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SDGs達成への中間地点:現状と展望――「GSDR 2023とSDGs – 2030 アジェンダ後半のビジネス変革に向けて」開催

3月1日、国連大学ウ・タント国際会議場にて、シンポジウム「GSDR 2023とSDGs – 2030 アジェンダ後半のビジネス変革に向けて」が開催された。国連大学と慶應義塾大学SFC研究所xSDG・ラボが主催した本シンポジウムは、2023年のSDGサミットの成果と、「持続可能な開発に関するグローバル・レポート(Global Sustainable Development Report 2023」(GSDR 2023)の洞察を深めることを目的とし、ビジネスリーダーたちがこれらの知見を具体的な行動に反映させる方法について議論した。

国連はSDGs目標達成に向けたAIの積極的な活用を支持

国連大学学長のチリツィ・マルワラ氏による基調講演では、「持続可能な開発と人工知能(AI)」に焦点が当てられた。同氏は、AIが持続可能な未来を実現するための強力なツールであると述べ、国連がSDGs目標の達成に向けた積極的なAIの活用を支持することを明らかにした。一方で、AIの開発と利用には倫理的な配慮が不可欠であり、国際的な協力が必要であると指摘した。

マルワラ氏は、AI技術が教育や経済の発展に寄与する可能性について、SDGs目標と対比しながらの説明を行った。発展途上国における、不平等を拡大せずに成長を促進させる可能性や、都市環境の改善や社会課題の解決にも役立つこと、そして、適切なガバナンスとセクターを超えた連携の必要性が語られた。最後に、SDGs達成に向けて、政府、ビジネス、学術界、市民社会が協力し、AIの可能性を最大限に生かす必要があるとも論じていた。

国連大学学長 チリツィ・マルワラ氏

GSDR 2023に見るSDGsの現状と展望

続いて、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授で、xSDG・ラボ代表の蟹江憲史氏が、「後半戦のゲームチェンジャーを求めて:持続可能な開発のグローバル報告書からのメッセージ」と題する基調講演を行った。GSDR 2023の共同執筆者の一人である同氏からは、2030年SDGs達成の中間地点となる現状の厳しさとともに、変革の必要性とその道筋が語られた。

SDGsの232指標のうちデータが取得可能な36指標を見ると、目標達成が確実なのはわずか5つで、全体の15%にすぎないという現状が示された。また、気候変動、パンデミック、戦争などの複合的な要因により、特に環境や人権目標が後退してしまったとの説明がなされた。

蟹江氏は、この状況から脱するには変革が必要であると指摘し、ゲームチェンジャーになるためには、データの活用、新たな行動の展開、スケールアップの3つが重要な鍵であると述べた。この中で、AIやIoTなどの技術を活用したデータ融合の必要性、“SDGsウオッシュ”ではなく変革を着実に進める姿勢、基準の確立や普及が必要であるといった内容が語られた。さらに、蟹江氏は、これら変革に向けて、科学がシナジーを生み出し、トレードオフをなくすための重要な役割を担っていることを強調した。

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授 / xSDG・ラボ代表 蟹江憲史氏

パネルディスカッションには、日本航空、トヨタ自動車、シティグループ、リコーの役員たちがパネリストとして登壇。ジャーナリストの国谷裕子氏がモデレーターを務め、企業のSDGsとの向き合い方や具体的な変革の様子、今後の課題などについてディスカッションが行われるとともに、聴講者からの質問も受けるなど活発なものとなった。

パネルディスカション「2030アジェンダ後半のビジネス変革に向けて」

※本シンポジウムの詳細は、年鑑書籍『SDGs白書』の本年度版に掲載を予定しています。

文:遠竹智寿子
フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員

写真:渡 徳博
編集:タテグミ

インプレスホールディングスの研究組織であるインプレス・サステナブルラボでは「D for Good!」や「インターネット白書ARCHIVES」の共同運営のほか、年鑑書籍『SDGs白書』と『インターネット白書』の企画編集を行っています。どちらも紙書籍と電子書籍にて好評発売中です。