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天国

気持ちが暗いとき急に空が晴れてきたり、歩いていたら好きな曲が流れてきたり、異様にパンがうまく焼けてしまったり、ふらりと入ったカフェのコーヒーがばつぐんだったり、新しく買った靴がすごく歩きやすく足にフィットしていたり。
そういう小さないいことがどんなに人の心の力になっているか、そういうことがないと、いかに人心が荒むか。
いつも書いていますが、いくら言っても言い足りないくらいです。

ハワイっていうところがどうしてあんなに人気があるかというと、フラのせいでも、滝のせいでも、タロイモ畑のせいでも、朝の市場のせいでも、ショッピングセンターのせいでも、穏やかに続く美しい海岸のせいでも、おいしい肉のせいでもなく(もちろんそれらも大切な要素ではありますが)、あの風なんですよね。
日本で言うと5月か10月にしか吹かない、ただ柔らかく頬をなでていくような風、体がそのまま透き通ってしまいそうな気温、その力なんです。

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吉本ばななです。やがて書籍になるときにはカットされる記事も含めています。どくだみちゃんは散文、ふしばなはブログ風です。コメントはオフですが…