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【2/11】結石と龍涎香

1〜22、26〜28、33、35、41〜51、53、58〜64、66、67、69、72、73、78、82〜84、87、89、90、93〜98、101、106、107、110〜112、114、130、132〜135……と、この数字の羅列はいつかのための読書メモ。全135章(+エピローグ)からなるハーマン・メルヴィルの『白鯨』は、「鯨学」の章に多数のページを持っていかれているため、前から順にただ読んでいると話の筋を追いにくくなって頭がドッカンするというのが1回目読了後の反省。もしも次に読む機会が訪れたら、自分で書いたこのnoteを引っ張り出し、上の数字を意識しながら「N(=Narrative)」の章をまず追うことにしたい。

あと、登場人物の1人である一等航海士のスターバックはあのスターバックスの名前の由来であるという話を小耳に挟み「へえ〜」と無邪気に感心していたが、10年前に読んだ本を読み返していたらバリバリ普通にそう書いてあった。人間なら誰だって、興味のないことは多かれ少なかれすっ飛ばしてしまうものだ。うん、10年前の私はスターバックスにカケラも興味がなかったんだな。今なら、立派なカフェイン中毒なのでコーヒーに関することならけっこうなんでも興味あるんだけど。

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そんな『白鯨』を読んでいたら、昨年末に訪れたメゾン・エルメスの『「ベゾアール(結石)」シャルロット・デュマ展』を、なんとなく思い出した。

どこでどう繋がったんだ!? としばらく自分でも謎だったんだけど、たぶん「結石」と「龍涎香」で繋がったんだろう。えーと、細かいことをいうと龍涎香ってつまりクジラの結石? なので、「結石と龍涎香」っていうと同語反復的なバカなタイトルになる?? のだけど(←あんまわかってない)、シャルロット・デュマ展で見たあの白くてまるいつるつるの結石を、『白鯨』の最終巻のページを閉じたときになんとなく思い浮かべた。人間の腸にできる結石はなんつーか茶色っぽくてあんまり「キレーイ♡」とは思わないけど、展示で見た馬の結石は白くてまるくてつるつるで、たしかに神秘的と捉えられなくもない。捉えられなくもないけど、やっぱり結石は結石だし、『白鯨』を読んでいても、クジラの結石がいい香りがするだなんてよく発見したな人類……と思う。「世のごりっぱな紳士淑女が病んだ鯨の不浄な腸内から採取された香料を嬉々として身につけているなどと、いったいだれが想像するだろうか!」(『白鯨 下』岩波文庫、p.41)と小説にあるけど、ごもっともである。でも、私も龍涎香(アンバーグリス)の香りってすごく好きなんだから、困ったものだ。まあ、現在は捕鯨が禁止されているため、私が好きなアンバーは龍涎香に似せて作った人工香料だけど。

(※白くてまるいつるつるの結石は、動画を再生すると出てくる)

ところで最近、私の好きな女性作家はたいてい、ものすごく動物好きであるという共通点に気がつく。それも犬猫ではなくちょっとヘンな動物を飼っていて、たとえばカブトムシだとか、パナマボウシインコだとか、カメだとかを飼っている。憧れる人のことはなんでも真似してみたいと思う私だけど、自分は動物とはほとんど縁がない人生で、観葉植物を育てるのがギリ。「いま住んでるアパートがペット禁止だから」とかではなく、普通に虫とか鳥とかあんまり飼いたくないなと思う(鳥は、文鳥とか見るのは好きだけど。見るだけなら……)。でもシャルロット・デュマ展を見て、そうだ、馬はかわいいなと思ったんだった。私がもう少し富裕層だったら趣味を乗馬にしたかったな〜。

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『白鯨』を読んでの批評みたいなものは私の技量を超えているのでできないのだけど、読み終わって頭に浮かべたことは、龍涎香のことと、シャルロット・デュマ展で見た白くてまるいつるつるの馬の結石のことと、それから「世界は有限である」ということだった。クジラの体内に結石ができる仕組みはまだはっきりとわかっていない部分もあるらしいが、それはそれとして、世の中の大部分は説明ができるのではないかという気分になった。

もちろん、人間の脳ですら未解明なところがたくさんあるのだし、科学で説明できないことなんてまだまだ盛りだくさんである。それに、「世界は有限である」=「世界は人類の手中におさめられる」「支配できる」みたいなほうに進むと、悪い意味でのアメリカ的な思想になってしまいそうだ。私が『白鯨』で感じた「有限」ってそういうことではなくて、世界のすべてを無駄なく使いましょう的な、そういうニュアンスである。

やらせ問題で放送終了してしまった『クレイジージャーニー』で、佐藤健寿さんがロシアの北極圏に住むネネツ族を取材した回があった。ネネツ族はトナカイを狩ってその皮を剥ぎ、毛皮は防寒着にするし肉と血は食料にするし腸はソーセージにするし内臓は犬のエサにする。血の1滴も無駄にしないその様子に、私は「世界と、そして生き物と、私はこういうふうに対峙していきたい」と思ったんだった、そういえば。

世界のすべてを無駄にしないこと。世界は有限であること。白くてまるいつるつるの結石を思うこと。龍涎香と『白鯨』。私の中では、すべて繋がっている。とてもゆるく、だけど。

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