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初学者向けのミキシング講座-第1回:ミキシング前の下準備

音楽制作で悩まれる方の多いミキシングについて、基礎的な内容をこれから全10回ほどで解説します。本内容は、私が東京工科大学で担当する『DAW演習 Lv.2』講義の補足資料としても活用できます。

使用ツールはCUBASE PRO 10.5、標準プラグインを想定しています。
※CUBASE 7以上のバージョンであれば参考になると思いますが、6.5以前はMix ConsoleのGUIが大きく異なるためアップデートを推奨します

ミキシングしたい楽曲のパラデータがお手元にある方を対象とした記事です。「そもそもCUBASEの使い方が全く分からない」「曲を作ったことがない、あるいはミキシング用の素材がない」という方は、以降の内容は理解が難しい場合があります(今後、補足記事を用意する予定です)。

ミキシング前の準備について

ミキシングとは、録音された複数のオーディオファイル(パラデータとも言います)の音量バランスや音質を整える作業のことを差します。ボーカルやギター、ベースなど、それぞれの素材の音を混ぜ合わせて、最終的に音楽として聴感上バランスのいいデータを作成することが目的です。

第1回では、CUBASEでミキシングを行う際の最初の5工程を行います。
トラック数にもよりますが、慣れれば15分から30分ほどで終わる作業です。

DAWlv2_vol02 - Google スライド - Google Chrome 2020_06_02 14_18_57 (2)

手順01-プロジェクト設定

まずはミキシングの素材となる楽曲データをCUBASEにインポートします。

オーディオをインポートする前に、必ずプロジェクト設定を確認[Shift+S]して下さい。例えば楽曲が48kHz/24bitでレコーディングされている場合、そのようにプロジェクト設定を合わせます。また、楽曲のテンポも設定します。

プロジェクト設定 2020_06_01 23_23_31_LI

なお、誤ってプロジェクト設定を事前に異なる値にした場合、「リサンプル」を行うことになります。これは異なるサンプリングレートの素材を用いる際の機能であり、明確な意図がない場合は使用を避けましょう!

手順02-オーディオインポート

プロジェクト設定が完了したら、オーディオを読み込みます。

「ファイル」→「読み込み」→「オーディオファイル」からも行えますが、理由がない場合はフォルダからドラッグ&ドロップを行うのが一般的です。

スクリーンショット (2)_LI

「読み込みオプション」ウィンドウがポップアップします。

読み込みオプション 2020_06_01 21_05_55

「すべてのファイルをプロジェクトフォルダーにコピー」にチェックを入れると、オーディオのコピーが自動的に作業フォルダ内の「Audio」の中に作られます

チェックを入れない場合は、フォルダのディレクトリ(フォルダ階層、例えばdesktopなど)を参照するので、データを移動してしまうとオーディオデータをmissingしてしまいます。

素材を手動でフォルダに移動する場合は”コピーをしない”、そうでない場合は”コピーをする”という使い分けができますが、基本的にはコピーを行う方がトラブルは少なくなります。

「プロジェクト内のオーディオファイルがどのディレクトリを参照しているか?」を確認するためには、[Ctrl+P]でプールを開く必要があります。
データ構造を理解するため、プール内のAudioの「保存先」がどこになっているか一度チェックしてみましょう。

手順03-Quick Link機能でフェーダー全体を下げる

読み込みが終わっても、まだ再生してはいけません。

オーディオファイル数が多いと、多くの場合は再生と同時にクリップします。クリップとはマスターフェーダーへの過大入力により歪みが生じている状況を差し、ミキシングにおいて最も回避すべき状態です。

デジタルオーディオの世界では、素材を入れる箱のサイズが明確に決まっており、超えた分はあふれてしまう。こんなイメージを持って下さい。

CUBASEでは、クリップが発生した場合マスターフェーダー下部が赤く点灯して知らせてくれます。

MixConsole - 名称未設定1 2020_06_02 0_41_11 (2)_LI

このクリップを回避するために、Quick Linkを用いてフェーダー全体を下げておきます。楽曲によりけりですが、マスターフェーダーが平均して-6dBを示す程度が丁度良い場合が多い(※)です。

※これは内部処理が32bit floatエンジンに切り替わる前の定石であり(CUBASE PRO 9以降からは64bit floatにも対応)、現在はフェーダーを大きく下げても音質劣化は発生しなくなりました。そのため、あえてギリギリを攻める必要はなくなり、余裕を持ってフェーダー全体を下げた方が最終的なMIXがうまくいくケースが増えました。
同じ理由で、32bit floatではクリップしても聴感上の問題はほぼ起きません。この辺りの内部精度の話は、今はまだ気にしなくて構いません。

[F3]でMix Consoleを立ち上げ、全トラックを選択後に[Quick Link]を設定し、適宜フェーダーを下げて行きます。

Mix Consoleを立ち上げる:[F3]

Quick Link[SHIFT]+[ALT](押している時だけLinkする)

なお、この段階における頻出ショートカットは以下の2つです。
Mix Consoleを扱う上で、絶対に覚えておきましょう。

Mix Consoleの表示を拡大:[H]

Mix Consoleの表示を縮小:[G]

手順04-(任意)マーカートラックの作成

Aメロ、Bメロ、サビなどの位置にマーカーを作成しておくと便利です。
マーカートラックとは、楽曲の指定した場所に再生カーソルをジャンプさせる機能です。

トラックを追加 2020_06_01 23_39_19

[右クリック]→[マーカートラックの作成]→[名前を入力]

Cubase Pro プロジェクト - 名称未設定1 2020_06_02 0_54_01_LI

マーカートラック上で[鉛筆ツール](ショートカット=8)でマーカーを作成

これで、1,2,3などの通し番号(ID)でマーカーが作成可能です。

作成したマーカー位置にジャンプする場合

[SHIFT]+[数字キー]

SHIFTを押しながら数字キーを押すことで、該当のIDのマーカー位置へジャンプ可能です。Aメロだけ音が小さい、サビだけ音が大きいなどの状況が起こらないよう、楽曲全体を聴きながらミキシングを進めるのがコツです。

手順05-グループチャンネルトラックの設定を行う

全体的にフェーダーを下げたら、グループの設定をしていきます。CUBASEのMix ConsoleのGUIはアナログミキサーを踏襲しており、信号は上から下へと流れる仕組みです。

MixConsole - 名称未設定1 2020_06_02 0_45_19

https://steinberg.help/cubase_pro/v10.5/ja/cubase_nuendo/topics/mixconsole/mixconsole_using_group_channels_t.html

複数のオーディオチャンネルからの出力をグループチャンネルにルーティングできます。これによって、1 つのフェーダーを使用してチャンネルレベルをコントロールしたり、すべてのチャンネルに同じエフェクトや EQ を適用したりできます
引用元:Cubase Pro 10.5.0 オペレーションマニュアル

デフォルトでは、すべてのトラックの信号が「Stereo Out」=マスターフェーダーへ流れる設定になっています。グループチャンネルを作成することでルーティングの設定を変更することが出来ます。

…そもそも、これはなんのために行うのでしょうか?下の図をご覧下さい。

DAWlv2_vol02 - Google スライド - Google Chrome 2020_06_02 16_26_37 (2)

ドラムセットは、スネアやハイハット、バスドラムなどに個別にマイクを立てる方式が一般的です。2Tom編成のドラムセットは、平均して10~20個程度のオーディオトラックで構成されています。

さて、あなたが「ドラム全体の音量をMIXの中で変更したい!」と思ったとき、これら10~20個のオーディオトラックのフェーダーをいちいち操作しなくてはいけないのでしょうか?

……。

こういったシチュエーションで役に立つのが「グループチャンネル」です。

DAWlv2_vol02 - Google スライド - Google Chrome 2020_06_02 16_26_45 (2)

スネアやハイハットなどを一度「グループチャンネル」にまとめることで、ひとつのフェーダーでドラム全体の音量を上下することが可能になります。このことは、「バスを組む(まとめる)」とも呼称します。

”Drums”と名付けたグループチャンネルのアウトプットは、デフォルトではStereo Outになっています。最終段へ信号が送られる前に、いくつかのチャンネルをまとめておくことを「ステムミックス」とも呼びます。

例えばバンド系の楽曲をMIXする場合、ボーカル全体、ドラム全体、バッキングギター(L+R)、ベース(D.IとAmpを併用する場合)などをバスにまとめておくと便利です。楽曲に応じて、やりやすい設定を見つけましょう。

グループチャンネルの作成方法

トラックを追加 2020_06_01 23_16_01

[右クリック][グループ トラックを追加]
もしくは
[プロジェクト][トラックを追加][グループ]

トラックを追加 2020_06_01 23_16_40

設定画面のポップアップ後、

[構成を選択][任意の名前を設定][数を入力][トラックを追加]

これでグループチャンネルを作成することが出来ました。今回はドラムなので、構成をmonoではなくStereoに設定し、数は1つとしました。

あとは「どのオーディオトラックをグループに送るか(ルーティングするか?)?」を指定するだけです。

ルーティングの設定方法

1.[F3 Mix Console][ROUTINGタブを開く][Stereo OutをDrumsに変更]
もしくは
2.[オーディオトラックのインスペクター画面][アウトプットのルーティング][Stereo OutをDrumsに変更]

どちらの手順でも同じ結果が得られます。まとめて複数のオーディオトラックを送りたい場合は、Mix Console上で[複数選択]→[Quick Link]→[Stereo OutをDrumsに変更]という手順を踏むと時短になります。

■■■

お疲れ様でした。これでミキシング前の下準備が出来ました。

最初にここまで用意をしておけば、今後の作業で悩むことがあっても、初期状態まで立ち返ってしまうことはありません。”自分にとって一番やりやすい設定”が見えてくるまでは、この手順で作業を行うことをおすすめします。

また、特に分かりにくいMix Consoleのルーティングについては、後日もう少し掘り下げた内容を投稿予定です。

次回は「ラフミックス編」です。
以降は編集後記的な内容が続きます。

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