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ブロックチェーン活用で森林由来J-クレジットの創出・流通促進――野村総合研究所が山形県鶴岡市の森林組合、自治会らと

野村総合研究所(NRI)は、森林由来J-クレジットの創出・流通促進の取り組みを2024年1月1日から開始した。日本の森林資産の有効活用を通じて環境負荷の軽減と地域社会の活性化を図るものであり、第1弾は山形県鶴岡市で実施される。情報の信頼性向上のためのブロックチェーン技術の活用が特徴となっている

森林資源の課題と「森林由来J-クレジット」の役割

日本は約2500万ヘクタールという広大な森林を有しているが、木材需要の低迷や人手不足などの問題から放置林が増え、老齢林の割合が増加し、炭素吸収量が減少する傾向にある。この課題に対する施策として国が力を入れているのが「森林由来J-クレジット」である。これは、省エネルギー設備の導入などによる排出削減量や吸収量を認証するJ-クレジット制度の一種で、適切な森林管理によるCO2吸収量を国が認証する制度である。環境省、経済産業省、農林水産省が運営している。

社会課題――森林資源に関する価値低下の悪循環 出所:NRI
J-クレジット制度の仕組み 出所:NRI

森林由来J-クレジットの活用によって、炭素吸収量を増加させるだけでなく、国土保全、水源の涵養(かんよう)、生物多様性の保全、林産物供給といった森林の持つ多面的な機能の効果も期待されている。しかし、これまでに森林由来J-クレジットの創出対象となっている森林面積は10万ヘクタール以下にとどまる。創出要件である森林経営計画作成済みの森林面積が約500万ヘクタールであるため、さらなる創出の可能性がある。

森林由来J-クレジットの創出対象面積とさらなる創出余地 出所:NRI

申請書作成の効率化とブロックチェーン技術の活用

森林由来J-クレジット創出に当たっては、要件を詳細に理解した上で登録対象の林地の情報を記入した申請書を提出する必要があるが、申請書作成の負荷が高いことが障壁となっている。さらに、最短でも8年の認証対象期間および10年の永続性担保期間という長期にわたる信頼性確保の仕組みが求められる。

この障壁の高さを軽減するためにNRIが試みるのは「申請書の自動作成による手続き効率化の仕組み」と「CO2吸収量等の情報をブロックチェーンに記録する基盤の構築」である。

NRIが目指すJ-クレジット創出・流通プロセス 出所:NRI

今回、NRIは、森林由来J-クレジット創出・流通促進に向けての取り組みの第1弾として、山形県鶴岡市の温海町森林組合、鶴岡市三瀬地区自治会、佐藤工務とともに、森林由来J-クレジット創出の手続きを開始した。2024年度中にプロジェクトの登録完了を目指している。

山形県鶴岡市内の森林組合、自治会、工務店とともに、森林由来J-クレジット創出の手続きを開始
出所:NRI

NRIは、2024年度創出分の森林由来J-クレジットの買い取りも行うことになっている。対象となる林地は、鶴岡市内に位置する2つの林地で、それぞれ約50ヘクタールとなる。認証対象期間は2024年度から2031年度までを見込んでいる。

森林由来J-クレジットは、環境保護と持続可能な森林経営を促進する上で鍵となる制度だが、農林水産業者や地域の森林組合が積極的に活用するには、さまざまな課題があった。しかし、これらをデジタル化やブロックチェーン技術の導入によって解消できれば、市場参加者による信頼性も向上し、取引が安心して行える環境が整うことになる。今後に大きな期待が寄せられる事例である。

文:遠竹智寿子
フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員

トップ画像:iStock/Petmal
編集:タテグミ

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