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ポーラと豊田高専が連携し「熱中症リスク判定AIカメラ」を開発、建設現場における社会課題に取り組む

ポーラ・オルビスグループの研究開発や生産を担うポーラ化成工業は、熱中症予防システム「熱中症リスク判定AIカメラ」を開発し、今夏(2023年6〜9月)、建設会社3社(竹中工務店、太啓建設、三和建設)と連携して実証試験を行っている。

猛暑続く中、建築現場の熱中症リスクが高まる環境

昨年に続き、厳しい暑さとなった今年の夏。気象庁が定義する「猛暑日=最高気温が35度以上の日」の年間日数は、歴代1位だった2022年の16日に対し今年はすでに19日(8月17日時点)となるなど、関係機関からも連日、熱中症対策への呼びかけが続いている。

このような暑さの中、重労働が行われる建築・建設現場で熱中症のリスクが著しく高まることは容易に想像できる。実際、死傷者数・死亡者数共に5年連続で建設業がトップ※というデータも出ているほどだ。

環境省の業種別統計報告でも、あらゆる業種中、建設業での発症数が群を抜いて多い。熱中症環境保健マニュアル2022

こうした現場では注意喚起や水分補給、適切な休憩などの対策がとられているものの、熱中症は本人や周囲が気付かず進行することが多く、人の目や主観だけでは気付きにくいという課題がある。そこで、技術を活用して客観的に発症リスクを検出し、早期の対処や注意喚起につなげようというのが、「熱中症リスク判定AIカメラ」の取り組みだ。

ポーラ、ウェルビーイング実現への取り組みに顔認証を活用

ポーラ・オルビスグループでは、企業全体で化粧品の枠を超えたウェルビーイングの実現に向けたさまざまな取り組みを行っており、これまでも、顔画像から心身の健康状態を推測する技術「ストレスマネジメントシステム」を構築するなどしている。

実証試験中の熱中症予防システムは、ポーラ化成工業が豊田工業高等専門学校(以下、豊田高専)および建設現場向けのシステム開発を行うDUMSCOと連携して開発を進めてきたもので、豊田高専の「熱中症対策AIカメラ」の技術が基盤となっている。

AIカメラ判定システム(イメージ) 出所:ポーラ化成工業

顔画像から、体調不良や朝食抜き、運動後の疲労などの生体内リスク要因を割り出し、外気温や湿度などの外的要因も統合して熱中症リスクを判定する機能を持つ。判定結果は色やアラート音で作業者へ伝えられ、現場監督はパソコンやスマートフォンで人員全体のリスク判定データを確認できる。

試作開発品を導入した実証試験は、2023年6〜9月の期間、竹中工務店、太啓建設、三和建設の協力の下、行われる 。

実証試験では、休憩所の入り口など建設作業員の行動導線上にタブレット端末を据え置き、作業員が1日に複数回、カメラに顔をかざすことで、熱中症のリスク判定が行われる。リスクの高かった作業員への体調確認を優先的に行うことで、熱中症発症の未然防止を図るのが狙いだ。

本カメラの導入により、現場管理者や職長にとって現場安全管理や工程管理に有用となるか、作業員自身の健康意識の向上につながるか、また、現場内での最適な設置場所や運用などを検証するとともに、より有効な活用方法の検討や課題抽出が行われる予定だ。

気候変動の危機に向けて、不可欠な「緩和策」と「適応策」の両輪

8月14日、世界気象機関(WMO)は、2023年7月は世界の平均気温が観測史上最高になる見込みだと発表した※2。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が到来した」と危機感を訴えている。日本だけではなく世界の猛暑の原因として、年々進む気候変動や地球温暖化といった問題が背景にある。

この大きな課題に対しては、その原因を少なくする「気候変動緩和策」への取り組みと同時に、変化する気候の下で悪影響を最小限に抑える「気候変動適応策」も不可欠となっている。ポーラの取り組みは、「建設現場での熱中症」を気候変動による社会課題の一つと捉えた「適応策」への事例と言えるだろう。企業間のパートナーシップや産学官連携などによって、こうした取り組みがさらに推進されることを期待したい。

文:遠竹智寿子
フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員

トップ画像:iStock.com / Orawan Wongka
編集:タテグミ

※1 厚生労働省、令和4年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)

※2 WMO, July 2023 confirmed as hottest month on record

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