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青山の和菓子屋『まめ』が閉店してしまう話と『あのこは貴族』(3/7~3/13の日記)

青山の和菓子屋『まめ』が閉店してしまう話

南青山にある和菓子屋『まめ』が3月末で閉店してしまうらしい。新卒のときの会社が外苑前にあったので、『まめ』にはよく散歩がてら行っていた。初めて通った和菓子屋だったかもしれない。ここのわらびもちが好きだった。可愛くて。

最後にもう一度食べたいなと思い、開店時間の11時半に合わせて行ってみた。11時ちょっと過ぎに着いたらすでに行列。最後列に並んだ僕の姿を見た店員さんが「ごめんね、お駄賃あげるから、これ持っててね」と、「本日分の販売終了」の札を僕に託す。僕が並んでいる位置までは、何かしら商品を残すことができるけど、それ以降は分からないということらしい。そしてどうやら、僕はこれから訪れる人たちに同じ説明をする役目を担った。不思議と面倒な気がしなかったのは、前に並んでいる人たちがみんな「頑張ってね!」と応援してくれたから。

さっそく、僕の後ろに一人の女性が並んだので、さっきの説明をする。その女性は「そうなんですねえ…もっと早く来ればよかったな。でも、わずかな可能性に賭けてみます!」と言った。確かに、僕が同じ立場でもそうするなあと思った。

それからも人が並ぶので、そのたびに説明をして、を繰り返す。当たり前なのだけど、「本日分の販売終了」なんて札を持っていると人からよく話しかけられる。

「もう終わりなの?」『僕のとこまでがギリギリ提供できる、みたいです』「残念ねえ。早く並ばないといけないのね」『僕が11時15分なので、11時くらいに並べば安全だと思いますよ』「ありがとねえ」

「これ何に並んでんの?」『和菓子屋です』「何で?」『3月末で閉店しちゃうんですよ。青山で人気なお店だったんですけど』「へえ、青山に20年以上住んでるけど知らなかったよ。何があるの」『わらびもちに豆大福とか、いちご大福は特に人気ですね』「安いの? 美味いの?」『美味いの方です』「良いこと聞いたなあ。明日並んでみるよ!」『11時までに来るのがいいと思いますよ』「おお、ありがとね」

結構楽しい。色んな人と喋った。長時間並んでいたら、自然と絆のようなものが生まれるらしい。知らない人同士だけど、会話することに抵抗はなく、みんなで『長いですねえ』なんて言って励まし合った。特に、後ろに並んだ女性は列が後ろに伸びるたびに説明を手伝ってくれたのでよく話をした。娘さんに教えてもらって初めて来たらしく、いちご大福が目当てなのだそうだ。少し照れくさそうに笑いながら、楽しみそうな顔をしていた。この人が買えるといいなと思った。

結局、2時間待った。お店の人は約束どおり、僕の位置までは商品を残してくれていて、いちご大福と何か一品は必ず買えるように途中からお客さんに購入制限をつけてくれていたみたいだった。前に並んでいた人たちはみんな、決まりきった動きで2品ずつ買っていき、ついに僕の番がきた。目の前には、おはぎといちご大福。

僕は札をお店の人に丁寧に返す。「ありがとね~これしか残せなかったけど、ちゃんと残しといたよ」とお店の人。

2時間待っておはぎかあ…笑。でも結構楽しかったからいいか、なんて思いながら、『僕、おはぎだけでもいいですか?』と聞いた。お店の人はものすごくキョトンとしながら、「いいけど、いいの?」と聞いてきた。一瞬かんがえる。でも、後ろの女性がいちご大福を買えるといいなと思った気持ちは本当だった。女性が「そんな、遠慮しなくていいんですよ。申し訳ない…」と言ってきたが、『遠慮じゃないんです。僕は昔よく食べてましたし、食べてほしいなと思っただけなんです。本当に』と押し切った。本当に、最初からこうすることを決めていた。並ぶのが苦じゃなかったのはこの人がいたからだったから。

たくさんお礼を言われたけど、照れくさくてあまり顔を見れなかった。ただ、この選択がとれたことを心の底から誇りたいし、自分のこと、好きだなと思った。

お店の人は一部始終を見ていて。奥から売り物にならなくなったいちご大福を持ってきて僕に手渡した。

「これお駄賃だよ。ありがとね」

嬉しくて、少し大袈裟に喜んでみたりもして、でもやっぱり少し照れくさかったから受け取ってすぐに帰った。いちご大福は美味しかった。


『あのこは貴族』

午前中に時間をつくって『あのこは貴族』を観た。映画を観るときは事前情報をまったく入れないので、何の話なのかも知らなかった。

ただ、東京を舞台に、そこに確かに存在する「階級」を描いていることはすぐに分かった。東京の中心にいる、いわゆる上流階級の人間と、地方から上京してきた人間。東京は住み分けされていて、違う階層の人間同士が出会わないようにできている。ここで「分断」ではなく「連帯」を描いていたのは、とても気持ち良かったというか、変な感想だけど嬉しかった。特に、美紀(水原希子)と平田(山下リオ)が深夜に自転車の二人乗りで帰るシーンは美しくて、なぜか『劇場』での二人乗りシーンを思い出した。

監督の岨手由貴子(そでゆきこ)さんの名前は初めて知ったけど、画づくりが丁寧でずっと飽きずに画面を観れた。メインの役者が全員良い。門脇麦さんと水原希子さんは飛び抜けた雰囲気や佇まいだったし、それを支える石橋静河さんと山下リオさんも良かった。

前半は、「階層」であったり「分断」「枠」みたいなものが非視覚的にも視覚的にも演出として組み込まれていたように思う。特に、華子(門脇麦)のシーンでは意図的に枠の演出が、冒頭のタクシーのバックミラーやお見合い写真撮影での姿見、幸一郎から出馬の話を取り合ってもらえなかったときの戸の枠、などが特徴的で。彼女が枠の中で生きていることが強調されていたように思う。

後半では、華子の枠は取り払われ(それは美紀との再会によるものだけど)、対岸の女の子たちに手を振っていたシーンが象徴的。そういえば彼女たちも二人乗りをしていたが、タクシーで移動する華子と、自転車で移動する美紀は意図的か。

目に見えないのに、確かにあると思わせてしまうものの描き方が上手だったなあと。特に上手いなと思ったのが、華子が婚約者の幸一郎(高良健吾)と一緒にいるシーンでは階層の違いを感じる側であったのに、美紀との初対面のシーンでは美紀に階層を感じさせる側であったこと。美紀は、大学でお嬢様の同級生たちと初めてアフタヌーンティーを飲みに行ったときのことを思い出していたと思う。直接的に説明せずとも、そう伝わるようなシーンとしての説得力の持たせ方、及び演じた門脇麦さんの所作がすばらしかったな。

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