骨と下腿骨の回旋変形は脚の骨が通常よりも内側または外側にねじれている状態を指し、歩行やバランスに影響を及ぼす可能性があります。大腿骨と下腿骨の回旋変形は、主に筋の緊張の不均衡と荷重経験の不十分さによって引き起こされます。脳性麻痺による筋の過緊張や不均等な筋の発達は、脚の骨に異常な回旋ストレスを与えることがあります。成長期にこのような問題が起こると、骨の成長に影響を及ぼし、回旋変形が発生する可能性があります。また、健常児においても大腿骨と下腿骨には生理的なねじれが存在します。このねじれは立位や歩行による下肢への荷重経験によって徐々に矯正されていきます。脳性麻痺児では立位や歩行の障害によって荷重経験が不足するために、このような荷重経験による骨のねじれの矯正が不十分となるのです。大腿骨と下腿骨の回旋変形は、骨のてことしての機能を減少させ、立位姿勢や歩行パターンに異常を引き起こし、転倒のリスクを高めることがあります。また、変形が進行すると、関節への過度なストレスがかかり、疼痛や関節の損傷を引き起こす可能性があります。
 大腿骨と下腿骨の回旋変形を軽減させるためには筋の過緊張を抑制する介入や、荷重の機会を豊富にするような働きかけが推奨されます。また、必要に応じて装具を使用することも重要です。重度の場合には、外科的介入が検討されます。

・外反偏平足

 外反偏平足は、踵が内側に倒れ(外反)、足のアーチが平らになる状態(偏平足)を指します。脳性麻痺における、下腿と足底の筋群の弱さや、靱帯の緩さ、筋の過緊張は、足根骨の配置の異常を引き起こし、時間とともに外反偏平足を増悪させることがあります。外反偏平足は、歩行時のバランスの問題や、足の関節や骨に対する過度のストレスを引き起こし、足の痛みに繋がることもあります。
 外反偏平足の管理には、足のアーチをサポートし適切な足の形状を保つための装具や特別な靴の使用が推奨されます。理学療法を通じて、足のアーチを支える下腿と足底の筋群の強化を図ることも重要です。重度の場合には、外科的な介入が必要になることもあります。

・廃用性筋力低下

 廃用性筋力低下は、長期間にわたる活動不足や筋の使用不足が原因で筋が衰える現象です。脳性麻痺においては、身体の一部が適切に動かされないことで、特定の筋が十分に刺激されず、徐々に衰えていきます。これは、運動障害や筋緊張異常が原因で、特定の筋群が正常に使用されないために起こります。廃用性筋力低下は、筋量の低下と筋力の減少を引き起こし、結果として身体機能に影響を及ぼします。そして、歩行を含む移動動作などの日常生活の活動における制限に繋がる可能性があります。
 廃用性筋力低下の予防のためには、筋力トレーニングと継続的な運動習慣の獲得が有効です。理学療法によって、特定の筋群の活動を促進し、筋力の低下を防ぎます。また、適切な活動や趣味を通じて、筋の使用を促すことも重要です。

​​ 3. 各時期の理学療法の目的と重要性

 脳性麻痺の理学療法は、個人の発達段階に応じて異なる目的と重要性を持ちます。乳児期から成人期にかけて、理学療法は脳性麻痺を持つ個人の生活の質を向上させ、自立を促進するために重要な役割を果たします。

・乳児期の理学療法

 乳児期の理学療法の主な目的は、子どもの発達を促進し、運動障害による制約を最小限に抑えることです。乳児期は、脳の発達が最も活発で、環境からの刺激に対する反応が活発で脳の可塑性が高い時期です。早期の理学療法介入によって、正常な運動機能と感覚機能の発達を促進し、潜在的な二次障害のリスクを減らすことができます。早期介入は、将来の自立や生活の質の向上につながります。
 乳児期の理学療法では、脳性麻痺の症状に対する直接的な介入に加えて、日常生活の中で簡単に取り入れられる運動や活動を保護者に指導します。例えば、寝返りやハイハイを促す運動、視覚や聴覚を刺激する活動、そして親子のスキンシップを通じた感覚刺激などがあります。これらの活動は、子どもの運動能力だけでなく、親子の絆を深めることにも寄与します。
 乳児期の理学療法は、脳性麻痺を持つ子どもの発達にとって不可欠なものです。早期介入により、運動能力の向上、二次障害の予防、そして将来的な自立性の向上が期待できます。

・幼児期の理学療法

 幼児期の理学療法の主な目的は、基本的な運動スキルを発達させることです。幼児期は運動スキルが飛躍的に発達する時期であるとともに、身体活動を通じて自己効力感を獲得する重要な時期です。この時期には、歩行や、走行、ジャンプなどの基本的な運動スキルを発達させるための介入が特に重要となります。これによって、脳性麻痺による運動障害の影響を軽減し、子どもが友達との遊びに積極的に参加できるように支援します。幼児期の理学療法は、運動能力の向上だけでなく、子どもの自信と社会性の発達を支援するためにも重要です。
 幼児期の理学療法では、脳性麻痺の症状に対する直接的な介入に加えて、遊びを通じた運動スキルの学習が有効となります。例えば、平均台を使ったバランス遊び、ボールを使ったスローイングやキャッチング遊び、障害物コースを使った運動遊びなどがあります。これらの活動は、楽しみながら運動スキルを発達させることができるため、子どもたちにとって非常に効果的です。
 幼児期の理学療法は、子どもの運動能力の発達と社会参加を促進するために不可欠です。遊びを通じた運動スキルの学習により、子どもたちは楽しみながら基本的な運動スキルを習得し、自信を育みます。

・学齢期の理学療法

 学齢期の理学療法の主な目的は、自立した生活に必要な運動スキルと、二次障害の進行を抑えるための習慣、社会性を身に着けるための基盤を作ることです。学齢期は、体格が急激に成長するとともに、社会的スキルを発展させ、アイデンティティを形成する時期です。この時期には、筋の柔軟性の維持と運動能力の向上に加えて、自立した移動能力の確立と学校での活動を適切に行えるようにするための環境設定が重要となります。学齢期の理学療法は、子どもたちがクラスメイトとの関係を築き、学校の活動に積極的に参加するための自信を育むのに役立ちます。
 学齢期の理学療法では、脳性麻痺の症状に対する直接的な介入に加えて、教室内での座位姿勢の支援や、体育の授業の取り組み方、休憩時間の過ごし方、活動に参加するための特定の運動スキルの指導が行われます。例えば、理学療法士は、子どもが長時間座っても快適に過ごせるようにするための座位保持装置を提供したり、過度な不動状態やオーバーユースを防ぐための生活習慣の指導を行ったり、学校の活動に求められる歩く、走る、飛ぶ、投げる、捕るといった基本的な運動スキルを教えたりします。
 学齢期の理学療法は、二次障害による影響を最小限に抑え、子どもたちが充実した学校生活を送るための重要なステップです。この時期の良好な経験
は将来の充実した社会生活に繋がります。

・成人期の理学療法 ​​

 成人期の理学療法の目的は、脳性麻痺に伴う身体的な制約の影響を抑えつつ、仕事などの社会生活において可能な限り自立し、参加できるようにすることです。成人期は、自身の可能性を追求し、社会的なつながりを深める重要な時期です。この時期には、身体機能と運動能力の維持、日常生活活動を支援する補装具やデバイスの提供、職場や事業所での生活に適応するための対策の検討が重要となります。成人期の理学療法は、脳性麻痺を持つ成人の健康状態を維持し、生活において充実感を得られるよう支援することで、生活の質の向上に直接貢献します。
 成人期の理学療法では、脳性麻痺の症状に対する直接的な介入に加えて、作業場所や作業方法の検討や、特殊な道具や技術の使用方法の指導などが行われます。例えば、立ち仕事の多い仕事における休憩の取り方や、長時間座っていても快適に過ごせるような座位保持装置の提供などがあります。また、レジャー活動や趣味に参加するためのアドバイスやサポートなども有効です。
 成人期の理学療法は、脳性麻痺を持つ成人が社会的、職業的、個人的な目標を達成するための重要なステップです。適切な介入により、身体的な制約を乗り越え、生活の質を向上させることができます。

4. 理学療法の主な実施形式

 理学療法の実施形式は、脳性麻痺者が目標を達成し、生活の質を向上させるために重要な要素です。定期的な介入は、新しいスキルを学び、既存の能力を維持し、二次障害を防ぐために不可欠です。治療の頻度が高いほど、一般的により良い結果が得られると考えられていますが、過度な治療への依存は生活に対して悪影響も与えます。そのため、個々のニーズに応じて適切なバランスを見つけることが重要です。

・通院理学療法

 通院理学療法は、脳性麻痺者が自宅から通うことができる形式のリハビリテーションサービスです。通院理学療法の目的は、患者の運動能力の向上や、痛みの管理、日常生活活動の自立を支援することです。この形式の理学療法は定期的な専門的介入と家庭での継続的なケアの指導を組み合わせることで効果が高まります。例えば、脳性麻痺を持つ小学生が通院理学療法を受けた場合、学校での座位の姿勢改善や歩行能力の向上などを目的に理学療法介入を行います。それと並行して、子どもと家族に日常生活で行うべきエクササイズを指導し、学校での参加や自宅での活動に役立つ情報を提供します。
 通院理学療法では、専門家の監督のもとで行われる定期的な介入と家庭での継続的な練習を組み合わせることにより、患者の運動能力の向上、痛みの軽減、そして日常生活の自立が促進されます。

・入院理学療法

 入院理学療法は、病院の中で集中的なリハビリテーションを受けることができる形式のリハビリテーションサービスです。入院理学療法の目的は、患者の状態に即した集中的な治療プログラムと環境を提供し、短期間での大きな改善を目指すことです。この形式の理学療法は、特に、手術後の回復期や重度の障害がある場合、特定の治療目標に向けて集中的な介入が必要な場合に適しています。入院理学療法の最大の利点は、頻回な理学療法介入を行えることと、患者が24時間体制で専門的なケアを受けられることです。入院中は他の医療専門家との連携も密であり、患者にとって最適な治療アプローチを模索することができます。例えば、筋短縮と関節拘縮、大腿骨と下腿骨の回旋変形に対する手術を受けた脳性麻痺の患者が入院理学療法を受けた場合、個別にカスタマイズされた運動プログラムと、能力に合わせた日常生活における環境設定の調整により、短期間での筋力の増強や歩行能力の向上が見込まれます。また、入院中には、患者の日常生活に必要な生活スキルの練習も行われ、退院後の自宅での生活が容易になります。
 入院理学療法では、患者の状態に即した集中的な治療プログラムと24時間体制での専門的なケアを組み合わせることにより、短期間での歩行能力の向上や筋力の増強、生活スキルの獲得が見込めます。

・訪問理学療法

 訪問理学療法は、理学療法士が患者の自宅や居住施設を訪問する形式のリハビリテーションサービスです。このサービスは通院が困難な方や在宅でのリハビリテーションが適切な患者に特に有効です。自宅での治療は、患者にとって慣れ親しんだ環境であるため、リラックスしてリハビリに取り組むことができます。また、実際の生活空間で行うことで、日常生活に直接役立つスキルを身につけやすくなります。例えば、脳性麻痺を持つ子どもへの訪問理学療法では、自宅の階段の昇降練習や、お風呂の浴槽への出入りの練習を通じて、能力の向上を即実行状況へと反映することができます。
 訪問理学療法は、患者が自宅で安心して、かつ効果的にリハビリテーションに取り組むことを可能にします。患者の日常生活に密接に関わる環境で行うことで、具体的な生活改善に直結するサポートを提供できるのが大きな利点です。

5. 生活場面での理学療法士の関わり

・家庭での取り組み​​の重要性

 家庭での取り組みは、日常生活の環境で実践されるため、理学療法の成果を実生活に直接応用する機会となります。家庭での訓練の主な目的は、子どもが日常生活の中で直面する課題に対処するためのスキルを獲得し、そのスキルを維持することです。スキルには体のケアも含まれます。家庭での訓練のメリットは、個人が最も時間を過ごす環境でスキルを学び、練習する機会を持てることです。理学療法士が提供する指導をうまく日常生活に取り入れて、本人と家族が自分たちのペースで練習を続けることができると、スキルの定着と自信の向上につながります。家庭での訓練を効果的に行うためには、理学療法士による定期的な指導が重要です。理学療法士は、個々のニーズに合わせた運動や活動を提案し、正しい実施方法を指導します。また、保護者が訓練に参加し、ポジティブなフィードバックを提供することも、モチベーションの維持に役立ちます。
 家庭での訓練は、理学療法場面で学んだスキルの維持と応用を促進し、個人の自立と生活の質の向上に寄与します。理学療法士と保護者のサポートと協力により、家庭での訓練はより効果的で意味のあるものとなります。

・保育園や学校、職場の重要性

 保育園や学校、職場での過ごし方は、脳性麻痺者の社会的スキルの獲得、学習の機会、職業的成長、心身機能の維持において重要です。これらの環境を望ましい状態にするために、理学療法士の評価と適切なアドバイスが求められます。
 保育園や学校は、脳性麻痺を持つ子どもが同年代の子どもたちとの社会的な交流を通じて、コミュニケーション能力や社会性を育む大切な場です。また、教育的な活動を通じて、学習能力や問題解決スキルを発達させることも重要な目標となります。友人との関わりやグループ活動は、自己効力感や自尊心の向上に寄与します。また、適応的な学習方法や教育支援を通じて、学習障害と上手く付き合い、学業成績を向上させる機会を得ることができます。
 職場は、脳性麻痺を持つ成人が社会性と職業スキルを発揮し、自分らしい生活を送るための大切な場です。適切な職場環境で個人の能力に合った職務を遂行すること自体が生活の質に良い影響を与えます。適切な環境設定や支援技術の導入によって、脳性麻痺を持つ成人が能力を最大限に発揮できる環境を作ることができます。
 保育園や学校、職場での過ごし方は、心身機能にも影響を及ぼします。日中の大部分を過ごす場での不活動や疲労が蓄積するほどの過剰な活動は二次障害を増悪させることに繋がります。結果的に、社会性の獲得や職業的な能力の発揮を妨げることになる恐れがあります。理学療法士は患者の身体の特徴の評価に基づいてどのような生活スタイルが心身にとって適切か判断し介入することができます。保育園、学校、職場における理学療法士の関与は、脳性麻痺を持つ方々の自立と、社会参加、生活の質の向上にとって重要と言えます。

まとめ

 脳性麻痺は、妊娠中や出産時、あるいは生後すぐに脳に損傷を受けたことにより引き起こされる永続的な運動や姿勢の障害です。

 脳性麻痺の主な症状には筋緊張異常、運動制御の障害、筋力の弱さ、バランスの問題、移動の制限があります。これらの症状は、個々の患者の脳損傷の程度や種類によって異なります。

 理学療法では、二次障害(筋短縮や関節拘縮、脊柱側弯、股関節の脱臼など)の進行を抑制することが重要です。

 理学療法は乳児期から成人期に至るまで、個々の発達段階に応じたアプローチが求められます。乳児期では基本的な運動スキルの発達を促し、幼児期にはより複雑な運動能力の向上を目指します。学齢期では学業や友人との関わりにおける自立を支援し、成人期には職業生活や社会参加に重点を置いた支援が行われます。

 治療の実施形式には、通院理学療法、入院理学療法、訪問理学療法などがあります。これらの形式は、患者の状態や生活環境、ニーズに応じて選択されます。

 家庭での取り組みは、日常生活に直接スキルを応用する機会を提供し、子どもの自立と生活の質向上に寄与します。また、保育園、学校、職場での過ごし方は、社会的スキル獲得や職業的成長に不可欠であり、適切な環境設定が重要です。

 理学療法士の関与は、脳性麻痺者の社会参加と生活の質向上に大きく貢献します。理学療法士には、患者一人ひとりの特性や置かれた環境を理解し、最適なリハビリテーションプログラムを提供することが求められます。その上で、理学療法士と患者、家族、支援者が協力して取り組むことで、理学療法の効果を最大限に引き出すことができます。

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