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KDDIが脱炭素目標を一気に20年前倒し――電気の「使う」と「作る」で革新

KDDIは、グループ全体で推し進めるカーボンニュートラルへの取り組みを強化し、達成時期を当初の2050年度から2030年度へと大幅に前倒しすると発表した。データセンターでは、さらに4年早い2026年度に達成する計画だ。どのようにして一気に20年もの前倒しを可能にしたのか。

カーボンニュートラルを2050年度から2030年度に前倒し

2022年4月7日、KDDIはCO2排出量実質ゼロを2030年度へ前倒しすると発表した。

KDDIは、2020年5月に策定した「KDDI Sustainable Action」において、地球環境の保全として再生可能エネルギーへのシフトと2050年までのCO2排出量実質ゼロを目指すとしていた。

その後、当時の首相である菅義偉氏が所信表明演説(2020年10月)で2050年のカーボンニュートラルを宣言し、日本の産業界全体でこの取り組みが加速し始めたのはご存じのとおり。

今回の発表は、これまでの目標を一気に20年も前倒しすることになる。インパクトは大きいが、しかし、同業他社を見ると、それほど驚くほどではないということも事実だ。

ソフトバンクは2021年5月にNTTドコモは2021年9月に、それぞれ2030年までのカーボンニュートラルを宣言しているからだ。その意味では、 他社の取り組みに追いついた形だ。

KDDIでは、2022年2月にグループでSBT(Science Based Targets)認定を取得。さらに2022年4月1日付で、グループ全体のサステナビリティ経営を推進するための専門組織「サステナビリティ経営推進本部」を設立し、取り組みを強化している。

実現に向けた具体的な施策は、主軸事業である通信サービス設備やデータセンターでの電力使用量削減、そしてエネルギー専門会社設立の2本柱となる。つまり、エネルギーを「使うこと」と「作ること」の両面からアプローチすることになる。

最新技術を駆使して電力使用量を削減

2022年4月7日に行われた記者会見では、KDDI執行役員でサステナビリティ経営推進本部長を務める最勝寺(さいしょうじ)奈苗氏から、より詳細な取り組みと20年前倒しの要因の説明がなされた。

まず、今回のカーボンニュートラルの対象は、以下の3つになる。

  • 基地局のカーボンニュートラル

  • 通信局舎のカーボンニュートラル

  • データセンターのカーボンニュートラル(2026年度)

これらはGHGプロトコルでいうところのスコープ1と2に該当する。2019年度のCO2排出量は105万トンだが、このうち通信設備の電気使用に起因するものが100万トンになるという。

2030年度の達成を目指すのはスコープ1と2になる
(出所:KDDI)
2019年度からの11年間で105万トンの削減を目指す
(出所:KDDI)

これに対して、AIや最新の運用技術を駆使することで、以下のように電力使用量を削減する。

  • 基地局電力使用量の削減

  • サーバーCPUの制御

  • 液浸冷却

  • 空調制御

  • サーバー機器などの収容効率向上

さらにデータセンターでは、再生可能エネルギーを使用することでカーボンニュートラルを進める。

これらの取り組みにより、基地局では最大50%、データセンターの省電力化では約43%の電力使用量が削減できるとしている。

AI制御によって電力使用量を削減
(出所:KDDI)

それなりの削減効果ではあるが、しかしそれだけで105万トンをゼロにできるのか。

想定以上だった3G停波による削減

KDDIによれば、2022年3月末に実施した3G停波による削減が大きいという。ただ、3G停波は何年も前から予定されており、設備停止による電力使用量の変化も当然試算していたはずだ。この点は、記者会見でも報道陣から質問がなされた。

KDDIの回答は、「具体的な数値は控える」とした上で、「相当数の基地局があり、それらを積み上げると相当数の電力削減につながった。当初から試算はしていたが、普段は止められない設備であるため、実際に止めて初めて確証できた」というもの。

3Gの停波は、今後NTTドコモやソフトバンクでも予定されており、KDDIと同様に「予想以上」に使用電力量が削減されるなら望ましいことではある。3Gからの乗り換えを強いられる形になったユーザーにとっても、大幅な電力削減につながったのであれば納得できる理由の一つになるのではないだろうか。

なお、スコープ3に該当する取り組みとしては、2030年度までに2019年度比で14%の削減を目指すが、具体的な取り組みは検討中だという。

消費削減だけでなく電力創出とイノベーションにも投資

通信設備やデータセンターの電力使用量削減と並んで、取り組みのもう一つの軸となるのがエネルギー専門会社の設立だ。auエネルギーホールディングスとauエネルギー&ライフを新設し、既存のエナリスと合わせて電力小売事業の強化とともに、新たに再生エネルギー発電などの脱炭素関連事業を立ち上げる。

また、脱炭素を含む環境課題に取り組むスタートアップ企業を対象にしたファンド「KDDI Green Partners Fund」を設立し、5年間で約50億円の投資も行う。間接的に技術やビジネスの創出を後押しするとともに、有効な技術などはKDDIグループで積極的に取り込んでいく考えだ。

この点は、同様に電力サービスを展開しているNTTドコモやソフトバンクと比べて積極的だと言える。

KDDIを含む大手キャリアは、ほぼ全国民との顧客接点を持っていて、しかもモバイルサービスは生活にも浸透している。自社の使用電力量とCO2の削減という直接的な取り組みに加え、顧客である個人に対しても広範囲な影響を与えられるので、社会変革の牽引役としても期待したい。

文:仲里 淳
インプレス・サステナブルラボ 研究員。フリーランスのライター/編集者として『インターネット白書』『SDGs白書』にも参加。

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