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よなよな55 よなよなgogo

ばな子

それだけ


予感はあったんですよ。
編集の人が前日ドタキャンして、結果骨折にまで至ったあの取材の旅の後、ふだん私にはない締め切りというものがある(記念号だったのでずらせなかった)、八丈島の小説をかなりの短期で書いたんですよね。
絶対クオリティを落とすまい、と気合を入れて。
そのとき、あれ?なんか自分はもう戻れないな。怒りによってでも、思想によってでもなくって、何かが変わって戻れなくなってるな、と思ったんです。
前回も書いたけれど、いきなり子どもに戻っちまったなって。でもまあいいか、って。

また、そういうときって、出版社の人が代理人を立てて、なんとか出張をサポートしてくれると信じてたんですよね。だって、仕事でしょ?こっちは命をかけて書いてるんだから、それで飯を食ってるなら、手伝うに決まってるだろうと。それが会社ってもんだろう?と。
でも、誰も来なかったわけです。唯一、やのa.k.a出版界のジョニー・デップだけが来ようとしてくれたけど、別の出張中だったので、私も他の小説家に迷惑がかかるのはいやだなと思ったからしかたなかったという。
うわあ、出版社の人って、あたりまえだけどサラリーマンだったんだなあ、と思ったし、共にいいものを作ろうとして仕事をするっていうだけじゃなくって、ちゃんと交渉したり、利用したりしないといけないってことか、と今さら思い知ったというか。
まあ、中にはそうではなくて、やってるうちにお互いになにがなんだかわからなくなるくらいがんばっちゃって、心触れ合う人たちもいるので、そのへんは見極めつつ。
とにかく、描き終わって顔を上げたら世界が変わっていたので、あら?小学生に戻ってる、とびっくりしたわけです。

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よなよな、人生について意味なく語り合うばな子とまみ子。 全然違うタイプだからこそ、野生児まみ子の言うことを聞くとばな子こと小説家吉本ばなな…