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なぜ歯科医師は50才を過ぎると闇落ちしがちなのか?

大阪の福重です。新型コロナワクチン接種がガンガン進行したり、無茶振リンピックが開催されようとしたり、波乱含みの今日この頃ですが、みなさんいかがお過ごしでしょうか?

さて本日は、そんな混迷の時代に明らかになった、歯科医師の間に深く根を広げる「とある現象」についてお話しします。

百戦錬磨のベテラン歯科医師がはまる落とし穴

この波乱の1年で医院が潰れるかと思ったり、街の姿が激変したり、色んな経験をしてきました。そんな私が一番驚いたのが、予想外に多くの歯科医師がトンデモ科学や陰謀論に洗脳されてしまっていることでした。若い人はそうでもありませんが、私の周辺では50才を過ぎると急激にその率が高くなっています。臨床的に優れていて名を馳せている人であっても、「ワクチンをうったら○○ になる(○○=トンデモ系の怖いこと)」とか「マスクをしたら酸欠で脳損傷が発生する」とか、ちょっと考えたら嘘だとすぐに分かるような情報をSNSやYouTubeから仕入れてきて、ネットに垂れ流していてびっくりしました。

安全性に関する議論に何年も前に終止符が打たれているHPVワクチン(子宮頚ガン予防)ですが、ごくごく身近な人が陰謀論を信じ、自分の子供に接種させていなかったことが判明し、こういう考え方がいかに身近に深く浸透し、大きな実害を及ぼしているかを思い知りました。その子をまだ小さな頃から知っている私は、先進国の子供ならみんな享受できている医学の恩恵を受けられず、命の危険にさらされていることにショックを受けました。

今まではちょっとぐらい間違ったことを言っていても「まあ、人それぞれだから」と流していましたが、一人の人が間違ったことを信じてそれを人に伝えることで、罪もない誰かが命を落とすかも知れない、それも身近なところで。黙っていてはいけないのでは?と思い始めました。

私たち歯科医師は、大学を離れて長い時間が経ち、科学的な思考に触れるチャンスから遠のいた頃に、臨床家としてのピークを迎えます。長年の経験を通じて自分の判断力に自信を持ちます。院長として誰にもとがめられず、何十年もの間、常に自分の判断で物事を進める生活を送るうちに、正誤善悪の判断を自分の内部に求める癖がつきます。ちょうどその頃、社会的に立場が上がり発言力が大きくなるので、判断を間違ったときの影響は深刻です。特に我々のような歯科医師はたとえ門外漢だったとしても、患者さんや一般の方から見ると「医療の専門家だから正しいことを言っているだろう」と見られてしまいます。

また、中年期を過ぎると脳の基礎体力が落ちてきて、複雑なことや新しいことを理解する際、論理的な説明など脳をフル回転させなければ理解できないことは飛ばして、結論だけを知りたくなる傾向が出てくると言われています。これは悲しいことに自分の実感とも一致します。

皆さんはまだ大学を出たばかりで、最新の知識を学んで来たことでしょう。科学的思考や論理的思考を行う先生方から指導を受けたばかりです。大学に残っている人は事実を論文で調べたりする習慣が身についているかもしれません。学んだ知識以上に、そういう思考や態度こそが大切です。それらは皆さんが闇落ちしないためにとても重要なものです。どうか失わずにいてください。

何に対しても「これは本当かな?」と思うことが重要


コロナワクチンの接種が始まると副反応に注目が集まりました。

A「ワクチン接種直後に85人急死!」

というニュースと

B「ワクチン接種直後に亡くなった人の数は85名で、そのほとんどはワクチンと無関係な自然死や事故死」

数日前に上記のようなニュースが報道されましたが、拡散するのは圧倒的にAのニュースです。ネットの情報は刺激的であればあるほど拡散する性質があるからです。正しい情報は地味ですからね。

ちなみにこの2つは同じことを別の言い方で伝えていますが、より正しいのはBです。大学で習ったかも知れませんが、副作用や副反応を調べるときのお約束は

1 Aという薬を使った後に死亡した人の情報を可能な限り全て集めます

2 自然な状態と比較して、特定の死に方が増えていないかを調べます

3 自然な状態なら10万人に5人がBという病気で死亡するのに、Aを使うと15人死亡したら、「Aの副作用でBという病気での死亡が増える」といえます

今回の亡くなった人数が85名というのは上記1の「可能な限り集めます」の部分に該当します。

何かの情報を目にして「へえ、そうなんだ!」と思ったとき、それが本当なのか嘘なのかを見分ける作業を行いましょう。自分で考えても本当か嘘かは分かりません。こういう場合に直感は裏切ることが多いので、自分の中に判断基準を求めてはいけません。まずは「本当かな?調べてみよう」と思うことが大切です。

本当かどうかの調べ方

〈調べるのに適さない場所〉
・SNSやネットニュースやブログなどは当てになりません。なぜならネット上の情報は真実より刺激的な嘘の方が多いからです。
・新聞やテレビも、刺激的な情報の方が売れるため、誤った情報が多く含まれています。
・知り合いや家族もあまりあてにしない方が良いでしょう。正しい情報を得るには努力が必要です。多くの人は簡単に手に入る刺激的な情報を信じています。

〈調べるのに適した場所〉
・国(厚労省・国立○○センターなど)、大学、WHOなど信頼が置ける機関のWEBサイト
・学術論文などの一次資料(ただしトンデモ医療の雑誌などではなく、インパクトファクターの高い医学や科学の雑誌に掲載されたもの)
・調べている対象についてある程度知識がついてきた段階で、SNSなどで正しい情報を発信している専門家を探してみましょう。普通に探すと最初にデマを広めている人が見つかるので気をつけて。その人が自分の主張を裏付けるために示しているものに注目しましょう。インパクトファクターの高い雑誌の学術論文や公的機関のサイトなどを引用しているなら信頼できる可能性が高いでしょう。

まあ、自分で論文を調べるのは結構大変ですから。まずは信頼のおける機関のWebサイトで調べて、それと同じことを発信している専門家をフォローする。その専門家の言っていることも鵜呑みにせず、サラッとでいいので根拠となる情報に当たるようにしましょう。


みなさんが将来、このようなトンデモ科学や陰謀論を信じ込み、それをまき散らし、患者さんを危険にさらしたり、医療に負担を掛けるようなベテラン歯科医師にならないことを祈っています。

(医療法人天真会ふくしげ歯科 理事長 福重 真佐子)

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