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カーボンアカウンティング担当者の負担を減らすセールスフォースの「Net Zero Cloud」

2022年3月9日、セールスフォースは企業における環境データの収集・分析・報告を推進・支援する「Net Zero Cloud」の日本での提供を開始した。同サービスを紹介するとともに、カーボンアカウンティングについて考える。

環境データの収集・分析・報告を支援

多くの企業がサステナビリティ活動の一環としてカーボンニュートラルを意識し、その取り組みを経営目標に盛り込もうとしている。しかし、成果を具体的な数字として示すのは簡単ではない。

ある事業活動がどれだけ温室効果ガスの排出や削減に寄与したかを算定・集計する取り組みは「カーボンアカウンティング」と呼ばれる。

社内のあらゆる事業、サプライチェーンのパートナー企業の活動までが対象となると、全体の把握には膨大な労力がかかる。その課題を支援するのがセールスフォースのクラウドサービス「Net Zero Cloud」だ。

Net Zero Cloudは、環境データの収集・分析・報告とサステナビリティ経営の実現を支援する。その起源は、セールスフォースが自社の取り組みのために開発したツールで、その効果の高さから社外にも展開した。

カーボンアカウンティングの全体像

Net Zero Cloudは、温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)の排出量を策定報告する国際的基準「GHGプロトコル」に基づいて算定業務を支援する。GHGプロトコルでは、対象となる排出量の範囲が以下の3段階に設定されている。

  • スコープ1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出量(燃料の消費)

  • スコープ2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出

  • スコープ3:企業のサプライチェーンからの間接的な排出(出張や輸送など)

カーボンアカウンティングの全体像
(出所:セールスフォース)

※「カーボンニュートラル」と「ネットゼロ」は似た言葉として使われるが、GHGプロトコルの視点で見るとカーボンニュートラルはスコープ1と2まで、ネットゼロはスコープ3までを含むという違いがある。

近年、スコープ1と2だけでなく、3まで含めて削減に取り組もうとする動きが加速している。

例えば出版・メディア事業が中心のインプレスグループの場合、スコープ1や2の排出量は大したものではないかもしれない。しかし、紙の雑誌や書籍の場合は、製紙・印刷・製本・保管・配送といったサプライチェーンによる活動から多くの温室効果ガスを排出する可能性がある。そこまで意識して取り組もうというのがネットゼロの考え方だ。

アップルは、2018年に全世界における自社の事業活動で使用する電力の100%再生エネルギー化を達成した。現在は、2030年までに自社製品の製造パートナーを含めた脱炭素達成を目標に掲げている。この要請を受けたサプライチェーン各社は、アップルとの取引を維持するためにカーボンアカウンティングに取り組まなければならない。その中には日本企業も含まれる。

また、2022年4月4日に東京証券取引所の株式市場が再編されるが、プライム市場の上場企業は気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿ったリスク情報の開示が義務づけられる。他にも、有価証券報告書での開示・義務化も検討されているという。

SDGsやサステナビリティ活動は、企業のイメージアップやブランディングと捉えられることもあるが、前述の状況にある企業にとっては義務である。そして将来的には、「やりたい企業がやればいい」「できる企業がやればいい」というものではなくなりつつある。

負担の大きいカーボンアカウンティング業務

カーボンアカウンティングの担当者は、他部署の担当者とコミュニケーションを取り、さまざまなツールとシステムを往復しながら正確なデータを集める。生産部門、調達部門、経理部門、営業部門、開発部門など、データの所在は多岐にわたる。さらに、これらをサプライチェーンの関係企業に対しても行う。

何とか算定データを集められたとして、その報告先も多種多様だ。これだけを見ても、いかに手間がかかって負担の大きい業務であるかが想像できるだろう。

一般的な温室効果ガス排出量管理(カーボンアカウンティング)の全体像
左側は活動や燃料データの収集などのインプット、
右側は報告先に対する提出や抽出などのアウトプット
(出所:セールスフォース)

データ可視化に加えて実現に向けた提案も

Net Zero Cloudは、以下を提供することでカーボンアカウンティング業務の課題を解決する。

  1. 包括的かつ容易な環境データの管理

  2. 温室効果ガス排出量の削減のための動的な分析

  3. 目標の達成に向けた改革

  4. エコシステム全体の脱炭素化

企業がネットゼロを実現するためのダッシュボードとして、すべてをワンストップで把握・管理できる。単なるデータの可視化だけでなく、具体的なアクションにつながる機能が備わっているところも特徴だ。

例えばサプライチェーンに関しては、状況把握だけにとどまらず、Slackを使って相手企業の担当者と迅速にコミュニケーションを取ることで課題を解決する機能もある。

また、「3. 目標の達成に向けた改革」として、どのようなオフセットを購入すべきか提案する機能もある。純粋な削減には限界があるが、オフセットを購入することでCO2排出を相殺できる。

他にも、削減につながる従業員の行動計画やそのためのトレーニング機能などを備えており、カーボンアカウンティング担当者の負担軽減はもちろん、組織全体にとって良い影響が得られるソリューションと言えるだろう。


文:仲里 淳
インプレス・サステナブルラボ 研究員。フリーランスのライター/編集者として『インターネット白書』『SDGs白書』にも参加。

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