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ネットベンチャーにとってのESGとは何か? ~「SHARE SUMMIT 2021」より

10月5日、シェアリングエコノミー協会が主催するカンファレンス「SHARE SUMMIT(シェアサミット)2021」がオンラインで開催された。その中の「サステナビリティ経営とESGの実践~ポスト資本主義社会の企業の責任~」と題したセッションでは、シェアサービスの事業者と大手Eコマースの経営陣が登壇、本音のESGを語り合った。

投資家の意識が急変、ベンチャーにもESGが波及

進行を務めたインクルージョン・ジャパンの服部結花氏によれば、「ESG(環境、社会、ガバナンス)とは投資家が財務以外の観点を企業に求めること」である。特に時価総額数千億規模の大企業では機関投資家がESG対応をしなければ投資をしないと宣言しているため情報を開示する必要があるが、最近では上場したばかりのベンチャー企業にもその影響が広がりつつあるという。

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【登壇者】南 章行氏(株式会社ココナラ 代表取締役会長)、竹増 浩司氏(ラクサス・テクノロジーズ株式会社 代表取締役 社長執行役員 COO)、小林 正忠氏 (楽天グループ株式会社 常務執行役員 Chief Well-being Officer)、服部 結花氏:インクルージョン・ジャパン株式会社 代表取締役

まず、ESGに取り組んだきっかけは? という最初の質問に答えたのは、ブランドバッグのシェアリングサービス「ラクサス(Laxus)」 を手がけるラクサス・テクノロジーズの竹増浩司氏。同社は事業自体が製品をシェアして長く使い続けることでファッションを地球のお荷物にしないことを目指しており、もともとESGやSDGsの視点を持っているとした。その上で、サステナビリティという言葉さえ知られていなかったころと比較すると、現在のほうが自社の事業にとってはチャンスであり、ビジョンを発信しやすい環境にあると所感を述べた。

また、スキルシェア事業を展開して、2021年3月にマザーズに上場したココナラの南章行氏は、上場準備のため、2019年ごろから海外投資家に会っていた際にESGをどれぐらい意識しているのかを自分たちから訊いていたが、そのときに関心の低かった投資家も、2020年に会うと意識が一変しており、状況の急変を実感したと振り返った。その結果、長期視野でコミットしてくれる投資家は、事業のパーパス(目的)を深く訊いて評価してくれるようになったという。

格付けに左右されすぎずに必要な情報を開示していく

ESGでは、格付け機関が統合報告書などから企業を評価し、ESGスコアを発表する。この点について楽天グループの小林正忠氏は、格付けの基準はどんどん変わり、活動を増やしてもスコアが下がっていたり、対応したにもかかわらずウェブサイトの更新タイミングによってそれより前の調査によるスコアが発表されたりした経験から「目先のスコアに左右されずにやるべきことをやって情報を開示していくことが基本だ」と述べた。また、その一方で、「ガバナンスだけでも基準がどんどん細かくなっているので自分たちが重要だと思うところは早めにチェックし、優先順位をつけて対応するとよい」とアドバイスした。

未来を見据えたプラットフォーマーの新サービス

楽天では2018年11月末、国際認証を受けた商品だけを買える「EARTH MALL(アースモール)with Rakuten」を開設している。消費者はサステナブルなものよりも安い方を選ぶのではないかという懐疑的な意見もあったが、ネットショップが知られていなかった90年代に楽天市場が生まれ、10年、20年たってEコマースが当たり前になっていく過程を見てきたため、「世の中が大きくシフトしていくことには自信を持っていた」と小林氏は語る。

「10回に1回でいいからサステナブルな買い物をしていただくと、楽天の年間取引額3兆円のうち3000万円のマーケットが生まれることになる。自分たちのようなプラットフォーマーが本気で舵を切ると、それぐらいのインパクトが与えられると感じている」(小林氏)

ガバナンス、基盤を固めることの重要性

一方、モノを扱わないココナラでは、環境商品は当てはまらない。必然的にソーシャル(社会) とガバナンスが中心になり、純粋なネット事業者にとっては労務管理や働き方、セキュリティとプライバシーへの対応が重要になってくると南氏は言う。

「ESGというと特殊なことをやっているように見えるが、実際には本来、上場審査で問われるような、やるべきことをしっかりやっていくということではないか。ただ、経営側が本気で対応していくかどうかで、その水準が大きく変わると思っている」(南氏)

同社のプラットフォームでは仕事の相談などクローズドなコミュニケーションが行われているため、セキュリティやプライバシーの確保といっても質の違うものが求められるという。

「まだ世の中全体からは一部の人にとってのオルタナティブな働き方であり、小さい存在に見えるかもしれないが、これから5年、10年たってECにおける楽天のように大きくなっていくと、非ユーザーのライフスタイルにも影響力を持つようになる。その時、時代の変化によってはポジティブな面だけでなく、ネガティブな面がクローズアップされることも起こり得る。それを見据えて早く対応していくことも、ソーシャル 面では重要になると考えている」(南氏)

企業の取り組みには、自社の強みを最大化した社会貢献もあれば、「DNSH(Do No Significant Harm、著しい害をもたらすな)と呼ばれるようにネガティブ要素を排除するというアプローチもある(インクルージョン・ジャパンの服部氏)が、ココナラの南氏は、あえて「守りの部分」を述べたという。これに対して楽天の小林氏も、「ネット企業にとって、情報セキュリティとプライバシーはステークホルダーからの期待値が最も高い分野。自分たちも重点課題(マテリアティ)のトップに挙げており、その位置は揺るがない」と付け加えた。

価値観を変えるネットサービス、役割は新しい段階へ

今回のカンファレンスは『Sustainable Action─大転換期における持続可能な経済社会システムの設計と実践』を掲げて開催されたが、ESGの取り組みと企業の持続性の観点には、まだ隔たりや葛藤がある。

ラクサスの竹増氏は、動物由来から脱却するために作られた「エコファー」が石油由来になってしまうというアパレル製品の難しさを共有し、作ることと使うことを同一視しないシェアリングならではのビジネスモデルによって新しい価値を提供できることを紹介した。

「ラグジュアリーブランドを買うよりも使うことで心を豊かにしていくことが求められている現在、製品を長く愛しシェアすることにシフトしていくと考えている。作りすぎずにつくることと、どう使っていくかという2つの目線がある」(竹増氏)

最後に3人はこう締めくくり、ESGやSDGsの潮流をポジティブに捉えることで、シェアリングサービスやプラットフォーム事業者が新しい段階に上がっていくことを示した。

「ESGは投資家自身がこれまでのシステムを修正しに来ている点で注目すべきことであり、真面目に取り組んでいる会社ほど面白い段階に来ている」(南氏)
「サテナビリティはお互いに学び合うことができ、共創につながる透明性がある。SDGsの目標でもあるパートナーシップを推進していくことができる」(小林氏)
「組織でなぜこれをやっているのかを問い続けることが、サステナビリティにつながっていく」(竹増氏)

構成・文:錦戸陽子
インプレス・サステナブルラボ 主席研究員。『SDGs白書』と『インターネット白書』の編集担当。熊本県天草郡と横浜市の二拠点生活中。

編集:タテグミ
トップ画像:iStock.com/Björn Forenius

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