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序章

ベートーヴェン交響曲第7番イ長調作品92。

次回の定期演奏会のメイン曲。この半年間、練習するたびに、ベートーヴェンの魂に触れ、生きている喜びを実感する。

出会いは『のだめカンタービレ』のはるか前、1989年頃のことだ。浪人していた僕は、予備校に行く間も勉強する間も、ウォークマンを手放さなかった。
当時はアップルミュージックもスポティファイも無く、たまたまいつもと違う曲が聞きたくて、たぶんNHKラジオを録音していたカセットテープを、ウォークマンに入れた。
ベートーヴェンピアノ・ソナタ第23番ヘ短調作品57が耳に流れ込む。脳天を突かれた。全身が痺れた。放心のまま裏面に突入、それが交響曲第7番だった。衝撃だった。

僕は子どもの頃からピアノを習い、ベートーヴェンは『皇帝』と『田園』をよく聴いていた。それでも1980年代に自意識が芽生えると洋楽、特にコンテンポラリーやオルタナティブ、ミュージカルに傾倒していく。
そのカセットテープは、クラシックなのに、ロックだった。それから、毎日3回、歯磨きするよりも多く、大音量で聴きながら、頭を振った。縦ノリだ。

交響曲第7番を練習するたび、あの頃よりさらに深い森を彷徨い、前に進もうと抗う。書こう書こうと思いながら、下手に書きたくない、という思いで逡巡した。
あのカセットテープの『熱情』を弾いたイタリアの巨匠。昨日、ポリーニが82歳で亡くなった。これを書こうと思った。今しかない。鎮魂歌である。

今の自分しか書けないことを、書いてみようと思う。

R.I.P

2024.03.24.

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