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世界をより良くするためにテクノロジーができること――CES 2023で掲げられたテーマとは

世界最大規模のテクノロジー見本市と知られるCES。2023年1月に開催されたCES 2023では、イベントを主催するCTA(Consumer Technology Association)のゲイリー・シャピロCEOが「パンデミック後の新たな時代のCESとして、今年は『世界をより良くするためにテクノロジーに何ができるか』に焦点を当てた」と、同イベントにおける大テーマを掲げていた。

シャピロ氏は、テーマを語ったオープニングセッションの中で、もう一つの大きな取り組みについての宣言を行った。それは「国連の関連団体『World Academy of Art and Science(世界芸術科学アカデミー、WAAS)』とパートナーシップを結び、同団体が推進する『Human Security for All(万人のための人間の安全保障、HS4A)』キャンペーンを強力に支援していくこと」である。このHS4Aとは、どのような意味を持つ取り組みなのだろうか。

CES2023 公式メディアイベントCES Unveiled会場でのCTAのゲイリー・シャピロCEO(左)

ヒューマンセキュリティ=人間の安全保障とは、「人間」の「安全」を広く、積極的に守るものとして、国際社会の新しい概念となるものだ。人間一人ひとりに注目し、貧困、飢饉(ききん)、感染症、災害、環境破壊、紛争、薬物、人権侵害といったさまざまな脅威に対応し、人々の生存、生活、尊厳を守ることを狙いとする。

人間の安全保障についての経緯を簡単に振り返ると「人間開発報告1994」(UNDP)で初めて取り上げられ、2005年の「世界サミット(国連首脳会合)」の成果文書では「すべての人々が、自由に、かつ尊厳を持って、貧困と絶望から解き放たれて生きる権利」と明確にされた。

シャピロ氏は、「HS4Aは、これまでに前例のないグローバルな課題を抱える中で、技術革新によって人の安全保障や人権をどのように守ることができるかを示すものだ」と説明する。「テクノロジーを使って利便性や物事の楽しさを追求するだけではなく、食料や水の安全、気候変動やエネルギー、医療や人権、ダイバーシティに至る地球規模の課題解決を目指すものに役立てていく。このミッションに一緒に挑みましょう」と呼びかけていた。

CES 2023では、ロボティクス、モビリティ、スマートシティ、メタバースといった先端技術を示すキーワードと共に、「サステナビリティ=持続可能性」が大きなトレンドとなっていた。

その中で、シャピロ氏の語った「万人のための人間の安全保障」への取り組みとは、それこそが「持続可能性」への取り組みであるとあらためて認識させられるものであった。置き換えればSDGsが理念としている「誰一人取り残さない」世界に向けて、テクノロジーへの期待を込めたメッセージだったのではないだろうか。

文:遠竹智寿子
フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員

トップ画像:iPhotostock.com/metamorworks
編集:タテグミ

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